14.「敵軍6000人vs元最弱私兵団100人」
「編制は、弓矢部隊、魔法師団、騎士団が、各二千名です!」
ヴァウスグリア帝国が再度国境の砦を突破したという兵士からの一報を聞いて、父がラトバスに命じる。
「私兵団で迎え撃て」
「了解いたしました」
俺は、「父上、俺も様子を見にいって良いですか? 戦闘には参加しませんので」と、許可を求めた。
「良いだろう。貴様も自分が訓練した兵士たちの戦いぶりが気になるだろうしな」
「ありがとうございます!」
※―※―※
「待たせたな」
「ラトバス団長! 早いですね!」
「私兵団も、こんなに!」
前回と同じ、街の西側に位置する、砦と街の間の荒野にて、監視の兵士たち五名と合流する。
俺のように十秒で、とはいかないが、百倍もの重力下で訓練を積み重ねてきた私兵団は、馬車で一時間の道のりを、三分で走り切った。
誰も馬には乗っていない。
馬に乗る最大の利点は機動力だが、乗れば逆にスピードが遅くなるからだ。
今の彼らは、明らかに馬よりも速い。
ちなみに、ラトバス団長にも同じ地獄の訓練を受けてもらったので、私兵団トップである彼も尋常ではないスピードを獲得している。結構な歳だと思うのに、本当にすごいと思う。
それと、元王国騎士団副団長であり百戦錬磨のラトバス団長が戦えば、その実力故に、かなり有利に事を運ぶことが出来るだろうけど、私兵団団員たちはそれを良しとしなかった。
「自分たちの力だけで戦いたいです!」とのことで、ラトバス団長は彼らの意思を尊重した。
「二倍か……脳筋な考え方だが、正直、嫌いじゃない」
私兵団を見守る俺は、監視の兵士たちと同じく、邪魔にならないように後方の端に寄りつつ、前回よりも兵力を倍増させた敵軍を見る。
こちらを警戒してか、前回よりも遠い三百メートル超西の方向に見えるのは、編制は同じだが数がそれぞれ二倍になった三つの部隊だ。
「弓矢部隊、前へ! 放て!」
馬に乗った巨漢から、前回と同じ声が聞こえる。どうやら同じ司令官らしく、前回の失敗で更迭はされなかったみたいだ。
前回の二倍、雨あられと降り注ぐ二千本の矢。
「抜剣! ローズマイルズ公爵家私兵団〝スピーダーズ〟、前進!」
「「「「「イエス、サー!」」」」」
ラトバス団長が雄々しく叫ぶと。
「何だと!?」
剣を手に持ち、高速で前進する百人の団員たちは、数多の矢を全て回避していく。
「放て放て放て放て!」
焦った司令官が矢継ぎ早に命令を下し、立て続けに弓部隊が矢を射って、空中を飛翔する矢の数が二千、三千、四千と増えていくが。
「そんな馬鹿な!?」
走りながら華麗なサイドステップで、または単に首を傾けて、団員たちは躱す。
「魔法師団、後方から同時に撃て!」
部隊の位置を入れ替えず、更に魔法師団を投入。
火炎・氷柱・水剣・雷槍・岩剣という五種類の魔法、計二千個が、空を飛ぶ四千の矢に加わるが。
「嘘だろ!?」
荒野を縦横無尽に駆ける百人の猛者たちは、時に跳躍し、時に身体を捻り、時に回転して剣で矢を弾き、時に矢をキャッチして投げ返して迫り来る矢を打ち落としつつ、魔法の方は全て回避して、猛スピードで前進する。
戦場に火柱が立ち、氷柱・水剣・雷槍・岩剣が地面に突き刺さるが、私兵団団員たちには決して当たらない。
「訓練の成果が出ているな、良かった」
実は、最後の一週間は、ロロシィスに頼んで、無数の氷柱を飛ばしてもらって、それを回避する、という訓練をしていたのだ。
一日の最後に、重力制御指輪をオフにした状態で行う、命懸けの回避トレーニングだ。
「嫌ですわ! 何で私がそんなことしなければいけませんの?」
当然最初はロロシィスに断られたのだが、俺は何度も懇願した。
「頼む! ロロシィスだけが頼みなんだ!」
「え? 私だけが頼み……? ハッ! そ、そんなことを言っても無駄ですわ!」
「あれだけ最上級氷魔法を自在に操れる者なんて、ロロシィス以外にいないんだよ!」
「ま、まぁ、そりゃそんな魔法使いは、私以外ではそうそういないでしょうけど」
「これは、市民を守るために、ひいてはこの国を守るために大事なことなんだ! だから、綺麗で可愛くて美少女で更に公爵令嬢で魔法も得意で完璧なロロシィスにしか頼めないんだ!」
「! そ、そこまで言うなら……本当、仕方ないですわね! 今回だけ特別に、力を貸してあげますわ!」
というやり取りを経て、何とかロロシィスに来てもらうことが出来た。
「さ、最上級氷魔法を避ける!?」
「アイシクルレインを回避する!? 俺たちが!?」
動揺する団員たちに対して、ロロシィスが、無数の氷柱を空中に出現させつつ、明るく言い放つ。
「大丈夫ですわ! 食らっても、ちょっぴり身体に穴が開くくらいですわ!」
「「「「「!?」」」」」
「父上が大量のポーションを用意して下さった。安心して挑め」
「「「「「全然安心出来ませえええええん!」」」」」
「問答無用! 『アイシクルレイン』!」
「「「「「ぎゃああああああああああああ!」」」」」
青褪めた彼らは、泣きながら必死に回避したのだった。
文字通り命懸けのトレーニングを積み、地獄の七日間を生き延びた彼らに死角はない。
荒野を駆ける私兵団団員たちに意識を戻すと、彼らは、敵軍の眼前まで迫っていた。
「騎士団、前へ! 迎え撃て!」
馬に乗った、フルプレートアーマーを身に纏った騎士団が出てきて、突進しながら槍で突くが。
「なっ!?」
私兵団団員たちの動きが速過ぎて、一瞬その姿が消える。
「ヒヒーン!」
「うわっ! 馬が!」
私兵団団員たちは、騎士団の機動力と高さというアドバンテージを二つとも潰すために、相手の槍を避けつつ素早く動いて馬の足を、または首を、または腹を斬って転倒させる。
当然、上に乗っている騎士たちもバランスを崩して。
「ぎゃあああ!」
恐ろしいスピードで動く私兵団団員たちによって、〝落下している最中〟に胸当てと兜の間から喉を、または外を見るために兜に開いている穴から剣で突き刺され、絶命していく。
「数はこちらが勝っているのだ! 囲め! 囲んで一人ずつ着実に仕留めろ!」
少し数を減らしたものの、まだ千八百人ほどいる騎士団が、たった百人しかいない私兵団団員たちを取り囲み、槍で狙うが。
「ぐぁっ!」
圧倒的な俊敏性を誇る彼らの動きについていけず、仲間の馬を突き刺し、または仲間の足を鎧ごと貫いてしまい、体勢を崩して落下した騎士を、私兵団団員たちが殺していく。
あっと言う間に半数が死んだ騎士団を見て焦った司令官が、最後の手段に出る。
「こうなったら! 弓部隊! 魔法師団! 仲間に当たっても良い! 放て! 撃て!」
仲間もろとも始末しようという最終手段だったが。
「がぁっ!」
「ぎゃあ!」
「……何で……俺たちを……!?」
矢も魔法も、騎士団には当たるが、私兵団団員には掠りもしない。
当たったと思った直後、それが〝残像〟であることに気付き、敵軍は絶望していく。
騎士団の数が半数以下になったのを見計らって、私兵団団員たちは、騎士団の背後に控えている二部隊の数も減らし始めた。
「ぐぁっ!」
「ぎゃあ!」
騎士団に比べると装備が貧弱な弓部隊を次々と屠り、魔法師団に至ってはローブなので、猛スピードでその首を刎ねていく。
気付くと、全軍の半数以上を失っていた司令官は。
「退却!」
退却を命じるが。
「逃がすかよ!」
「!」
私兵団団員たちの半数が回り込み、既に退路を断っており。
「死ね!」
「ヒィッ!」
血飛沫と共に、幾多の生首が宙に舞って。
「ぎゃあああああ!」
遂に、司令官も討ち取って。
「俺たちの勝利だ!」
「「「「「うおおおおおお!」」」」」
敵軍を完全に殲滅、私兵団団員たちが勝鬨をあげた。
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