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地上へ向けて

 十分な話し合いをしたアウラたちは、ダンジョンから脱出するための作戦へと打って出る。


 玄室で朝まで待つという選択肢もあったが、ダンジョン内のアンデッドは何処に湧き出るのかわからないのと、室内にいたアンデッドたちも完全に消滅までには至っておらず、復活すれば一気に窮地に陥る恐れがあったからだ。


「本当に……本当にこの作戦でいいのでしょうか?」


 作戦の最終確認を終えたアウラは、気絶しているカタリナを背負っているアイギスに心配そうに話しかける。


「今からでも、私とアイギスさんの役割を交代しませんか?」

「ダメよ。何度も言ってるでしょう」


 気絶した人一人背負っているにも拘わらず、まるで重さを感じさせないようにしっかりと立ちあがったアイギスは、蠅を追い払うように手を振りながら話す。


「この中で力では私が一番だから、カタリナさんを背負っても移動速度は殆ど落ちないのはわかってるでしょ」

「ですが、いざという時は皆さんを見捨てろなんて……」

「それに関しては酷なことを頼んだと思ってるわ」


 アウラたちの立てた作戦は、最短ルートを通って逃げることを最優先させるが、万が一逃げるのが難しい状況に追い込まれた時は、アウラが全員を犠牲にして地上へ助けを求めに行くことになっていた。


 逃げ足だけに関していえばアイギスに一日の長があるが、アウラたちが選んだ道は、全員での生還だった。


 故に、アイギスだけが先行して外に助けを求め、全滅だけは避けるという消極的な作戦は却下されたのであった。


「でも、何も心配しなくても大丈夫よ」


 身を固くしているアウラに、アイギスは彼女の肩を軽く叩きながら笑いかける。


「こう見えて私もミリアムも何度か死んでるから死ぬことへの恐怖はないし、アウラなら絶対に地上まで逃げられると思ってるわ。それに……」

「それに?」

「…………」


 小さく小首を傾げるアウラに、アイギスは顔を赤面させてそっぽを向いて呟く。


「あいつが……来るかもしれないでしょ?」

「……あいつ?」

「ああ、もう、セツナよ! わかってるでしょ!」


 察しの悪いアウラに、アイギスは恥ずかしさを紛らわすように思わず感情を爆発させる。


「私たちが帰ってこないことを知ったセツナが、助けに来てくれるかもしれないって言ってるの!」

「そ、そうですね。セツナ君なら……」


 底知れない実力を持つ自分たちと同じホームに住む少年の姿を思い出し、アウラは喜色を浮かべて頷く。


「セツナ君なら、私たちのピンチに駆けつけてくれるかもしれませんね」

「アウラ……」


 嬉しそうに頬を染めるアウラを見て、アイギスは何かを察して静かに彼女に尋ねる。


「アウラ、あなたもしかして……」

「えっ? 私がどうかしましたか?」

「う、ううん、何でもない」


 自分が今、どんな表情をしていたかまるで分っていない様子のアウラに、アイギスは慌ててかぶりを振る。


「とにかく、セツナが来るかもしれないんだから、今はこの場を切り抜けることだけを考えましょ」

「はい、いきましょう」


 セツナの名前を聞いた効果かどうかはわからないが、すっかり元気を取り戻した様子のアウラは頷くと、玄室の外の様子を伺っていたミリアムの下へと駆けていった。



 ミリアムの魔法で近くに敵がいないことを確認した鮮血の戦乙女ブラッディ・ヴァルキュリアの面々は、夜でも不思議と明るいダンジョンの三階層へと飛び出していく。


 なるべく音を立てないように、忍び足で移動しながらアウラは気になっていたことを口にする。


「玄室内は暗いのに、通路が明るいと今が夜だなんて信じられませんね」

「そうね、だから三階層では、より時間の管理が大事だと言われているわ」

「ナイトメア、ですね」


 思わず息を飲むアウラに、アイギスは静かに頷く。


「アンデッドはともかく、あいつ等だけはどうにもならないからね」

「……ナイトメアって、どうやっても倒せないのでしょうか?」

「そんなことないわよ」


 アウラの疑問に、一度カタリナを背負い直したアイギスはあっさり否定してみせる。


「現に一階層と二階層のナイトメアは既に倒されているわ。そして、あいつだけは一度でも倒せば二度と復活しないわ」

「そうなんですね」

「ちなみに一階層のナイトメアを倒したのは、カタリナさんよ」

「ええっ!?」


 驚いて目を見開くアウラに、アイギスは自分のことのように嬉しそうに話す。


「一階層のナイトメアは、大きな鎌を持った足のない化物だったんだけどね。カタリナさんの剣は対アンデッドへの特効があるから、それで粉微塵にしたのよ」

「はぁ……前から凄いとは思ってましたけど、カタリナさんって本当に凄い人なんですね」

「そうよ、私たちのギルドマスターは、最強なんだから」


 気を失ってこそいるが、カタリナが目を覚ませば今の状況もどうにかできるはず。



 そんな期待が沸き上がってくるが、


「盛り上がってるところ悪いけど、二人共、少し静かに」


 戦意が高揚してきたところで、水を差すような冷静な言葉が投げかけられる。

 一人先行して斥候をしていたミリアムが、唇に手を当ててアウラたちに忠告してくる。


「この先の広間にアンデットたちが大量に湧いているわ」

「えっ?」

「本当に?」


 ミリアムの言葉に、アウラたちは緊張で身を固くすると、足音を立てないようにそっと彼女のすぐ脇に立つ。


「……本当だ」


 アウラの視線の先は以前、セツナがサキュバスたちに捕らえられた広間だった。


 死んだサキュバスたちが遺した魔力を糧に、彼女たちの餌となった多くの死体が次々とゾンビとなって蘇っていたのだ。

 優に数十にも及ぶゾンビの群れに、アウラは顔を青くさせながらミリアムに提案する。


「で、では、迂回路を……」

「それはダメよ」


 アウラの意見を、ミリアムはすぐさま斬って捨てる。


「そんな遠回りをしている間に、ナイトメアに見つからない保証はないわ。全員無事に逃げ切るのなら、最短距離を駆け抜けるべきだわ」

「で、では、どうするのですか?」

「それについては大丈夫、お姉さん、ここを切り抜けるとっておきの方法をちゃんと考えてあるから」


 ミリアムは優し気な笑みを浮かべると、アウラの肩を軽く叩いた。

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