26、天地、雪と墨
「素人質問で恐縮なのですが、二人の女性が憎みあっていたと判断できる根拠、あるいはエピソードは?」
「素人質問で恐縮なのですが、悪魔である貴方が願いを同時にその場で複数叶えられるということを、保証してくださって物語を作り上げているのでしょうか?」
「素人質問で恐縮なのですが、自分の腹を地下牢で割くようなリスクをザビヤ様がおかす理由がわからないのですが、どうした物語を付属するおつもりでしょうか?」
はい、はい、と、一つ私が質問のために挙手する度に最初は余裕の笑みを浮かべて「それは」と答えていたブライドさんだが、次第にどんどん顔色が悪くなっていく。
「そもそも、確定している情報のみを集めて創作するにしても、あまりにも原作に対してのリスペクトが足りません」
「リ、リスペクト……」
「どこぞの誰かが下世話に想像するような、あまりに三流。女と女が集まればいがみ合うだの、男の寵愛を受けることだけが女の幸せだの。あまりにも二人の女性への敬意にかけています。提示された事実、情報だけをつまびらかにして見れば、ザビヤ様がサラを、サラがザビヤ様を疎んでいたと思われることがなく、それをあえて「二人は互いに嫉妬した」なんて感情を後付けして盛り上げようとしているのは、えぇ、言ってしまえば品性が欠けています」
悪魔に対して「お前の行動は品がないぞ」と指摘すると、ブライドさんが稲妻にでも打たれたかのようにショックを受けた。
「し、しかし……心情は誰にもわからないのでしょう……!であれば、宮中の女性同士というのは、」
「不特定多数の「あたりまえ」を、特別な物語の登場人物に当てはめて動かそうというのが三流です」
「ぐぅっ……!」
仮にそうした事実があったとしても、それを可能性として銀のお盆に並べて飾り立てた悪魔がそれを証明できなければ、却下!!!!!
私はふん、と鼻を鳴らしてふんぞり返った。
パンパンパン、と、神獣さんがそれを眺めて手を叩く。
「うん、見事だ。そのようにして悪魔を打ち倒すものは貴女くらいだろうよ」
「見世物じゃありませんよ」
「ものを語る貴女はものがたりには手厳しいな」
「次は神獣さんの見立てを語っていただいても構いませんが?」
「はは、それは勘弁願いたい。私はそうしたことは不得手でな。細かな機微というものに疎い。義賊が王女の心臓を盗んだことにも気付かぬ唐変木よ」
気にしていたのか、カリオ〇トロの城の時の話。
がくり、と膝をついて硬直しているブライドさんを放置して、神獣さんは目を細めた。
「しかし、ではどう辻褄を合わせればよいのか。事実のみをこの場に提示すれば真実がわかるだろうと思うが、どうにも上手くいかなくてな。あなたは先ほど、二人の女が憎みあっていた証拠をと求めたが、金髪の女が惨死した。それを黒髪の王妃が笑ってながめていた。これでは証拠にならぬのか?」
「悪魔に願いをかけた後の事実は、全て疑わしいと思っています」
「と、言うと?」
私はひょいひょいと、神獣さんがテーブルの上に浮かぶ文字で様々な事実を並べたのを指でいじり、いくつかを寄せる。
「私が語ったがちょう番の娘の物語、あれは人が、立場が入れ替わると言う物語です。となると、疑わしい事実として、黒い髪の王妃がその死を笑った相手というのは、彼女が憎い相手でなければなりません」
「なので二人の女は憎みあっていた、あるいは黒い髪の王妃は金の髪の女を憎んでいたのだろう?」
「いいえ、いいえ、それは証拠にはなりません。悪魔が現れる前の事実からは、二人はお互い思い合っていたとも取れます。けれど悪魔が現れた、その後で、黒い髪の王妃が、金の髪の踊り子が死ぬのを笑って眺めていた。だからおかしいんです。憎悪が突然芽生えたわけじゃなく、であれば、黒い髪の王妃が笑っていたのは、元々、彼女に憎まれる理由のある人物なのでしょう」
それのどこが違うのかと神獣さんが首を傾げる。けれども違うだろう。大違いだ。
「いるじゃないですか。悪魔が現れる前の事実の中で、とにもかくにも、憎まれていた人間が」
タイトルは全て四季のことわざで、お暇な方は意味など調べてみるとまた面白いかもしれません('ω')




