私がリーダーだ!
アウラとミリアムが手を繋ぎ、声高々に魔法を唱える。
「ホーリィ・エレメント!」
広間に二人の凛とした声が響き渡ると同時に、セツナたちが持つ武器が温かな光に包まれる。
「これは……」
自身が持つ刀に宿った光を見たジンは、軽く振ってその正体が何であるか気付く。
「ありがたい、聖属性のエンチャントか」
「はい、この力があればナイトメアにも攻撃が通るはずです」
「だそうだ。ここからは全員で一気に攻めるぞ!」
勇ましく全員を鼓舞するジンに、戦士たちが続くかと思われたが、
「おい、ジン。ちょっと待て」
ジンの出鼻を挫くようにカタリナが待ったをかける。
「どうしてお前がリーダーみたいな立ち位置になっている」
「ど、どうしてって……今そこを気にしている場合か?」
「場合だろう。何を言っているんだ」
強敵を前にそんな余裕を見せていいのかと思うが、カタリナは気にせず話を続ける。
「ナイトメアと戦えるようになるのは、私の部下の魔法があってこそだろう。つまり、我が鮮血の戦乙女の功績だろう?」
「だから?」
「だからこの場は、私がリーダーだ。いいな?」
「ど、どうでもいい……」
別に誰がこの場を仕切っても問題ないと思っているジンは、心底呆れたように嘆息してカタリナにこの場の権限を譲ることにする。
「何でもいいから、指示を出すなら早くしてくれ」
「うむ……」
ジンからリーダーの座を奪い取ったカタリナは鷹揚に頷くと、優雅に歩を進めながら全員に作戦を指示する。
「私とアイギス、そしてジンとファーブニルは前線でナイトメアに猛攻を仕掛ける」
「はい!」
「任せて」
「はいはい、わかりましたよ」
最初からそのつもりだったジンたちは、異論なく頷くと、同時に飛び出してナイトメアへと向かって行く。
「ほら、お嬢ちゃんたち、怖いお姉さんたちにどやされたくなかったら俺に後れを取るなよ」
「わかってます。今度こそ私の凄いところ、見せてやるんだから」
「おっ、いいね。アイギス、それじゃあボクとどっちが活躍できるか勝負しようよ」
事前に打ち合わせなどしなくてもやることは決まっているのか、飛び出した三人は三方向に分かれてナイトメアへと向かって行く。
あっという間に戦闘態勢に入った三人を見ながら、カタリナは後衛の二人に声をかける。
「ミリアムは後方から援護を、アウラは負傷者が出たらすぐに回復しろ」
「わかったわ」
「任せて下さい」
二人は油断なく頷くと、ナイトメアと肉薄している三人に防御魔法をかけていく。
「アウラはアイギスを見て、残りの二人は私が見るから」
「わかりました」
防御魔法をかけ終えたアウラたちは、各々の分担を決めて何が起きても大丈夫なように、油断なく魔法を発動できる構えを取る。
「うむ」
後方の二人の連携に満足そうに頷いたカタリナは、最後にセツナへと向き直る。
「そして少年……」
「は、はい」
最後に回されたセツナは、一体何を言われるのかと緊張した面持ちでカタリナからの言葉を待つ。
真剣な表情のセツナを見て微笑を浮かべたカタリナは、彼への作戦を伝える。
「少年、君への作戦は……ない」
「えっ?」
「そんな顔をするな。君を見捨てるとかそう言う意味じゃない」
一転して不安そうな顔になるセツナに、カタリナは手で制しながら話す。
「少年、君には状況を見極めて自由に行動してほしい」
「自由に?」
「ああ、私たちとミリアムたちの間にはどうしても間ができるからな。少年はその間を自由に行き来して全員のサポートと、ナイトメアの観察を頼む」
「あいつの観察……ですか?」
全員のサポートに徹するのは理解できたが、まさかの敵の観察という任務に、セツナは小首を傾げる。
「観察って一体何をするのですか?」
「これは私の見立てだが、このまま戦っても奴に勝つのは無理だろう」
「無理? 難しいではなくて」
「ああ、無理だ」
他の者には見えない何かが見えるのか、カタリナは自信をもって頷く。
「奴の攻撃を受けて思ったのだが、あいつは普通のアンデッドとは何かが違った」
「何かが違う……ですか?」
「ああ、槍の一撃をまともに頭部に受けた訳だが、奴ほどの巨体なら頭部が半分ほど吹き飛んでもおかしくなかったが……どういういわけか打撲程度で済んだ」
そう言ってカタリナは、前髪を掻き上げて綺麗な額をセツナに見せる。
仙丸薬を飲み、アウラの回復魔法を受けて傷そのものは治ってはいるが、よく見ればナイトメアの一撃を受けたと思われる箇所はほんの少しだけ赤くなっていた。
「以上のことから奴の体には、何かしらの秘密があると思われる。少年にはそれが何であるか見極めてもらいたい」
「わかりました」
カタリナの意図を聞いて納得したセツナは、大きく頷いてみせる。
「これまでの立ち回りでも多少の違和感はあったので、それを中心に探ってみます」
「そうしてくれ、ついでにこれも渡しておこう」
そう言ってカタリナは、胸の谷間から鮮やかなブルーの小瓶を取り出す。
「レオーネの奴が真面目に仕事をして作った特製の聖水だ。そこら辺の聖水より強力だから、良きように使ってくれ」
「……わ、わかりました」
貴族が使う香水のような洒落たデザインの小瓶に入った聖水をセツナは、震える手で受け取る。
カタリナの豊満な胸の間に埋まっていた小瓶は、予想通り彼女の体温が伝わって温かく、セツナは緊張で小瓶を落とさないようにしっかりと握りしめた。