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死闘の果てに……

「――っ!?」


 セツナの声が聞こえた途端、アウラは彼から預かっていた聖水が入った瓶を、自分の背後の何もない空間に向かって投げる。


 アウラの背後には誰もいなかったが、次の瞬間に空間が僅かに歪ん高と思うと、中からナイトメアがワープしてくる。


 だが、そこにはアウラが投げた聖水の瓶があるわけで、


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!」


 体の中から浄化作用のある水で焼かれるという事態に、ナイトメアは初めて鳴き声のような悲鳴を上げてもがき苦しむ。


「ヒッ……」

「アウラちゃん!」


 断末魔のような激しい悲鳴を上げて固まるアウラを、ミリアムが手を伸ばして引き寄せる。


「今のうちに逃げるわよ!」

「は、はい!」


 ここにいてはまたセツナたちに迷惑がかかると、二人はナイトメアに背を向けて仲間たちの方に向かって必死に駆け出す。


「アウラさん!」


 すると、すぐさまセツナがやって来て、アウラたちに代わって前へと出る。


「やりましたね。作戦通りです」

「あ、ありがとう」


 乱れた呼吸を整えるように、アウラは胸に手当てて深呼吸を繰り貸すと、叫び続けているナイトメアを向ける。


「セツナ君、あれ……」

「はい、あれがナイトメアの本当の姿の様ですね」


 そう言って二人が見やる先のナイトメアは、これまでと随分と変わった形になっていた。


 馬に乗った首のない騎士だった姿はすっかり様変わりし、首のない幼い子供が地面に伏しながらジタバタともがいていた。


 聖水による効果がまだ残っているのか、体が溶けたり戻ったりと繰り返しているナイトメアを見ながらアウラが小さな声で呟く。


「まさかナイトメアの正体が、こんな小さな子供だったなんて」

「いえ、これは単に小さいだけでナイトメアが子供とは限りませんよ」

「そうなの?」

「はい、そもそもアンデッドですから既に生きていませんし、本体がこのサイズだったからこそ、あんな無茶な戦法を取っていたのだと思います」

「そ、そうね……もう死んでるんだったわね」


 セツナの指摘で同情は筋違いであることを悟ったアウラは、探るように尋ねる。


「ねえ、これからどうするの?」

「そうですね。ここまでくれば流石に奴を倒すのは時間の……」


 セツナが自身の考えを話している途中、


「――っ!?」

「な、何?」


 突如としてダンジョン内にゴーン、という鐘の音が響きはじめ、セツナとアウラは警戒するように背中合わせになる。


 響いた鐘の音は一つ二つではなく、まるで何かを報せるように鳴り続ける。



 セツナとアウラは、何が起きても対応できるように緊張したように構え続けていると、


「あ~あ……」


 二人のところに駆け寄ってきたファーブニルが、心底残念そう肩を落として話す。


「残念だけど、時間切れみたい」

「時間切れ?」

「どういうことですか?」


 揃って小首を傾げるセツナたちに、ファーブニルが天井を指差しながら話す。


「鐘の音が聞こえたでしょ。あれは朝を告げる合図なのよ」

「あ、朝……ということは」


 夜の時間が終わり、ナイトメアたちアンデッド系の魔物が消える時間が来たということだ。


 セツナたちがナイトメアの方へと目を向けると、聖水を浴びてあれだけ苦しんでいた魔物が何事もなかったかのように立ち上がっていた。

 姿だけは首のない少年のままであったが、ナイトメアもこれ以上は戦う必要がないということがわかっているようであった。



 鐘の音が一回鳴るごとにナイトメアの体が消えるように薄くなっていき、そのまま消えるかと思われたが、


「な、何だ」


 何か伝えたいことでもあるのか、ナイトメアはセツナを指差して手招きをする。


「……セツナ君、どうするの?」

「どうするって……」


 アウラからの問いかけに、セツナはナイトメアを見ながら考える。


 ナイトメアは無機質に手招きを繰り返すだけで、その場から動く素振りはない。

 つまり、何があってもセツナの方から動く必要があるというわけだ。


 罠の可能性も十分にある、そう思うセツナであったが、


「行ってきます」


 あっさりと結論を出して、アウラに笑いかける。


「別にのまま消えてもいいのに、わざわざ僕を名指しで呼ぶということは、何か伝えたいことがあるんだと思います」

「罠かもよ?」

「かもしれません。ですが、それでも犠牲は僕一人で済みますから」


 アウラが無事であれば問題ないと思っているセツナは、彼女に「ここにいて下さい」と言ってナイトメアに向かって歩き出す。



 既に向こう側が透けて見えるくらいに薄くなっているナイトメアであったが、セツナが歩いて近付くと、まるで喜ぶように肩を揺らす。


「来ましたよ」


 セツナがすぐ目の前に立つと、ナイトメアは手を彼の前に差し出す。

 その手には透明な球状の水晶が握られていた。


「……これを僕に?」


 セツナが質問すると、ナイトメアはさらにずい、と水晶を差し出す。


「わかりました」


 セツナが水晶を受け取ると同時に、ナイトメアは親指を立てて彼を称えると、そのまま静かに消えて行った。




 ナイトメアが完全に消えると同時に鐘の音も止む。


「やった……私たち、生き延びたんだわ!」


 アイギスは喜びを爆発させるように大きく飛び跳ねると、一息ついているアウラとミリアムに飛び付く。


「凄いよ。私たち、あの絶望的な状況から、生き延びられたのよ」

「ええ、そうね。皆揃って生きられたのは奇跡みたいね」

「これも皆さんがいてくれたお蔭です」


 互いの無事を労うように、女性たちは互いに抱き締め合って喜ぶ。


 すると、


「おいおい、お姉さんも混ぜてくれよ」


 やや疲労の色が濃いカタリナが遅れてやって来て、仲間たちに甘えるようにもたれかかる。


「流石に今日は疲れ果てた。二階のボス部屋で一休みしてから外に出よう」

「そうね、そうしましょう」

「賛成、もう歩くのもしんどい」

「異議なしです」


 リーダーの提案に、三人の女性は異論を唱えることなく賛同すると、互いに体を預けるようにしてその場に座り込んだ。



「…………本当に良かった」


 一休みしている鮮血の戦乙女ブラッディ・ヴァルキュリアのメンバーを見ながら、セツナは安堵の溜息を吐く。

 その手にはナイトメアが最後に渡してきた水晶が残っており、激しい戦いがここで遭ったことは紛れもない事実であると告げていた。


「でも、これは一体……」


 戦利品として水晶を手に入れたのはいいが、セツナはどうしたらいいかわからない。


「それで少年、一体何を手に入れたんだ?」


 水晶を手に固まるセツナの下へジンがやって来て、彼の腕の中を見る。


「おっ、それって遠見の水晶じゃないか?」

「遠見の水晶……ですか?」

「ああ、そのアイテムはな……」


 そう言ってジンは、セツナにアイテムの説明をしていった。

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