17.「決着」
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
『アーハッハッハ~!』
レイティの亡骸に縋り泣き続ける俺に、女神の嘲笑が降り注ぐ。
俺のせいで……
レイティ……!
すまない……!
「そんな……嘘……ですわよね……?」
「何でっすか!? 何でこんなことに……!?」
膝をつき呆然とするロロシィスと、泣き喚くリリレ。
俺は……無力だ……
震えながらレイティの頬に触れると。
「!」
映像が脳裏を過ぎった。
初めて彼女と出会った時の光景。
「待ちなさい! そこのオーク!」
敵う訳がない、強大な敵に恐怖で震えながらも、それでも幼女を守ろうとして、挑む彼女の姿が。
そうだ。
俺も、ただ嘆き悲しんでいる場合じゃない。
出来ることをするんだ!
この絶望を打ち破るための行動を!
「速さは全てを凌駕するんだからな!」
俺は、レイティをそっと地面に横たえると、高速で走り始めた。
『そうかそうか、悲しくて走ることしか出来んのじゃな。どこまで行っても陸上バカじゃのう。アーハッハッハ~!』
女神が嘲笑う中、この異世界を――〝惑星〟を一周して荒野へと戻ってくる。
更に加速して。
一秒間に二周。三周。四周。
『――ハッハ……ハ……? いくらなんでも速過ぎないかのう?』
五周。六周。
『いやいやいや、流石にそこで終わりじゃろ? それ以上は――』
七周。そして、遂に――
「女神。俺はお前を許さない。だが、ここでお前を殺しても、レイティは生き返らない。だから、〝あっち〟でお前を殺してやる」
『其方、まさか!? いや、そんなことが出来るはずは――』
八周。光速を超えた俺は、眩い光に包まれて。
「レイティ、待っててくれ! 今から助けにいくからな!」
『や、止めるのじゃ!』
女神の声を振り切って。
「行けええええええええええええええええええええええええええ!!!」
時空を超えた。
※―※―※
気がつくと。
「どうぞ」
「……ちょっとだけですわよ? ん! おいし――じゃなくて、まぁまぁですわね」
「ふふっ。お口にあったようで良かったです」
俺は、岩に座っていた。
すぐ傍で、最愛の女性が微笑んでいる。
レイティ!
レイティがいる!
生きてる!! 生きてる!!!
すぐに抱き締めたい衝動を、涙が溢れそうになるのをグッと堪える。
最優先でやらなければならないこと、それは――
「え!? 何すか急に!?」
リリレが岩に立て掛けている聖剣を無言で奪うと、鞘から抜いて。
「はああああああ!」
「ぎゃあああああ!」
レイティに近付いていた黒い靄に、光速で聖剣を突き刺した。
「スピッドさま、今のは……!?」
聖剣を地面に落とした俺は、レイティを抱き締める。
「ス、スピッドさま!? どうされたんですか?」
突然抱き締められて、レイティが困惑する。
「すまない、レイティ……俺はお前を守れなかった……」
「え?」
「今のは俺を殺した女神だ。アイツにお前が襲われて殺されたんだ」
「でも、私生きてますよ?」
「ああ。お前が死んでしまった後、俺は、光の速度を超えることで、タイムリープして、過去に戻ってきたんだ」
「!」
レイティが目を見開く。
「レイティ……すまなかった……」
レイティは、「そんなことが……」と、戸惑いながらも、俺をそっと抱き締め返した。
「守って下さって、ありがとうございます。スピッドさま」
「…………ッ!」
いかん。
涙が溢れそうになる。
だが、まだ終わっていない。
『何故分かったんじゃ!? 何の兆候も無かったというのに! 其方らの鑑定魔法をいくら使おうが、あの靄が妾だとは見抜けないはずじゃ!』
どこからか聞こえてくる女神の声に、俺はレイティから身体を離し、聖剣を拾って、再び臨戦態勢に入りながら答える。
「あまりにも邪悪なオーラを発しているから、一目で分かった」
『何じゃと!? 至高の存在であるこの女神に向かって! 無礼じゃ! 神への冒涜じゃ!』
「知ったことか。俺はもう二度とレイティを殺させない!」
『何を訳の分からぬことを!』
ロロシィスとリリレが、「何が起こってるのか説明するのですわ!」「この声、女神なんすか!?」と、立ち上がり、警戒心を露わにする俺に倣って、事情を呑み込めないながらも、戦闘態勢に入る。
「前世で俺を殺した女神だ。簡単に言うと、敵だ」
「ざっくりし過ぎですわ!」
「でも、分かったっす!」
ブン
『調子に乗り過ぎじゃ』
「「「「!」」」」
突如、空中に女神の巨躯が現れた。
「はああああああ!」
刹那、俺は聖剣を持ったまま光の速度で跳躍するが。
『無駄じゃ』
「!」
擦り抜けてしまう。
『妾は天界から其方らに語り掛けておるからのう。文字通り、其方ら下賤な者たちとは次元が違うのじゃ。クックック』
「くそっ!」
『ここまで妾を愚弄した不届き者には、罰を与えねばならんのう』と呟いた女神は、無造作に手を翳した。
「がぁっ!?」
「ぐぁっ!?」
「うっ!?」
突然、レイティ、ロロシィス、そしてリリレが胸を掻きむしり、苦しみ始める。
「レイティ! みんな! 何をした!?」
『妾は女神。遠隔で人間を殺すことなど、造作もないのじゃ。其方らのいる世界で言う所の、一種の呪術魔法じゃな』
「!」
『まぁ、同時に数人殺すとなると、異世界に対してそこそこ大きな力を行使することになり、代償として指を一本犠牲にすることになるがのう。本当は最後の手段だったんじゃが、まぁ良い。ここまで妾を怒らせた愚か者には、多少の犠牲を覚悟してでも、報いを受けさせる以外の選択肢は無いのじゃ』
「させるか! はああああああ!」
俺は再度、聖剣を手に光速で攻撃を仕掛けるが。
『無駄だと言っておるじゃろうが』
「くっ!」
何度攻撃しても、女神の映像は擦り抜けるばかりで、ダメージを与えられない。
「がはっ!」
「ぐはっ!」
「がぁっ!」
「!」
レイティたちが大量に吐血、倒れる。
このままだと、全員死ぬ!
『まずは最愛の妻と仲間たちが死ぬ様を見て絶望するのじゃ。じゃが、安心するのじゃ。その後、きちんと其方も殺して、同じ場所に送ってやるからのう。アーハッハッハ~!』
くそっ!
一体どうしたら!?
またタイムリープするか?
いや、同じことだ!
ここで倒せなきゃ、永遠に倒せない!
でも、女神には攻撃が当たらない。
そもそも、ここにいないんだから、どうしようもない。
奴は、こことは違う空間――天界にいるのだから。
「くそっ!」
八方塞がりで、膝をつき地面を叩いた俺は。
「……あ」
左手の中指に嵌めている重力制御指輪が目に入った。
……もしかしたら、これを使えば……?
しかし、そんなことが出来るのか?
いや、出来るかどうかじゃない! やるんだ!
俺は立ち上がった。
「女神。お前は絶対に倒す!」
『威勢だけは良いのう。じゃが、どうするというのじゃ? 其方に出来ることなど、何も無いというのに』
「ある! お前がくれた〝ゴミスキル〟を使えばな!」
『何じゃと!?』
下手すると、一瞬で死ぬけどな……
でも、やるしかない……!
俺は、覚悟を決めて叫んだ。
「一億倍!」
『なっ!?』
「がはっ!」
一瞬、自身に〝一億倍の重力〟が掛かった直後に。
「オフ!」
切断、過重力を消した。
「ぐはっ!」
内臓が拉げて、筋肉・骨が押し潰され、大量に吐血するが。
「……はぁ、はぁ、はぁ……まだ何とか生きてるな……!」
ギリギリ死なずに済んだ。
身体の中身がぐちゃぐちゃになっているが、問題ない。
無理矢理動かせば良いだけだ。
一瞬だが〝一億倍の重力〟により〝ブラックホールもどき〟を発生させたことで。
『馬鹿な……!? 有り得んのじゃ!』
〝空間の歪み〟を生じさせることに成功。
目の前の空間が、一ヶ所だけ、不自然に捻じ曲がっている。
「さぁて。ここに〝世界最強の剣〟を〝光の速度〟でぶち当てたらどうなるかな?」
『や、やめるのじゃ! くっ! こうなったら、其方も呪術魔法で殺――』
「遅い」
そこに光速で聖剣をぶつけると。
「!」
虚空に〝穴〟を開けて、別空間にある〝天界〟――の女神がいる建物内へと侵入。
「よう。久し振りだな」
眼前には、巨躯を誇る女神がおり、明らかに動揺している。
「まさか、本当に来たじゃと!? こうなったら、直接妾が殺してや――」
「だから遅いって言ってんだよ。俺にスピードで敵う奴なんていない。たとえ神でもな」
「!」
光の速さで聖剣を突き立てると。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
流石は女神だけあって、その身体は硬く、突き刺すことは出来なかったが、十分な衝撃は与えることには成功。女神は悲鳴と共に、天界の果てへと吹っ飛んでいき、消えた。
次回(最終回)は、明日の20時過ぎ頃に更新する予定です。
恐縮ですが、何卒宜しくお願いいたします。




