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12.「最弱私兵団の特訓」

「おお! 優勝おめでとう! 流石我が息子だ! 勝つとは思っていたが、戦闘とは、何が起こるか分からぬもの。今まで積み重ねた確かな実力で勝利を掴み取った貴様を誇りに思うぞ! はっはっは~!」


 父は、俺の優勝をとても喜んでくれた。


「祝杯を挙げよ! はっはっは~!」


 その日の夜は、パーティーとなり、とても豪勢な料理が並んだ。


「いや、嬉しいけど……そこまでやらなくても……俺はただ、俺が半壊させた家の修復料金を、優勝賞金で返したかっただけなんだが」

「くすっ。スピッドさま、素直に受け取られてはいかがでしょうか? おめでたいことをお祝いするって、とても素敵なことだと思うのです。お義父さまも喜んで下さるし、私も嬉しいのですから」


 ポツリと呟いた声を、隣のレイティが聞いて、俺に笑顔を向ける。


「そっか……そうだな……!」


 前世で母を死なせてしまったという自分の後悔から、ただがむしゃらに追い求めた世界最速。

 その結果身に付けた力が、誰かを笑顔にするのならば、こんなに嬉しいことはない。


 なお、〝剣魔闘大会〟優勝賞金を父に渡す際には、「要らん! 自分で使え!」「いえ、修繕費をお返しするだけですから、受け取って下さい、父上!」という押し問答を何度も繰り返した挙句、レイティと、更にはメイドのティピィと執事長兼私兵団団長のラトバスも「スピッドさまは、そのために剣魔闘大会に参加されたのですよ」と口添えしてくれて、「うむ……そうか……では、受け取ろう! ありがとう、スピッド!」と、ようやく受け取ってくれたのだった。


 受け取ってくれて良かった。


 っていうか、むしろ、今後も俺が屋敷を壊してしまう可能性はゼロじゃない。

 それを考えると、もっと稼いでおきたいところだ。


 そういうことがもし無くとも、父にはずっと世話になっているのだから。 

 もしまた何かチャンスがあれば、積極的に挑戦しようと思う。


※―※―※


「お、奇遇だな。買い物か? お疲れさん。荷物多いし、重そうだし、俺が持つよ」

「スピッドさま!? そんな、これはメイドの仕事で――」

「俺がずっとトレーニングしてるの知ってるだろ? 筋トレもしててさ。もっと速くなりたいんだ。だから、良いトレーニングになるなって、さっき見て思ったんだ。なぁ、頼むよ」

「……そこまで仰るなら。分かりました。ありがとうございます!」


 ティピィ含むメイドたちが、うちの屋敷で使う日用品の買い出しに行く際に、さり気無く街中で会った振りをして、荷物を持つ、ということを、俺は最近繰り返している。


 あとは、若くて美人な彼女たちが、街中でゴロツキに絡まれているところを、ゴロツキを衝撃波で吹っ飛ばすことで助けたり、ということも。


 この程度のことで、俺が五歳までに彼女たちにした酷い仕打ちが許されるとは到底思わないが、少しでも罪滅ぼしになれば、と思う。


※―※―※


「本日は、坊ちゃまが稽古をつけて下さることになった! では、坊ちゃま、宜しくお願い致します」

「「「「「宜しくお願い致します!」」」」」

「こちらこそ宜しく」


 我が家の敷地内にある広い訓練場にて。

 メイドたちへの贖罪と共に、うちの私兵団の訓練も俺が行うことにした。


 いやぁ、それにしても、〝剣魔闘大会〟で優勝しておいて、本当に良かった。


 俺の言うことなんて聞いてくれるかな、と最初は思ったけど、実績があるから、みんな真剣に耳を傾けてくれる。


 うちの父含め、領地を持つ貴族は、漏れなく私兵団を持っている。

 それは、領土を守るためだ。

 

 無論、モンスターの大規模な軍勢が攻めてきたり、大人数の盗賊団との戦争があったりして、私兵団だけでは収拾がつかない場合は、国軍の騎士団や魔法師団の力を借りるが、そうでなければ、小規模のモンスターの軍勢も盗賊団も私兵団で対処する。


 だが、俺の家は。


「みんな。強くなりたいか?」

「「「「「はい!」」」」」


 百人規模の私兵団を持ってはいるものの、弱いのだ。

 〝最弱私兵団〟などという不名誉な二つ名まである。


 貴族は皆魔力を持っている者がほとんどで、国軍の魔法師団は勿論、騎士団ですら、いざとなったら魔法も使える(が剣技を磨いて、そちらを優先している)という者たちばかり。


 そんな中、うちの私兵団に所属する下級貴族や平民たちは、誰も魔法を使えず、皆、剣を使う者ばかりだ。


 では、剣技はどうかというと、それも拙く、はっきり言って弱い。

 

 彼らの戦闘能力は、S級A級B級などの高ランクはおらず、よくてC級で、DやE、中にはF級もいる。


 小規模のモンスターの軍勢にも盗賊団にも対処できず、国軍に動いてもらった、という情けない過去がある程だ。


 俺の父は元王国騎士団団長で、執事長兼私兵団団長(指南役)のラトバスは元王国騎士団副団長であるにも拘わらず、だ。


 何故かというと、それは。


「ここでザッと避けて、バッと動いて、ガッと当てて、ドカン、だ!」


 二人とも、戦闘に関しては、思いっ切り〝感覚派〟だからだ。


 なので、二人で話し合う時は、物凄く通じ合う。

 元王国騎士団団長&副団長というコンビだっただけある。阿吽の呼吸だ。


 が、こと私兵団の〝指南〟となると、それが全く機能しない。


 そこで俺の出番、という訳だ。


「正直に話すと、俺は剣技は全くの素人だ」


 俺は、私兵団の団員たち百人に語り掛ける。


「だが、知っての通り、俺はスピードだけなら、誰にも負けない。みんなにも、今の何倍――いや、何十倍ものスピードを獲得してもらって、戦いに活かしてもらいたい」


 スピード特化型私兵団。

 恐ろしい速さで戦場を駆け抜ける百人の兵士。


 想像しただけで、ワクワクする。


「何十倍!?」

「そんな風に動けたら、俺たちもきっと!」


 〝最弱私兵団〟などと呼ばれて落ち込んでいた団員たちの瞳に、希望が滲む。


「しかし、それだけ大きな力を得ようと思うのならば、その分トレーニングも過酷なものとなる。その覚悟はあるか?」

「「「「「はい!」」」」」


 緊張が走る。

 皆、十年間に亘る俺の地獄のトレーニングを知っているからだろう。


「よし。良い覚悟だ。『サモン』」


 俺は、百個の重力制御指輪を召喚すると、一つずつ団員に渡した。


「二倍、三倍、などと呟けば、その重力が自分だけに掛かる。そして、オフ、と言えば、解けて元の状態に戻る。まずは、二倍からだ。早速過重力を掛けて、歩き回る練習から始めてくれ」

「「「「「はい! 二倍」」」」」


 過重力が彼らの身体に掛かる。


「うぐおおおおお!」

「お、重いいいい!」


 皆、膝をつき、倒れる。

 無理もない。


「ちなみに、知っているかもしれないが、俺は一万倍まで耐えて、このスピードを手に入れた」


 そう言いながら、視認出来る程度に加減しながら、一瞬で訓練場を端から端まで往復してみせる。


「す、すご過ぎるううう!」

「俺たちだってええええ!」


 倒れていた者たちが、起き上がる。

 ゆっくりとだが、一歩一歩、前に進む。


「そうだ、その意気だ。お前たちは、〝スピード特化型私兵団〟になる。〝恐ろしい速さで戦場を駆け抜ける百人の兵士〟だ。もう、〝最弱私兵団〟などと言わせない。お前たちは国内最強――いや、〝世界最強の私兵団〟になるんだ!」

「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」


 こうして、彼らの訓練はスタートした。


※―※―※


「〝世界最強の私兵団〟か。めちゃくちゃ格好良いな」


 翌日の朝。

 私兵団の訓練の前の時間に、朝食を食べつつ、ワクワクしていた俺だが。


「し、失礼します! 大変です! 西隣のヴァウスグリア帝国が、国境へ――我が領地へと攻め込んで来ました!」

「!?」


 一人の兵士が、慌ててダイニングルームへと飛び込んできた。

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