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浄化の光

「な、何ですか?」


 意味深な表情で見詰めてくるミリアムに、アウラは緊張した面持ちで彼女に尋ねる。


「私の顔に何か付いていますか?」

「ううん、そうじゃないの」


 ミリアムはかぶりを振ると、アウラの手に自分の手を重ねる。


「アウラ……あなたアンデットたちを一掃させる魔法を使えるわよね?」

「ホーリーブレスのことですか? はい、使えます」


 ミリアムの質問に、アウラは静かに頷く。


 ホーリーブレスとは、他の魔物には一切効果がないが、唯一アンデッド系の魔物にだけ作用する魔法で、その効果は魔法の有効範囲内のアンデッドを強制的に残らず浄化して消滅させる効果を持つ。


 通路の先にいる魔物は殆どがアンデッド系の魔物なので、ホーリーブレスを使うことができれば、この状況を打破できるかもしれなかった。


「使えます。使えますが……」


 だが、そんな千載一遇な策があっても、アウラの表情は優れない。


「あの魔法は消費魔力が多いですから……今の私では無理です」


 期待に応えられないことに、アウラは意気消沈したように肩を落とす。


 この絶望的な状況を確実に乗り切れられる方法があるとすれば、間違いなくホーリーブレスの魔法かもしれない。

 だが、ホーリーブレスを唱えられるだけの魔力が残っているならば、意識を失っているカタリナを回復したいとアウラは思っていた。


 あの見ず知らずの冒険者たちを助けなければ、回復魔法一回分の余剰はあっただろうから、少なくともカタリナは救えたかもしれない。


 そう考えると、アウラは悔やんでも悔やみきれなかった。


「すみません、私が考えなしに魔法を使ったから……」

「大丈夫よ、そんなことは些細な問題だわ」


 確認したかったのはホーリーブレスが使えるかどうかであって、使えるだけの魔力が残っているかではないことを言いながら、ミリアムはアウラの顔を両手で包み込む。


「アウラ、今からあなたに私の残りの魔力を送るから、それでホーリーブレスを使いなさい」

「えっ、そんなこと可能なんですか?」

「可能よ。エルフだけが使える、特別な魔法なの」


 そう言って華麗にウインクしてみせたミリアムは、アウラの顔を両手で包み込んで引き寄せる。


「えっ? ちょ、ミリアムさん!?」

「動かないで」


 キスされるのでは? と目を白黒させるアウラに、ミリアムは冷静な口調でぴしゃりと黙らせると、そのまま彼女の額と自分の額を合わせる。


「いい? 今から私の魔力を送るから、動かないでね」

「は、はい……」


 超至近距離でミリアムの見目麗しい顔で見詰められたアウラは、心臓が高鳴るのを自覚しながらようやく声を絞り出して返事をする。


(ミリアムさんの目、綺麗……まつ毛もあんなに長いし)


 今はそんな状況ではないことは百も承知だったが、アウラは思わずミリアムの整った顔立ちに見惚れていた。



 すると、


「あっ……」


 アウラは自分の額から、温かな力が流れ込んでくるのを自覚する。

 ミリアムの言う通り、彼女の魔力がアウラへと流れ込んで来ているのだった。


 二人が額を合わせていたのはほんの数秒だったが、アウラと距離を取ったミリアムは大きく息を吐いて微笑を浮かべる。


「どう? これだけの魔力があればホーリーブレスは使える?」

「は、はい、十分です」

「そう……」


 力強く頷くアウラを見てミリアムは満足そうに頷くと、壁に背を預けてその場にしゃがみ込む。

 その顔は血の気を失って真っ青になっており、明らかに大丈夫そうに見えなかった。


「ミ、ミリアムさん!?」

「大丈夫、ちょっと疲れたから休むだけ……奴等がいなくなったら、ちゃんと走るから今は早く魔法を……」

「は、はい!」


 ミリアムの状況から一刻の猶予もないと察したアウラは、深呼吸を一つして前へと出る。


(今度こそ、皆の期待に応えてみせる!)


 そう息巻いたアウラは、足を肩幅に開いて小手の付いた両手を前へと掲げる。


「命を司る光の神子リュミエールよ、我が声に耳を傾け、この手に集え……」


 アウラが詠唱をはじめると白い光の粒子がどこからともなく現れ、彼女の周りに集まって周囲を漂い始める。

 徐々に大きくなった光の粒はやがて光の玉となり、アウラが手を天にかざすと、宙へと舞い上がってさらに大きく成長して周囲を照らし出す。


「ギャッ!?」

「ギャギャギャッ!」


 さらに大きくなり、フロアを煌々と照らす光の玉を見て、フロア内を無秩序に動き回っていたアンデットたちが一斉に気付く。


 だが、


「もう遅いです。いきます……ホーリーブレス!」


 アウラが掲げていた両手の平を合わせると光の大玉が弾け、衝撃波となってフロアを塗り潰すように駆け巡る。


「――っ!?」


 光の衝撃波を受けたアンデットたちは、一瞬だけ身じろぎしたかと思うと、糸が切れた操り人形のようにバタバタと倒れていく。

 さらに倒れたアンデットたちの体がサラサラと砂のような粉となり、まるで最初から何もなかったかのように跡形なく消え失せる。


「す、すご……」


 初めて見るホーリーブレスの威力に、アイギスは驚いて息を飲む。


「これで後はこのフロアを駆け抜ければ……」

「まだよ!」


 一息吐こうとするアイギスに、ミリアムから注意の声が飛ぶ。


「まだ普通の魔物たちが残ってるわ。アイギス……」

「わかってるわよ」


 意識を失っているカタリナを静かに地面に降ろしたアイギスは、ニヤリと笑って愛用のレイピアを構える。


「後輩が頑張ったんだもの、期待に応えてみせるわ」

「頼むわよ」

「任せて、五分で終わらせるわ」


 アイギスは可愛らしくウインクしてみせると、ホーリーブレスの影響を受けずに残っている魔物たちに向かって駆けていく。



「お前たち、どきなさい!」


 近付いてきた牛の魔物の脇をアイギスが駆け抜けると、


「ブモオオオオォォ!」


 一瞬で切り裂かれたのか、魔物は全身から血を吹き出しながら倒れる。


「次!」


 倒した牛の魔物には目もくれず、アイギスは次の魔物に向かって襲いかかっていく。

 遅れてやって来た魔物たちも、アイギスの剣技の前になすすべもなくあっさりと倒されていく。


「はああああああぁぁっ!」


 気合の雄叫びを上げながら最後の魔物、大トカゲの魔物を倒したアイギスは、レイピアに付着した血糊を振り払いながら後ろの仲間たちに向かって笑いかける。


「どうよ、この程度の魔物なんて私の手にかかれば……」

「アイギスさん!」


 だが、そんな白い歯を見せるアイギスに、アウラから悲鳴にも似た声がかけられる。


「まだです! ナ、ナイトメアが!」

「……えっ?」


 まさかの名前が飛び出したことに、アイギスは身を固くしながら背後を振り返る。


 そこにはいつの間にか現れたのか、馬に乗った首のない騎士が、手にした長大な剣を振り抜こうとするところが見えた。

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