「精霊たちの王争奪戦」
学校へは割と早めに行く。
高校に入学してから2ヶ月たつが俺より先に来てるやつがいたことはない。
誰もいない教室でポツンと座る。
静かな空間これが俺の日常だ。
そんな俺の空間に異変が起きた。
「渡瀬君おはよう!!」
突然の女子からの朝の挨拶に動揺した。
「おっおは・・」
ちゃんと返せない。
返せなかった事でよりモジモジする。
いかん・・・陰キャの悪いところが出ている。
「ん?どうした?」
キョトンとしてこちらを見ている女子は同じクラスの水無月沙耶香だ。
どうしたもこうしたもない。
同じクラスではあるけど1度も会話どころか挨拶もしたことない女子から急に挨拶されて普通に返すなんて無理に決まっている。
そんなのは特別な陽キャにしか出来ない特殊能力だ。
「ま、いっか、また後でね」
そう言うと水無月沙耶香は自分の席についた。
また後で?しかもこんな早い時間に来るなんて珍しい。
今日は何かあるんだろうか?
まあ俺にとってはとても良い日である事には変わりはない。
なんせ、あの超かわいい水無月さんに話しかけられたんだ。
すでに高校入学して以来の記念日だ。
その後は何事もなく午前中が終わり昼休みになった。
人生とはそんなもんだろう。
いつも通り1人でお弁当を食べ始める。
「渡瀬徹君ちょっといいかしら?」
生徒会長である高峰玲子に急に話しかけられた。
高校に入学してから2か月女子とほとんどしゃべる機会のない高校生活なのだが急に学校カーストトップクラスであろう生徒会長高峰玲子に話しかけられている・・・そしてあろうことかちょっと呼び出されている。
意味が分からん。
そもそも学年も違うし校内どころかクラスの中でも存在を認識されていないというか俺の事を知らないやつがいても不思議がないぐらい存在が薄い俺の存在を認識し名前を知っている意味が分からん。
「はあ・・・」
「私についてきてもらえるかしら?」
「はあ・・・」
なんかわからんが抵抗する理由もないので大人しくついていく。
連れていかれたのは人気のない校舎裏・・・なんだろうこのシュチエーションは・・・まさか告白か・・・?
そんなわけない。そんなわけない。
冷静になり高峰玲子を見る。
容姿端麗でハイプロポーションすらりと伸びた足。
腰まで伸びた黒曜石のような黒い髪は枝毛1本なさそうである。
このクラスの女子が俺に告白なんかするわけがない。
となると・・・カツアゲ?
不良たちに囲まれてやられてしまうのだろうか?
・・・それも現実的ではない。
そもそも一応超進学校であるこの学校は不良というかヤンキー的な人はいない。
じゃあ目的はなんだ?
「・・・さっきから何をぶつぶつ言っているの?」
少し呆れた顔で高峰さんが俺を見ている。
いや・・・でもこの状況で困惑しない陰キャ男子はいないと思う。
俺の反応はある意味正しいと思う。
「じゃあ要件を言うわね・・・渡瀬徹君・・・死んで頂戴!!!」
高峰さんの右手には黒くて大きなカマが握られている。
「待て待てちょっと冷静に・・・」
「私は冷静よ冷静にあなたを殺すのよ」
カマが振り下ろされる。
ガァッキャン!!
何かに高峰さんが持っていたカマが弾かれた。
「何?邪魔をする気?」
高峰さんが振り向いた先には水無月さんがいた。
「あたりまえじゃないですか?邪魔しますよ」
水無月さんはなんか大きな銃を持っている。
「じゃああなたから死になさい!!」
カマを振り回しながら高峰さんが襲い掛かる。
水無月さんがそれをかわし銃を撃つ。
「あなた何が目的?なんで私の邪魔をするのかしら?」
「当然でしょ!王を守るのは当然よ!」
「守る?不要よ!私たち精霊には王なんて不要、精霊は精霊らしく自由に気ままに生きるのよ」
「そんな世界は認めない!精霊界は王の誕生とともに新たなる繁栄を築くのよ」
「何を下らないことをおっしゃっているのかしら時間がないわ!邪魔をしないで!」
高峰さんがカマを振り回す。
「させない!!」
水無月さんが銃を構える。
俺を中心に何か争っているが状況がわからないし完全に置いていかれてる。
「2人とも俺の事でそんなにもめないで・・・」
なんか超モテル男のセリフみたいだが・・・そんな浮かれた状況ではない事は確かだ。
「あと3分!!」
2人の攻防が続く
「くそっ時間がない邪魔しないで!!」
「あと2分!もうあきらめたら?」
「ふざけないで!!」
「あと1分」
「こうなったら・・・解放!!!」
高峰さんのカマが巨大化した。
「全員消し飛びなさい!!!」
「ちょっとちょっと」
水無月さんが銃を撃つも巨大なカマはびくともしない。
やられる!!
そう思った瞬間遠くで大きな光が放たれた。
「何?誕生?」
「えっ渡瀬君じゃ無いの?」
「じゃあこいつはなんなのよ?」
「知らないわよ王を示す精霊石の光はちゃんと渡瀬君を示いていたわよ」
「とにかくここに王はいないわ」
「無駄な戦いでしたね」
2人は光の放たれた方へ走っていった。
なんだったんだ?
王って何?
全く意味がわからなかった。
意味が分からなすぎて気になったので2人を追いかけた。
追いかけた先に見えた光景はなんか荒れていた・・・荒れ果てていた。
強風が吹き荒れ車や人が吹き飛ばされている。
電柱の陰に隠れているがこれ以上近づいたらちょっと危険だ。
「破壊破壊破壊!!!」
人が空に浮いていて何か叫んでる・・・なんだあれ。
「王が暴走しているわ」
「なんで暴走しているのよ?」
「知らないわよ」
「とにかく落ち着かせてよ話はそれからよ」
「どうやったら落ち着くのよ」
「知らないわよ!あなたこそ知らないの?」
「知るわけないじゃない始めてみるんだから精霊の王なんて」
なんか高峰怜奈と水無月さんが揉めている。
「あのどういう状況・・・?」
「荒れてるのよ王が荒れてるの!!暴れまわってどうしようもない状況よ!!」
「手が付けれられませんわね」
目を凝らして精霊の王を見る。
「あいつは!!2組に存在すると言われている伝説の陰キャ相模原!!!」
「知り合い?」
「知り合いではない陰キャどうしクラスも違うのに会話とかするわけないだろ」
「そういうものなの?よくわかんないけど・・・」
「そういうものだ陰キャというものは・・・」
「そんなことより知り合いならあの暴走状態を止めてちょうだい」
「知り合いでもないし関係なくない?」
「たしかに・・・」
「いいえ!あるわよ関係あるわよ陰キャ同士だし中途半端に首を突っ込んだのだから最後まで責任をもって対応してくれる」
「いや勝手に巻き込まれただけで別に・・・」
「なに?何か言った?」
「いえ・・・」
「なにか対応策はあるの?なんで暴走してるの?だから言ったのよ精霊の王とかいらないって」
「知らないわよ渡瀬君何とかしてよ陰キャどうしなんだから」
「無茶苦茶いうなよ」
「あなたがなんとかするしかないの!!精霊の力では精霊の王にはなんのダメージも与えられないんだから精霊じゃない渡瀬君しかどうすることもできないのよ」
「あーもう!やってみるけど!!」
「えっやるの?一般人に何とか出来るとは思わないけど・・・やってくれるなら」
「どっちだよ?まあやるけどピンチだし・・・俺のとっておきの能力!!」
そう俺には人にはない能力がある。
それは超能力だ。
物理的な事しかできないけどそれなりに能力は認められている。
その証拠に世界超能力協会の会員だし超能力ランキングだって世界357位だ。
一見微妙な順位だけど超能力協会の会員が100万人いる中の357位なんだから結構上位のほうだと思う。
「サイコハンド!!」
巨大なエネルギーの手が相模原君を取り押さえる。
「なにその名前?」
「最悪にかっこ悪いですわねセンスを疑いますわ」
「そんな言い方・・・全力で動き封じてるんだけど・・・」
「だとしてもその名前はないわよ」
「そうねそんな変な名前叫ぶぐらいなら無言で実行したほうが遥かにマシですわね」
「うっうるさい!それよりもこっちは取り押さえるだけで手いっぱいなんだけど・・・あと何とか・・・?」
「無理に決まっているじゃない?人の話聞いてた?精霊は精霊の王には一切ダメージを与えることは出来ないのよ」
「じゃあ暴走を止めるとか説得するとか・・・」
「でもねぇ会話できる感じじゃないし・・・」
「そうそう私たちの手に負える問題ではないですわ」
「無責任・・・って言うかもう限界・・・」
サイコハンドが崩壊して霧散した。
「あー何解放してるのよ」
「本当ですわせめて解決策が出るまで取り押さえて頂かないと困りますわ」
「無理言うな!!」
「無理でもなんでもなんとかして!!」
「もう!!わかったよ!!」
右のあたりの空気を圧縮、相模原君の付近の空気を移動して気圧を下げて・・・と。
「空気圧縮弾!!」
圧縮した空気が相模原君めがけて飛んでいく。
しっかり命中し相模原君の身体がゆがむ、そして落ちていく。
「あっ落ちた」
「死んだかな?」
「自分たちの王だって言うならもっと心配しなよ」
「この程度で死ぬならその程度の王だし必要ないわ」
「私はもともと王なんていらない派なので・・・」
落下地点に移動すると地面に相模原君は落ちていた。
「おーい生きてるか?」
水無月さんが声をかけながら銃で顔を押している。
雑だな・・・陰キャ相手だからだろうか?もう少し人らしい扱いって出来ないものだろうか・・・。
「僕は・・・何を・・・」
相模原君の意識が回復した。
「精霊王・・・お目覚めですか」
水無月さんが片膝をつき恭しく声をかける。
「えっ僕精霊王じゃないんだけど?」
「じゃあ何この反応は精霊石反応しているでしょ?」
「本当ですわよあなたじゃなければ誰が精霊王だって言うのよ?」
「誰かは知らないけど・・・僕は風の精霊だし王じゃないことは確かだよ」
「なんでそんなにどんくさいずんぐりした感じなのに風なのよ?せめて土じゃないの?って言うか膝まづいちゃったじゃない。王じゃないなら膝まづくんじゃなかったわよ」
勝手に膝まづいたのにひどい言いようだ。
「って言うか何なのよさっきから本物の精霊王はどこにいるのよ?」
「そうですわね王の復活とともに王のもとに集えって言われているのにどこに行ったらいいのよ」
「待てよそもそも相模原は何で暴走したんだよ」
「わからない・・・さっき急に自分が風の精霊だって認識出来たかと思ったら急に意識が遠のいていって気が付いたら今の状況なんだよ」
「なんなのよ聞いていたのとは違うんだけど・・・精霊の世が来るからって聞いていたのにどうなってるのよ」
「私が聞きたいわよ」
「まてまて1番聞きたいのは俺だよ精霊云々のところからわかんないんだけど」
「こちらも聞きたいわ。あなたの変な能力、精霊じゃないとすると何なの?」
「超能力だ。俺は超能力者だから」
「えっ何言ってんのそんな人いるわけないじゃない現実に」
「精霊とか言ってるやつに言われたくないんだけど・・・結局精霊がどうとかって何なん?」
「しょうがないわね。簡単に説明すると1万年に1度精霊が活性化する年があるのよ。それに合わせて精霊の王が誕生し精霊たちは王のもとに集うのそして王から精霊たちに何らかの命令が下されそれもとづいて精霊たちは行動するのよ」
「うーんよくわからんけど1万年前はどんな指示が出てたの?」
「地上を汚す生命たちを抹殺せよ!!だわ」
「妖精たちは命令に従い地上の生命体を殺しまくった」
「すごく物騒なんだけど・・・」
「そこに人間の英雄が立ちはだかり妖精王は封印された。その封印が1万年ぶりの解け妖精の時代が来る!!のが今なんだけど・・・状況が良くわからないわね」
「俺のほうが良くわからん」
「でも妖精たちは目覚めてきてるし王を探し出して行けばいいだけよね」
「渡瀬徹!協力しなさい!」
「え!なんで人類の敵じゃん」
「まだなんの敵かはわからないわよ。なんの指示も出ていないし姿も見せていないのだから」
「ああもういいからここにいる4人みんなで王を探すわよ」
なんか強引に精霊の協力をさせられる事になった。