7.「vs公爵令嬢ロロシィス(剣魔闘大会)」
「ジョギングデートですね」
「ああ、そうだな」
〝剣魔闘大会〟当日の朝がやってきて、俺はレイティと一緒に、自分たちの住むローズマイルズ領から、東隣の国王直轄領土の中央にある王都コルニロットまで、高速で走っていた。
本来は馬車で一日掛かる距離なのだが、俺が本気で走れば音速を余裕で超えるので、一分も掛からずに着く。が、彼女はそこまで速く走れないので、ペースを合わせて一緒に走って、一時間ほどで着いた。
会場となる巨大な円形の闘技場――コロシアムへと歩いていく中で、恐らく観客であろう他の者たちの声が聞こえてくる。
「勇者が出るんだと。ま、勇者って言うなら、優勝くらい簡単にしてもらわないとな」
「そうよね。世界を救う存在とか言われてるんだから、そのくらい出来て当然よね」
「覚えてるか? うちの村がモンスターの大群に襲われた時、報告を受けた勇者が村にやってくるのに、結構時間が掛かっただろ?」
「そうそう。勇者なんだから、もっと早く来なさいよって思ったわ」
「しかも、モンスターどもを倒すのにも結構手間取ってただろ? ああいうの見ちゃうと、勇者の癖にその程度かよって、白けちゃうよな。今日はサクッと倒して欲しいもんだ」
「全くよね」
……聞かなかったことにしよう。
なお、勿論レイティは出場しないのだが、是非とも俺の応援に行きたいとのことで、一緒に来てもらった。俺としても、愛妻が応援してくれるなら、普段以上の力が出せると思うし、ありがたい。
この調子で、〝剣魔闘大会〟で優勝して賞金を獲得することで、俺が衝撃波で半壊させてしまった我が家を直すのに父さんが支払った分を、返すんだ!
と思っていたのだが。
《警告します。〝氷でグサグサ串刺しバッドエンド〟の破滅フラグが立ちました》
「オーホッホッホッホ~! 今日こそ貴方をぶっ殺して差し上げますわ! スピッド・フォン・ローズマイルズ!」
まさか一回戦で当たるだなんて……
闘技場の石造りの円形の舞台上で高笑いをする、黒いローブ姿のロロシィスに、俺は頭を抱える。
幼少時代に身体を登っちゃった――というか、胸を触っちゃった相手だしな。
しかも、プロポーズっぽいのを断って、怒らせちゃったし。
どうしたもんか……
とにかく、出来ればこれ以上怒らせることのないように、出来るだけ神経を逆撫でするようなことは避けて、穏便に――
「ス、スピッドさま~! 頑張って~!」
レイティの声が響く。
「さ、叫べました~! スピッドさま~!」
観客席で、嬉しそうに両手をブンブン振るレイティを俺は見上げる。
事前に「応援も頑張りたいです!」「恥ずかしさに負けずに叫びたいです!」と言っていた彼女が、有言実行したのだ。
うん、良く出来たな、レイティ!
レイティは何も悪くない。何も悪くないのだが。
「へぇ~? 殺し合いの場に新妻を連れてきたんですのね~? もしかして、観光気分ですの~? 私との決闘なんて、観光の片手間で出来るとでも言いたいんですの~? そりゃそうですわよね~。振った女との決闘なんて、貴方にとってはその程度の重みしかないですわよね~?」
「いや、そういうつもりじゃ……っていうか、殺したら失格だから、出来れば殺さないで――」
「うるさいですわ! ぶっ殺しますわ! 『アイシクル』!」
問答無用と言わんばかりにロロシィスが片手を翳すと、一本の氷柱が虚空に出現、勢い良く飛んでくる。
「よっと」
「!」
俺はそれを余裕で回避する。
「避けるんじゃないですわ! 『アイシクル』!」
「無茶言うな」
なおも俺が避け続けると、「こうなったら!」と、ロロシィスが両手を翳す。
「『アイシクルレイン』!」
無数の氷柱が空中に現れて、一斉に飛翔する。
「回避出来るものならしてみなさい! オーホッホッホッホ~!」
俺は「確かにちょっと多いな」と呟くと。
「ほいっと」
ゴオオオオオオッ
「なっ!? 最上級氷魔法を、そんな容易く!?」
足を速く動かすことで衝撃波を生み出し、数多の氷柱を全て吹き飛ばした。
ちなみに、この舞台と観客席の間には、ドーム状に透明な防御魔法が掛けられており、攻撃魔法などによる観客席への被害を防いでくれる。
っていうか、最上級氷魔法だったのか。
何だかんだ言って、すごいなこの子。
「お前には色々と酷いことをして、本当に悪いと思っている。でも、この勝負はまた別の問題だ。だから、勝たせてもらう」
俺が少しだけ足を速く動かすと、怪我をさせない程度に調整された暴風が巻き起こり、ロロシィスに襲い掛かる。
「くっ! 『アイシクル』!」
生み出した氷柱を、しかし俺には飛ばさずに、石造りの舞台に突き刺すロロシィス。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
身体が浮き上がった彼女は、吹き飛ばされそうになるのを、地面に突き刺した氷柱に捕まることで何とか耐える。
「ただ足を速く動かすだけでこれだけの暴風を発生させるだなんて、規格外にも程がありますわ!」
「! 知っていたのか……」
どうやら、彼女は俺の暴風と衝撃波のカラクリを知っているらしい。
「流石はストーカー……じゃなくて、ロロシィスだな!」
「喧嘩売ってますの!?」
俺が追い打ちで更に足を少し速く動かして暴風を発生させるが、「ぐぬぬぬぬぬぬ! 負けませんわああああああ!」と、意外としぶとい。
「『アイシクルレイン』!」
苦し紛れに放たれた幾多の氷柱も、俺の衝撃波によって防がれる。
「もういっちょ」
「ぐぬぬぬぬぬぬ! ま、まだまだああああああああああああ!」
更なる追い打ちすらも、ロロシィスは耐える。
いや、凄過ぎないか?
「何でそこまで……?」
思わず声が漏れる。
「知っていますのよ! 貴方が、死の運命を覆すために、十年間必死に努力を重ねていたことを!」
「!」
必死に暴風に抗いながら叫ぶ彼女の声に、俺は目を見開く。
「最初は、胸を触られたことで怒り狂っていた私は、貴方のことを毎日調査して、恥ずかしい場面を目撃したら、全世界に言いふらしてやるつもりだったのですわ!」
「おい」
「でも!」と、ロロシィスの声が一際大きくなる。
「貴方は、自らの定めを呪うでもなく、嘆き悲しむでもなく、ただ毎日トレーニングして、立ち向かった! 何倍何十倍何百倍もの重力を自らの肉体に掛けて、文字通り地面に這い蹲いながらも、歯を食い縛って抗い続けた!」
「………………」
「その姿を見て、私も……私も頑張ろうって、思ったのですわ! 私は身体を鍛えたりは出来ないけど、魔法だったら頑張れるって思って! この十年間、毎日魔法の特訓をして! 最上級氷魔法も発動出来るようになったのですわ!」
……正直、ロロシィスのことを舐めていた。
ここまですごい人だとは思わなかった。
「貴方が十年間の努力に自信と誇りを持っているように、私も簡単には負けを認める訳にはいきませんわ!」
必死に暴風に耐える彼女が、滅茶苦茶格好良く見える。
「ロロシィス。お前はすごい奴だよ。俺はお前を尊敬する」
「え!? じゃあ、今すぐあの子とは離婚して、私と再婚を――」
「いや、それは無理」
「何でですのおおおおお!?」
俺は、観客席のレイティを一瞥すると、ロロシィスの方に向き直り、「悪いな。お前には絶対良い人が見付かると思うし、きっと幸せになれると思うから」と言いながら、暴風を更に強くした。
「俺を十年間見守ってくれてありがとう! 影響を受けたって言ってくれてありがとう! 嬉しかった!」
「乙女を吹き飛ばしながら言う台詞じゃありませんわああああ! しかもすごく良い笑顔でええええええ! きゃあああああああ!」
スポンッ
とうとう氷柱から手が離れて吹っ飛んだロロシィスは。
スポンスポンスポンッ
場外に落ちて、失格となったのだが。
「……フフッ。笑っちゃうくらい強いですわね。流石、私が惚れた男ですわ。仕方がないですわね。今日は私の負けですわ」
地面に座ったまま、穏やかな笑みを浮かべるロロシィス。
観客席から「おおおおお!」「見に来て良かった!」と、男たちの声が上がって。
「……何か騒がしいですわね?」
怪訝な顔をした彼女に近付いた俺は、目を逸らしながら、手にした〝それ〟を差し出した。
「早く隠した方が良いぞ?」
「……きゃあああああああああああああああああああああ!」
先程の暴風で、勢い余って黒ローブ――どころか上下の下着も靴も靴下も全て脱げていた彼女は、バッと俺の手から黒ローブを奪い取り、裸体を隠すと。
「絶対にぶっ殺してやりますわあああああああああああああ!」
目に涙を浮かべ、顔を真っ赤にして、怒号を上げた。
※―※―※
その後、順調にトーナメントを勝ち上がった俺は。
《警告します。〝雷撃でビリビリバッドエンド〟の破滅フラグが立ちました》
「あんた、強いっすね! でも、自分の聖鎧には、あんたの〝風〟は効かないっすよ!」
決勝で、女勇者リリレと戦うことになった。
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