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11.「一方、女神は」

「妾を愚弄するからじゃ。自業自得じゃ」


 天界の、とある建物内にて。


 現代日本で暮らしていたスピッドを、事故に見せ掛けて殺した女神は、自分の求愛を拒絶した彼に怒り狂い、チート能力の代わりにゴミスキルを与えて、記憶も封印した上で彼を転生させた。


「せっかく痛い思いまでして手に入れようとしたというのに! 人の苦労も知らず、あの男は!」


 本来、女神が自身の力を直接行使することは、どの世界であっても禁忌とされており、バレると最高神から罰を与えられてしまう。


 そのため、〝間接的に〟殺そうと思って、無人の車を操作したのだが、それすらも本来ならば不可能なのだ。そのため、何か〝代償〟が必要となる。


「一人殺すだけで、これ程とはのう」

 

 十枚全て剥がれた足の爪を見ながら、顔を顰める女神。


 高位の存在である女神の肉体の一部を犠牲にすることで、世界への力を行使することを可能としたのだった。


※―※―※


「クックック。目論見通り、記憶は解けておらぬようじゃのう」


 女神の眼前の水晶の中に映るのは、まだ幼い少年の姿。

 異世界転生したスピッドは、自分の前世を思い出すことなく日々を過ごしていた。


「それにしても、あやつは何をやっておるんじゃ?」


 メイドの身体を登ろうとするスピッドに、女神は首を傾げた。


※―※―※


 異世界転生から五年が経った。


「クックック。今日も今日とて、無為に過ごしておるな、スピッドよ」


 優雅に紅茶を飲みながら、ほくそ笑む女神。


 ドスン


『ぐぁっ!?』


 スピッドが、木から落下。

 頭を強く打った。


「アホじゃ! 間抜けじゃ! アーハッハッハ~!」


 腹を抱えて笑う女神だったが。


『今まで、言葉に出来ないほど酷い仕打ちをしてきたことを、本当に悪かったと思っている。本当に申し訳ない』

「――ハ?」


 突然メイドに土下座し始めたスピッドに、女神は言葉を失った。

 

「ま、まさか……!? いや、流石にそんなことは――」


 心を落ち着かせようと、震える手でカップを持ち上げた女神は、紅茶を口に含む。


『いや、立場なんてどうでも良い。ティピィ。俺はお前に酷いことをした。謝って済む問題ではないとは分かっているが、俺にはこれ以外に出来ることがないんだ』

「ブー! 前世思い出しとるううううううううううううううううう!」


 紅茶を吐き出す女神。


「な、何故じゃ……!? ハッ! ……木から落下……毎日メイドの身体を登ろうとして……木にも登ろうとして……〝木登り〟! あの時か! 転生させる直前に、何か魂に刻み付けているとは思ったが、あれが〝木登り〟だったんじゃな! ぐぬぬ、姑息な真似を!」


 父親に会いにいったスピッドが、頭を下げる。


『父上、お願いがあります。このままでは俺は十年後に死にます』

「そうじゃ、知らなかったじゃろう! 妾の求愛を拒絶した罪に対する罰が、チート能力無しと記憶封印だけで済む訳がなかろう! 其方は十年後に死ぬのじゃ! せいぜい残りの日々を震えながら過ごすと良いのじゃ! アーハッハッハ~!」

『なので、死なないように、今から十年間、鍛えたいのです』

「……ん? 今鍛えるって言ったかのう? 無駄な足掻きじゃ! アーハッハッハ~!」


※―※―※


 十年後。


「いつの間にか、化け物が出来上がっとるのじゃあああああああ!」


 スピッドは、一万倍の重力下でも動き回れる程に強くなっていた。


 ゴオオオオオオッ


『ぬおおおおおおおおおお!』

「〝少し速め〟に〝歩いて〟〝音速〟を超えて〝衝撃波〟が発生!? 屋敷の半分を吹っ飛ばす!? ふざけとるんかあああああ!? そんなの神ですら出来る者はおらんのじゃ!」


 女神は、「いや、待て待て。防御力が格段に上がったとかではないのじゃ。こうなったら、また痛いのは嫌だとか言ってる場合じゃないのじゃ。積極的に殺しにいってやるのじゃ!」


※―※―※


『プギィ!』

「ふぅ、何とか一匹オークを送り込むことに成功したのじゃ」


 世界によって、女神が力を行使する方法は少しずつ異なる。

 しかも、本来ならば女神とは相容れない〝魔〟の存在であるモンスターを扱うのだ。

 女神は、少々力の行使に手古摺った。


「この世界に車は無いからのう。馬車では心許無いじゃろうし」


 この世界では轢き殺すことは出来ないと判断した女神は、モンスターを操作して、スピッドがいる路地裏へと送り込んだのだが。


『だ、誰か! た、助けて!』

「何で女子の方を襲っとるんじゃ!? そっちじゃないのじゃ!」


 やはりモンスターとは相性が悪いのか、それともまだ慣れていないからなのか、スピッドではなくて、オークは見知らぬ少女に襲い掛かろうとしていた。


「いや、まだじゃ! ここから攻撃対象をスピッドの方に変える可能性も――」

『ギャアアアアアアア!』

「負けとるしいいいいいいいいい!」


 スピッドが発生させた衝撃波によって、オークは空の彼方へと吹っ飛ばされた。


 そして、この世界に〝干渉〟した〝代償〟が発動。


「ぎゃあああああ!」


 女神の右手人差し指の爪が剥がれた。


※―※―※


『『『『『ガアアアアアアア!』』』』』

『うわああああああ!』

『きゃああああああ!』

『モンスターだ!』

「クックック。これだけ多くのワイバーンであれば、流石に殺せるじゃろう!」


 コロシアムに大勢のワイバーンを出現させた女神は、口角を上げる。


『えいっ!』

『ギャアアアアア!』


 スピッドの妻であるレイティが、客席で奮戦するが。


「無駄じゃ無駄じゃ! これだけの数のワイバーンを相手にすることなど不可能じゃ!」


 スピッドが、真上のワイバーンたちに衝撃波を食らわせて落下させるが、それ以外の者たちに対しては、攻めあぐねる。


『〝真上〟は良いけど、斜め上の奴らを攻撃しようとすると、観客も巻きこんじゃうしな。どうしたもんか』

「思わぬ弱点を露呈したのう! そのまま殺されてしまえ! アーハッハッハ~!」


 だが、ワイバーンたちは、スピッドがいる舞台の方に近付こうとはしない。


「何故じゃ!? ぐぬぬ、先程の衝撃波に恐れをなしておるのか……それならば、せめてあやつの妻を殺すのじゃ! さすれば、あやつの悲しむ顔が! 悔しがる顔が見られるのじゃ! アーハッハッハ~!」


 高笑いする女神だったが。


『……『サン……ダー』……!』

『ギャアアアアアアア!』

「なんでじゃああああああああああああああ!?」


 スピッドに懇願された女勇者によって、ワイバーンたちは全滅させられてしまった。


「自分では倒せないからと、他者の力を使って倒すなどと! 何と卑怯な男じゃ!」

 

 怒りでプルプルと肩を震わせる女神。


 と、その時。

 再び、この世界に〝干渉〟した〝代償〟が発動して。


「ぎゃあああああああああああああああああ!」


 女神の両手の残りの爪が全て、一斉に剥がれ、女神の悲鳴が天界に響いた。

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