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14、秋鹿、笛に寄る


 イドラ・マグダレアは感心してしまった。屋敷中の悪魔しもべ達が、あっという間にすっかりと、アザレア・ドマではないあの小娘に従順になってしまった。


「女主人様、こちらのテーブルクロスはいかがいたしましょう」

「今夜のメニューをご確認くださいませ」


 悪魔に生き生きと、などという言葉が相応しいか不明だが、イドラが従えているはずの悪魔たちは今夜も大変誇りに満ちた様子で屋敷内を動き回っている。


 なるほど、上手くやったな、とイドラは頷く。本来主人である自分が完全に蚊帳の外になっていることに、別に思うことはない。


 悪魔たちはアザレア・ドマではないあの小娘が礼儀作法正しくすっかり屋敷の中に規則やマナーを染み込ませることを喜んだのだ。


 礼節が悪魔を作る。


 悪魔とは何か?

 堕落した存在だ。

 つまり彼らは彼女らは、精霊や天使、神々や人間たちよりも品格やマナーを熟知していなければならない。正しく正当にきちんと理解し飲み込み、それを間違いなく行える、振る舞える存在になって始めて堕落できるのだ。


 貞淑を知らない女が不特定多数の男と寝たところで、そうした習慣、風習、文化であればそれは淫蕩にはならないように、テーブルマナーを知らないものが手掴みで食事をしたとて、それは無知、無教養からであるからだ。


 悪魔たちは礼節を知り、その全てを完璧に行えることができてこそ、それらを踏み躙り、泥をかけ、他者を巻き込み堕ちることができるのだ。


「イドラ殿下」

「なんだ」


 今夜は美しい緑のドレスを身に纏ったアザレア・ドマではない娘がイドラを見上げる。何か困ったように眉を寄せている。

 菓子の出来でも悪かったか、それとも揃いの茶器が足りないか。イドラはこの小娘を悩ませる種を考えた。何か困れば、彼女はまずイドラに相談した。自分が悪魔しもべ達に指示を出せるのはイドラがそれを許しているからだと、彼女は理解している。


「少し困ったことに」

「言ってみろ」


 彼女の主催する妖精たちを招いての夜の茶会は、始まって既に3ヶ月。最初はおっかなびっくりおずおずと顔を出していた妖精たちも、今では誰が今夜行くか招待状を心待ちにしている。

 アザレア・ドマではない小娘は本当に上手くやった。

 妖精たちは自由に庭を出入りすることができるが、招待状をもらって「招かれた」ということに喜びを見出した。


「実はその、」


 アザレア・ドマではない小娘は言い淀む。必要ならイドラを面罵することもできるだろう小娘が珍しいことだ。


「ついに物珍しさに妖精王でも顔を出したか」


 そろそろ来る頃だろうと思っているイドラが先んじて言えば、アザレア・ドマではない小娘は首を振った。


「それがその、私を殺しにきたという殺し屋さんが門の前にいらっしゃいまして」


 

いつもお読みくださりありがとうございます(◡ω◡)

前回あとがきに承認欲求ばりばりなことを書いたら、慈悲の心を持つ方々がイイね、押してくださいました。

読者さんの存在が観測されたので正気に戻らず書き続けるエネルギーを得ました。ありがとうございます。


ご負担かと思いますので、また今度気が向いたら押してくださいませ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] クローゼットに閉じ込められた仕立ての悪魔さんかわいそお…いや、久しぶりの仕事にウキウキしたのか、無茶ぶりに徹夜したのか…両方かな?路線はどっちだ〜!とか悩んだのかしらん。
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