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23、冬の青星



 パァン、と、視界が弾けた。暗い場所から、一気に明るい屋外へ。眩しさに私は思わず目を細める。視界は真っ白で何も見えないが、聴覚が拾ったのは若い女性たちの笑い声だった。


「……?」


 見覚えのない、いや、少しある。

 先ほどまで私が隠れていた建物に似た場所だ。けれどこちらは真新しい。建てられたばかりという新築独特のにおいがした。その建物の中庭らしい所に、大きな噴水が一つある。その噴水のふちに黒髪の貴族のご令嬢が腰かけていて、彼女の前で見事な金髪の女性が踊っていた。


 真っ白い肌に細い四肢。手や足首につけた腕輪には鈴がつけられ、金髪の女性が踊ると美しく鳴った。鈴の音に合わせて、黒髪の令嬢が歌う。軽い手拍子をして、弾む声は踊り子の女性の美しさを讃えているようだった。踊り子の方も彼女の手拍子や声に込められた自分への愛情を受け取り、瞳の中に令嬢を写し観客へ向けてではない笑みを惜しみなく浮かべた。


 ………どこからどう見ても、イドラ殿下そっくりな若いころの皇太后陛下と、国王様にそっくりな踊り子さんの、どこからどう見ても仲睦まじい様子。


 あれー?えー……。

 私は困惑した。


 あれ?おかしいな?おかしいな??


 私が皇太后陛下の前で話したがちょう番の娘の話。あれは侍女が王女に成り代わる話。それを皇太后陛下、イドラにそっくりな女性の前で話したのだから、世間一般的に「踊り子の子」と言われているイドラの母親が皇太后陛下で……私は皇太后さまが、元々は踊り子だったのに身分を奪ったのではないかと、そんなことを考えた。


 のに、これはどういうことだろう。


 私の目の前で微笑みあう美しい女性二人。その顔はお互いへの愛情とやさしさに満ちている。すでに入れ替わりをしたあととはとても思えない。何しろ金髪の女性の方の踊り、まさにプロだ。これがつい最近までは乳母日傘の貴族のご令嬢でした、というには無理がある。


 ……どういうことだろう?


 そして二人に、私の姿は見えないようだった。私が目の前で動いても全く反応しない。なので私は二人に近づいて、じっとその様子を眺めた。


「あぁ素敵。サラ。貴方って本当に素敵だわ。ねぇ、もっと、異国の話を聞かせて頂戴」

「まぁ、ザビヤ。皇后になるあなたがこんな踊り子に夢中になったら、国王さまが嫉妬なさるんじゃないの?」

「いいのよ、いいの。家柄と年齢で選ばれただけだもの。それに陛下にはほかに愛する女性がたくさんいるの。わたくしのところに来るのはお仕事と同じなのよ。だからお父様に無理を言って貴方を宮殿に連れてきてもらわなかったら退屈で死んでしまうところだったわ」


 未来の皇太后陛下、今は皇后候補という身分のザビヤ様の言葉に踊り子さんがそっと隣に腰かけて手を握った。


「あなたが望むなら、私のキャラバンにこっそり隠してあげるわ。あなたも知っての通り、もうすぐこの街を出るの。あなた一人くらい大丈夫よ。話に聞くだけじゃない、オアシスや砂の海を見て見たくない?」

「いいの、いいのよ。大丈夫。あなたを見送る覚悟はしてるし、これまで着せて貰ったドレスや食べたケーキの代償に、王妃のティアラをのせるのは当然だわ。あなたがここを去る前に、こうしてお話が出来てよかった」

「……ザビヤ」


 二人の女性は目を伏せて、お互いの体を抱きしめた。


 ……ここからこじれる話になるんですか!?


 親友と言っても差し支えないんじゃないかという、お互いをすっかり思い合う姿。

 これが、どう拗れていくのか!?


 今のところ中の良い女性二人が……もしや、権力者の寵愛を奪い合うことになるのか……?ただ、それにしてはイドラのお父さん、この時間の国王陛下へのザビヤ様の関心度は限りなくゼロのように感じる。


 リンリン、と、また鈴の音がした。


 踊り子さんのつけている鈴から、ではない。


「……次はあっちにいけ、と?」


 私は音のする方、明らかに……何か暗いです、時間が一気に加速します、というようなモヤの中に進んだ。


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