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まさかの再会

 教会に入ったレオーネは、誰もいない礼拝堂を突っ切って奥の扉へと向かう。

 夕陽が差し込む明るい廊下をコツコツと硬質な足音を立てながら歩き、最奥の扉を勢いよく開けたレオーネは、中に向かって元気よく声をかける。


「やあやあ、皆の衆、準備は順調かね?」

「あっ、レオーネさん」

「もう面接は終わったんですか?」


 扉の先はキッチンとなっており、レオーネの声にエプロン姿で作業していた二人の女性が嬉しそうに振り返る。


 だが、次の瞬間、二人の笑顔が揃って驚きの表情へと変わる。


「ああっ!? お前は!」

「あらあら~」

「……何だ。お前たち、セツナのことを知っているのか?」


 驚いた顔をして三人を見比べるレオーネに、セツナが小さく頷いて呟く。


「おパンツのお姉さんと、おっぱいの大きなお姉さん……」

「誰がおパンツのお姉さんだ!」


 セツナの呟きに二人の女性の一人、赤い髪の毛のアイギスが怒り顔で駆け寄って彼の頭をポカリと叩く。


「っていうか、あんたあの時、やっぱり私のパンツ見てんじゃないのよ!」

「……み、みみ、見てないです」

「いや、いくら何でもこの状況でそんな嘘が通じるわけないでしょ!」


 あくまで惚けようとするセツナに対し、アイギスは再び手を振り上げて叩こうとする。

 だが、その手をセツナは半身をずらして回避する。


「……コラッ、よけんな!」

「い、痛いのは嫌です」


 尚も叩こうとするアイギスの手を、セツナは紙一重で回避し、時には手で防御していく。


「…………」

「…………」


 無言で続く二人の攻防を呆れたように見ながら、レオーネは含み笑いを浮かべているもう一人の女性、ミリアムへと尋ねる。


「ミリアム、これは一体どういうことだ?」

「はい、実はですね……」


 小さく頷いたミリアムは、レオーネにセツナとの間に何があったかを話す。


「今回はアイギスの方が悪かったので、無償で怪我を治してあげようとしたのですが……」

「あんな感じで、まともにダメージを受けていなかったと?」

「ええ……彼、とても面白い特技を持っていますね」


 アイギスからの猛攻を避け切ったのか、部屋の隅に移動して警戒しているセツナを見て、ミリアムは口元に手を当てて上品に笑う。


「レオーネさん……もしかして彼が?」

「ああ、そうだ」


 ミリアムの質問に大きく頷いたレオーネは、肩で息をしているアイギスを諫めるように肩を叩くと、部屋の隅で小さくなっているセツナの肩を掴んで二人の前に押し出して紹介する。


「ミリアム、アイギス。こいつはセツナ、まだ十五のガキだが私の犬としてダンジョンに潜ってもらうことになった。年上として仲良くしてやってくれ」

「よろ…………しく…………でしゅ」


 突然矢面に立たされたセツナは、緊張した面持ちで二人の女性にペコリと頭を下げて挨拶をする。


「ふ~ん……」


 しおらしい態度のセツナを見て、まだ肩で息をしていたアイギスが手を伸ばしてセツナの顎を掴むと、至近距離で質問する。


「セツナだっけ? あんた、冒険者になるためにここにやって来たんじゃないの?」

「そ、そそ、そそうですけど……」


 美少女といっても過言ではないアイギスに至近距離から見つめられ、顔を赤くさせたセツナは目を泳がせながら必死に言葉を紡ぐ。


「そ、そその……僕、面接で不合格になったので……」

「ああ、それでそんな死んだ魚のような目をしてるのね?」

「ち、違います」


 至近距離で見つめられるのに耐えきれなくなったセツナは、素早いバックステップでアイギスから距離を取ってモジモジと小さな声で呟く。


「その……これは、普段からこうするように訓練を受けたからで……す」

「はぁ? 何それ、意味わかんないんだけど」


 セツナの回答を鼻で笑ったアイギスは、ひらひらと手を振って突き放すように話す。


「まあ、いいや。あんたがレオーネさんの犬になるのは自由だけど、私たちの邪魔だけはしないようにね」

「わ、わかりました」


 どうにかアイギスに返答したセツナは、既に料理を作る仕事に戻っているミリアムに話しかける。


「あ、あの……」

「あらあら、こっちは大丈夫よ」


 セツナが何をいうか察したのか、竈の前で焼き物をしているミリアムが笑顔で応える。


「仕事は明日からやってもらうから、今日はお客様としておとなしくして頂戴」

「は、はぁ……」


 有無を言わさぬ迫力でミリアムに断られたセツナは、乱暴な手付きで攪拌作業をしているアイギスへと目を向ける。


「あ、あの……」

「うるさい、男が気安く近付かないで、あなたは部屋の隅で縮こまってなさい」

「で、でも……」

「二度も言わせないで」

「は、はい!」


 アイギスの有無を言わせない迫力にセツナは気を付けの姿勢で応えると、おずおずと部屋の隅へと移動する。



「……まあ、気にするな」


 キッチンの隅で縮こまるセツナに、レオーネが隣にやって来て彼に耳打ちする。


「実はアイギスはつい最近……というか今日も男にこっぴどくフラれたらしくてな。その腹いせに怒っているだけさ」

「レオーネさん、聞こえていますよ!」


 アイギスは怒りを露わにするように、激しく音を立てて攪拌作業を続けながら話す。


「あれは! 私が何も知らない! 小娘だったが故の過ちです! もう二度と! 二度と男なんて信じませんから大丈夫です! ええ、大丈夫ですとも!」

「そうかい、まあ、それはそれとしてアイギス、いきなりセツナを後ろから刺すような真似だけはするなよ」

「それは……その男次第です」

「え、ええぇぇっ!?」


 明らかな殺意を籠めて睨んでくるアイギスを見て、セツナはどうしたらいいかわからずオロオロと狼狽するしかなかった。

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