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一丸となって

 全員に作戦を伝えたカタリナは、セツナに「頼んだぞ」と声をかけて自分も最前線へと飛び出していく。


「ほらほら、お姉さんのお通りだぞ」


 カタリナが大声を上げながらナイトメアへと斬りかかると、魔物も面を食らったのか、警戒するように大きく跳んで距離を取る。


 ナイトメアとの距離が空いたことで対峙していた者たちが息を吐くのを見ると、カタリナは一際疲れた様子のあるアイギスへと話しかける。


「アイギス、ここが踏ん張りどころだぞ」

「わ、わかってます」


 ジンやファーブニルと比べると実力はやや劣るが、それでも必死に食らいついていたアイギスに、カタリナは労うように肩を叩く。


「これからは私も前に出る。私の戦いをよく知るお前なら、どうすればいいかわかるな?」

「はい!」


 流れてきた汗を拭って大きく息を吐いたアイギスは、まだ十分に熱の籠った目でカタリナを見やる。


「任せて下さい。カタリナさんの隣に立つのは誰かを、あのバケモノに教えてやりますよ」

「上等だ」


 アイギスの返事を聞いて満足そうに頷いたカタリナは、悠然と剣を構える。


「いくぞ、付いてこい!」

「はい!」


 猛然と駆け出すカタリナの後に続いて、アイギスもナイトメアへと向けて駆け出す。


「ハッハッハッ、いざ尋常に勝負!」


 カタリナたちが馬鹿正直に真正面から突っ込むと、ナイトメアは手にした大剣を真っ直ぐ突き出す。

 風を切り裂きながら放たれた突きを、カタリナはワルツを踊るように華麗にターンして躱してさらに前へと出る。


「ナイトメアよ。知っているか?」


 刺突攻撃を躱され、ナイトメアの上体がやや前へ流れたのを見たカタリナは、大きく跳んで剣を大上段に構え、脳天から真っ二つにする勢いで剣を振り下ろす。


「はあああああぁぁぁ!」

「――っ!?」


 直撃するかと思われたカタリナの剣であったが、ナイトメアの馬の部分が足を素早く動かして彼女の剣をすんでのところで回避する。


「……フッ、かかったな」


 だが、この攻撃は回避されると読んでいたのか、カタリナは着地度同時にナイトメアから距離を取りながらニヤリと笑う。


「将を射んと欲せばまず馬を射よ、という言葉があるということを」


 カタリナがそう呟くと同時に、


「もらったわ!」


 アイギスがナイトメアの背後から風のように現れ、手にしたレイピアでオレンジ色の馬の頭を貫く。

 聖なる属性を付与されたレイピアに貫かれた馬の頭が弾け飛び、ナイトメアが堪らず体勢を崩す。


「どうよ!」


 カタリナとの連携で初めてナイトメアにまともにダメージを与えたことに、アイギスはレイピアを引き抜きながら白い歯を見せる。


「これで少しは機動力も落ちて……」

「まだだ。気を抜くな!」


 一撃離脱して背中を見せて全力で下がるアイギスに、ジンから切羽詰まったように叫び声がかけられる。


「相手は実体のないゴーストだ! 馬の頭を潰したからといって機動力が落ちるとは限らんぞ!」

「えっ?」


 ジンの声に、白い歯を見せていたアイギスはゆっくりと後ろを振り返る。


 するとそこには頭を貫かれたからなのか、首から上が消失した馬に乗ったナイトメアがすぐそこまで迫っているのが見えた。


「――ッ!」


 馬の脚力で一気にアイギスとの距離を詰めたナイトメアは、すれ違い様に大剣でアイギスの肩を切り裂く。


「あぐっ!?」


 ジンの忠告もあり、どうにか直撃だけは避けることに成功したアイギスであったが、傷は浅くなく、肩口から血を吹き出しながら倒れる。


「アイギスさん!」


 地面に転がるアイギスを見て、ナイトメアが彼女に追撃しかけられないようにナイフを投げて牽制しながら、セツナが背後へと叫ぶ。


「アウラさん!」

「わかってます!」


 セツナの呼びかけに既に回復魔法の準備を終えていたアウラは、倒れたアイギスに向かって両手を掲げる。


「アイギスさん、今助けます。ヒール!」


 アウラが声高々に回復魔法を唱えると、両手から緑色の温かな光がアイギスへと飛び、彼女を優しく包み込む。


「よしっ、これで……」


 少なくともアイギスが死ぬことはない。


 アイギスの案日を確認したセツナが、再びナイトメアへと視線を向ける。


「――っ!?」


 その瞬間、セツナの表情が凍り付く。


 アイギスを斬って距離を取ったナイトメアの馬がみるみると再生し、再び地面を掻く仕草をしていたのだ。

 それの意味するところはつまり、あの目に追うことすら難しい超高速の攻撃が飛んでくるということだ。


「誰だ……誰を狙う!」


 セツナはナイトメアの様子を見ながら、敵が誰を狙っているのかを推察する。

 騎士と馬、揃って首が無くなったので、ナイトメアが何処を向いているのかはわからない。


「だったら……」


 セツナは自分がもしナイトメアであったら、誰を狙うのだろうかと考えを改めることにする。


(大人数と戦うセオリーは……)


 いくつかの手が脳裏に思いつくが、セツナはその中で最も可能性が高い選択肢を瞬時に選ぶ。


 ここで誰を狙うかなんて決まっている。

 パーティを潰すなら、真っ先に狙うのはリーダーか回復薬だ。


 そして、カタリナならあの超高速の攻撃が飛んできても、自衛できる可能性は高い。


 ならばと、セツナは短く息を吐いて回復魔法を唱え続けているアウラ目掛けて一気に駆け出す。


 だが、それでも判断が遅かったのか、セツナが動き出すと同時にアウラの背後にナイトメアが現れる。


 現れると同時に既に攻撃態勢に入っているナイトメアを見て、セツナは必死に駆けながらアウラに向かって叫ぶ。


「アウラさん後ろ……しゃがんで!」

「えっ……キャッ!?」


 セツナに言われて背後にナイトメアがいることに気付いたアウラは、彼に言われた通り悲鳴を上げながら咄嗟にしゃがむ。

 次の瞬間、ナイトメアの大剣が唸りを上げながらアウラが立っていた場所を薙ぐように通り過ぎるが、すんでのところで回避に成功する。


 髪の毛数本を失う程度で一命を取り留めたアウラであったが、以前としてピンチなことには変わりはない。


「アウラちゃん!」


 一番近くにいるミリアムがアウラを助けようと弓を放つが、


「――ッ!?」


 ナイトメアは迫りくる弓を、大剣を一振りするだけで全て叩き落としてみせる。


「やる……でも」


 弓を全部防がれたミリアムであったが、彼女の顔には焦りの色は見えなかった。

 何故なら弓が効かないのは想定済みで、本命は別にあったからだ。


「頼んだわよ。ヒーロー」


 そう呟くミリアムの目には、今にもナイトメアに斬りかかろうとするセツナの姿が映っていた。

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