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序章 ──天の庭より

天使ルシアの物語が今始まる。

白く透きとおった光が、静かな庭を包み込んでいた。

そこは人の世から遠く離れた、永遠の春が続く場所。風はやわらかく、草花は色とりどりの花弁を開き、澄んだ小川のせせらぎが、微かな音楽のように響いている。


ルシアは、その庭の中央に立っていた。背に広がる純白の羽は、朝の光を受けて虹色にきらめく。彼女は手に一輪の花を持っていた──この庭でもっとも小さく、だが強く香る白い花。その香りは、遠い地上の風景を思い起こさせた。


「……人の世は、どんな場所なのだろう」


天使は使命のために地上へ降り立つことはあっても、心からその世界を知ろうと願う者は少ない。けれど、ルシアの心は違っていた。彼女は、地上で生きる者の笑顔も涙も、そのすべてを見てみたいと強く思っていた。


ある日、天上にひとつの命令が下った。


──春の街に咲く、ある花屋を見守れ。

その店の青年は、やがて大きな選択を迫られる運命にある。その時、天使として正しい導きを与えよ、と。


ルシアは、その青年の名を知った。──ホロ。

胸の奥に、かすかな温もりが広がるのを感じた。それが何の感情なのか、まだ彼女にはわからない。ただ、これから訪れる地上の日々が、どこか愛おしい予感を孕んでいることだけは確かだった。


白い羽が音もなく広がる。ルシアは、春の陽光に包まれながら、そっと天の庭を後にした。

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