6.「世界最速を目指すようになったきっかけ」
時は少し遡って。
〝剣魔闘大会〟前日の夜。
「母さん! 母さん! 俺のせいだ……! 俺が優勝出来なかったから! うわあああああああああ!」
目が覚めると、俺は天蓋付きの豪奢なベッドの上にいた。
滝のように汗を掻いている。
「すぅ……すぅ……」
すぐ傍には、レイティが寝息を立てている。
「夢か……」
レイティが俺に抱き着きながら寝ている時は見ないのだが、恐らく固有スキル〝抱擁〟のおかげで悪夢を見ないでいられるだろう。
寝ている間ずっと抱き着いたままというのは難しい。
お互い寝返りも打つしな。そうすると、今みたいに、身体が離れることになり、悪夢を見ることもある、ということだ。
「別に良いけどな……悪夢には慣れているし」
前世で、母親は病弱で、ずっと入院していた。
中学時代、陸上部だった俺が「県大会で優勝したよ!」と報告する度に「まぁ、すごいわね!」と驚き、優しい笑みを浮かべて母親が褒めてくれるのが嬉しかった。
「俺が全国大会で優勝する! そしたらきっと、母さんの病気も治るから!」
「ありがとう。私も頑張るわ」
何の根拠もなかったが、俺が全国で優勝すればと、本気でそう信じていた。
「くそっ!」
しかし、強いライバルがいて、全中(全日本中学校陸上競技選手権大会)の100m決勝は準優勝で終わった。
ショックでメッセージも出来ず、電話も出来ず、意気消沈しながら病院に向かうと。
「嘘……だろ……!?」
母親は死んでいた。
「俺が優勝出来なかったからだ! 俺のせいだ!」
それからは、気が狂ったように練習し始めた。
否、練習ではなく、〝苦行〟と表現した方が良いかもしれない。
とにかく、毎日、ひたすら自分を追い込み続けた。
それまでも一生懸命練習していたつもりだったが、母の死を経てからは、「以前の俺は甘ったれていた」「あんなものは、〝普通の人間〟の練習だ」、と自ら断じた。
その結果、ライバルを倒し、全国大会で優勝することが出来た。
が、その時の俺にとっては、既にそれは単なる通過点となっていた。
高校入学後も全国大会で優勝はしたものの、それは当たり前のことで、俺は夜中に、〝人気が無いが、そこに現れる自転車やバイクや車は全て、どちらが速いかと競争してくれる〟と噂の道に行っては、自転車、原付と勝負して勝利し、しかし中々バイクや車には勝てず、苦戦して、ということを繰り返していた。
まぁ、今思えば、俺を轢き殺そうとする女神の罠だったのかもしれないが。
とにかく、その頃にはもう、「俺は人間を超える」と豪語し、〝誰よりも、何よりも速く走る〟ことを目標に生きるようになっていたのだ。
「でもまぁ、今では、もう一つ、別の理由が出来たけどな」
俺は、「すぅ……すぅ……スピッドさまぁ……」と、寝言を呟くレイティを見て微笑んだ。
ちなみに、可憐な少女にしか見えない彼女だが、十倍どころか、現在は百倍の重力下でのトレーニングも難無くこなしている。三年掛かった俺とは大違いだ。
しかも、肉体を鍛えたことが功を奏したのか、それに伴って固有スキル〝抱擁〟のレベルが999へと上がったのだ!
どのような効果があるのか全く分からないが、とにかくすごい!
「〝無能〟な訳があるか。お前は才能溢れるすごい子だよ、レイティ」
顔に掛かっている茶色でウェーブが掛かったロングヘアを少しずらして、俺が頬にキスすると、「……えへへ……」と、彼女は眠ったまま微笑んだ。
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