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5.「vs盗賊団」

「お、お頭! この威力……今のはきっと〝最上級風魔法〟ですよ!」

「ど、どうするんですか!?」

「こ、公爵家のガキがこんなに強いだなんて、聞いてませんよ!」

「う、狼狽えるな! こっちには人質がいるんだよ!」


 浮足立つ盗賊団頭領のアブナダップと部下たち。


 左手にいる奴らと右手奥の床に転がされているレイティ、そして俺という三者の位置を結ぶと、丁度正三角形が描けるような位置関係だ。


 まさか俺がこんなに早く来るとは思っていなかったらしく、レイティの傍には誰もいない。


 俺は、彼女を誘拐したならず者たちに警告した。


「動くな」

「ああ? そりゃこっちの台詞だ! 見えてねぇのか? てめぇの愛しの嫁は、俺たちの人質になってんだよ! 動くんじゃねぇ!」

「もう一度言う。動くな。動いたらお前たち全員、即座に最上級風魔法で殺す」

「「「「「!」」」」」


 無造作に手を翳すと、がたいの良い盗賊団の荒くれ者たちが、一斉に青褪める。


 せっかく〝風魔法〟と勘違いしてくれているんだから、最大限に活かそう。


「レイティ。遅くなって悪かった。今すぐ助ける」


 そう呼び掛けると、彼女は「んんッ!」と、首を横に振った。


 もしかして、自力で何とかしたい、と思ってるのか?


 一旦彼女の方に移動しようと動き出したものの、レイティの意思を尊重して、一歩踏み出しただけで止めると。


「う、動くなって言ったよなあああああ!」


 どうやら、明らかに戦力的に上の俺を目の前にして精神的に一杯一杯になっていたらしいアブナダップの部下の一人が、レイティに向かって弓を引いて矢を射った。


「ヒャハハハハ! ざまぁ見ろ――って、あれ?」


 が、その矢は永遠にレイティには届かない。何故なら。


「どこ狙ってるんだ?」

「何でお前が持ってるんだよ!?」


 俺の手元にあるからだ。

 無論、俺はただ高速でレイティの前に移動して、あまりにも遅いスピードで飛翔する矢をキャッチして、また元の場所に戻ってきただけだ。


 ちなみに、街中を移動した時と同じように、音速は超えているが、衝撃波が出ないように調整している(最近調整出来るようになったのだ)。


「た、多分、手元が狂ったんだ! 今度こそ!」


 弓矢使いが再び矢を射出するが。


「余程腕が悪いようだな」

「はぁ!?」


 やはり矢は俺の手中に移動した。


「ケッ! 偶然矢が逸れただけで良い気になるなよ? 俺様のナイフはそうはいかねぇ。〝ナイフ投げのアブナダップ〟とは俺様のことだ!」

「そ、そうだ! お頭のナイフなら!」

「今まで何人もの王国軍兵士や冒険者たちを血祭りにしてきたお頭のナイフ投げなら!」

「ヒヒッ! その通りだ! 食らいやがれ! おらあああああッ!」


 アブナダップが、懐から取り出したナイフをレイティに向かって投げる。

 

 これは……速いのか?

 まぁ、さっきの矢に比べたら、多少マシだが……遅いことには変わりない。

 五十歩百歩だな。


「〝ナイフ投げ〟の通り名は返上した方が良いんじゃないか?」

「嘘だろ!?」


 瞬時に移動した俺は、何の問題もなく空中でナイフを掴んで、元の場所に戻った。


「お、お頭! アイツヤバいですよ! アレ、きっと空間魔法ですよ!」

「そう言えば、通信魔導具で話してたのに、一瞬でここにやって来ましたし! あれ、空間転移魔法だったんですよ!」

「最上級風魔法だけでも十分脅威なのに、空間魔法すら使える化物なんか、普通の人間じゃ逆立ちしても勝てませんよ!」

「だからギャーギャー騒ぐな! 相手はたった一人だ! こっちは三十人だぞ!? 勝てねぇ訳ねぇだろうが!」

「でも!」


 内輪揉めし始めた盗賊団は置いておいて、俺は、恐らく自力で何とかしたいというレイティの意思を尊重しつつも、取り敢えず一瞬で移動してさっき奪ったナイフで彼女の口に嵌められた猿ぐつわを切って、元の位置に戻る。


 ん? っていうか、今の手応え、まだ重力制御指輪が発動し続けていて、レイティは十倍の重力下にいるな。そういや、体重がめちゃくちゃ重いとか、失礼なことをアブナダップが言ってたっけ。


 十倍の過重力に耐えながら何とかするって言うのか?

 出来ればそういう無茶はして欲しくないんだが……


「スピッドさま、申し訳ありません。一人で大丈夫と言った矢先に、このような事態に……」

「いや、それは良いんだ。遅くなってごめんな」

「いえ、とんでもありません!」

「レイティ、さっき首を振ったのは、この状況を一人で何とか切り抜けたい、ってことだよな? しかも、〝その状態〟で。無茶するなよ。俺が助けちゃ駄目なのか?」

「私の失態で、このような事態に陥ったのですから、私が自分の力で何とかするのが筋です。それに、スピッドさまにこれ以上ご迷惑をお掛け出来ませんから……」


 そんな彼女に、俺は「何言ってるんだ?」と言うと、言葉を継いだ。


「俺の〝この力〟は、お前を助けるためにあるんだ。世界のどこにいようが、俺は一瞬でお前を助けにいく。迷惑なんかじゃない。俺は、お前を助けたいから助けるんだ」

「!」


 レイティが目を見開く。


 勿論、以前から抱いていた〝森羅万象、全ての存在よりも速くなりたい〟という想いは変わらない。


 だが、レイティと出会ったことで、何故速くなりたいのか、その理由が一つ増えたのだ。


「またそんなこと言って……スピッドさまはずるいです! そんなこと言われたら、ますます好きになっちゃうじゃないですか……! ……もう、バカ……!」


 頬を紅潮させ、瞳を潤ませながら、レイティが小さく呟く。


 結婚した直後、「同い年だし、そもそも夫婦なんだから、タメ語で喋ってくれ」と言ったのだが、「そんなこと、恐れ多くて出来ません! ……けど、もしその方がスピッドさまは嬉しいと言うのなら……少しずつ、頑張ってみます……!」と反応していた彼女が、ちょっとずつだが砕けた口調になってきたのが、俺としては嬉しい。


「てめぇら何イチャコラしてんだ、あ? この状況分かってんのか? 喧嘩売ってんのか?」


 アブナダップが横から口を挟むが、取り敢えず放置。


「スピッドさまが助けようとして下さるのは本当にすっごく嬉しいです! ……でも、弱いままだと駄目だと思うんです。私も、強くなりたい! だから、どうか、私にやらせてください!」


 本当は嫌だ。だって、〝あんな状態〟で挑むなんて、無茶にも程があるから。

 でも、彼女の目が、とても真剣だったから。


「……分かった」

「ありがとうございます!」


 だが、いざとなったら、俺が助ける。

 後で彼女に怒られようが、それだけは譲れない。


 レイティは、「うううううう!」と、頑張って力を入れる。


「何故か、上手く力が入らないんです!」


 ん?


「上手く身体を動かせませんし」


 あれ?


「なんか、ずっと身体が〝重い〟ですし」


 嘘だよな……?


「まさかとは思うが、レイティ……お前、その指輪を自分自身に掛けたことを――〝自分の身体が何で重くなってるのか〟を、忘れてるのか?」

「あ」


 レイティの顔が真っ赤になる。


 天然だったかぁ。

 いやまぁ、自分の右足と左足が絡まって転ぶような子だから、そりゃ最初から天然っぽかったけどさ。


「まぁ、でも、そんなところも可愛いけど」

「! スピッドさまは、またそんなことを言って!」


 俺と彼女の尊い会話に耐え切れなかったのか、盗賊団の一人が発狂、髪を掻きむしった。


「うがあああああ! 俺の前でイチャイチャするんじゃねぇええええ!」


 何かトラウマでもあるのか、ナイフを手にした男は、レイティに向かって走る。


「あわわわわわわ!」

「レイティ、指輪の解除だ!」


 迫り来る男に慌てるレイティに対して、俺は声を掛ける。


「えっと、指輪の解除、解除……『指輪さん、解除して下さい!』」

「メルヘンか! 可愛いけども!」

「! またそんなことを言って!」

 

 そうこうする内に、「まだイチャイチャするかコラアアアア!」と、男がレイティの眼前に迫る。


「あわわわわわわ! 指輪さん! 指輪さん!」

「レイティ、〝オフ〟だ! 〝オフ〟!」


 男が「死ねえええええ!」と床に横たわるレイティに向けて、ナイフを振り下ろした瞬間。


「〝オフ〟!」


 レイティが指に嵌める重力制御指輪が解除されて、十倍の重力下から解放された彼女は。


「なっ!?」


 一瞬で縄を〝引き千切り〟拘束から逃れ、ナイフを回避しつつ立ち上がり。


「えいっ!」

「ぶべぼっ!?」


 男の頬を思い切り引っ叩くと、男は空中で高速回転を十回した後、床に落ちた。


「「「「「!?」」」」」


 白目を剥き泡を吹いて気絶している男に、荒くれ者たちが呆然とする。


「レイティ! やったな! すごいぞ!」

「やった! やりました、スピッドさま!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ彼女に、俺は目を細める。


「クソガキどもが! もう身代金とかどうでも良い! 二人ともぶっ殺せ!」

「「「「「うおおおお!」」」」」

「「「「「ヒャッハー!」」」」」


 ナイフ、剣、棍棒を持って俺たちにそれぞれ走ってくる盗賊どもを見た俺は。


「レイティ。あとは任せてくれ」

「はい!」


 レイティの眼前に瞬時に移動すると。


「飛べ。俺の大切な人に手を出したことを、深く懺悔しながら」


 ゴオオオオオオッ


「「「「「ぎゃあああああああああああああああ!」」」」」


 足を速く動かすことで衝撃波を生み出し、屋敷を半壊させつつ盗賊団三十人を、全員空の彼方へと吹っ飛ばした。


※―※―※


「あの、本当にありがとうございました! スピッドさま!」

 

 ペコリと頭を下げる彼女を。


「あっ」


 俺は抱き締める。


「あんまり心配掛けるなよ。心臓が止まるかと思った」

「……ごめんなさい……」


※―※―※


 帰り道、二人で並んで歩きながら、レイティはニコニコと上機嫌だった。


「何がそんなに嬉しいんだ?」

「あ……えっと……その……ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに、レイティが頭を下げる。


「スピッドさまにご心配をお掛けしてしまったのは、本当にすごく申し訳なかったのですが……その……初めて抱き締めてもらえたのが、すっごく嬉しくて……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女だったが、気を抜くと笑顔になってしまうらしく、「いけないいけない!」と、パンパンと自分の頬を両手で叩く。


 俺は、息を一つすると、笑みを浮かべた。


「良いぞ、笑っても。心配したのは事実だけど、俺も抱き締めることが出来たのは嬉しかったからさ」

「!」


 許可を得たレイティは、「やったー!」と、ニコニコと満面の笑みで、「嬉しいな~嬉しいな~」と、軽やかなステップで家まで歩き続けたのだった。


※―※―※


「レイティ! 無事でよかった!」


 帰宅すると、父が笑顔で出迎えてくれた。


 ちょっと目に涙が滲んでいる。

 本当に娘だと思ってくれているんだな。


「ご心配をおかけいたしまして、誠に申し訳ございませんでした!」

「なぁに、気にするな。悪いのは全て、あのならず者たちだ。はっはっは~!」


 父が笑い飛ばしてくれるので、空気が重くならず、救われる。


「して、スピッド。盗賊団は?」

「全員、空の彼方へと吹っ飛ばしました」

「やはりか! すごい音がしたからな! よくやってくれた! いくつものアジトを持ち、神出鬼没なあやつらは、ずっと悩みの種だったのだ! おまけに、頭領は凄腕のナイフ投げだったしな。助かった! 礼を言う!」

「いえ、とんでもありません」


 あの盗賊団トップ、そんなすごい奴だったんだ。

 全然そんな風には見えなかったけどな。


 それにしても、レイティが無事で本当に良かった!


 このようにして、誘拐事件は幕を閉じた。


 なお、俺とレイティは、国軍や冒険者ギルドさえも手を焼いた盗賊団を壊滅させたことで、瞬く間に〝最強夫婦〟と噂になってしまった。


 まぁ別に良いけどな。

 レイティが褒められるのは素直に嬉しいし、〝戦闘能力が高い妻〟となると、彼女に手を出そうと考える者が減るだろうからな。


※―※―※


 数日後。


 とうとう〝剣魔闘大会〟当日となったのだが。


《警告します。〝氷でグサグサ串刺しバッドエンド〟の破滅フラグが立ちました》


 トーナメントのくじ引きが行われた直後、サポートシステムのサポの声が脳内で響いて。


「オーホッホッホッホ~! 今日こそ貴方をぶっ殺して差し上げますわ! スピッド・フォン・ローズマイルズ!」


 一回戦の相手であるロロシィスの高笑いが、王都コルニロットのコロシアムに響いた。

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