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エッチな聖女様

「はぁ、どうしてこんなことに…………」


 何度目になるかわからない溜息を吐きながら、セツナは自分の置かれた状況を確認する。


 神官騎士大隊長、ハマーとの会談の後、セツナは教会へと戻ることなく、教会がある地区を管理しているリブラ教の有力者の屋敷に来ていた。


 冒険者でもなければ、貴族特有の権力争いにも興味がないという敬虔なリブラ教徒である屋敷の主は、ヴァルミリョーネ大律師からのアウラと歓談したいという要請に、快く屋敷の一番いい部屋を差し出してくれた。


 カタリナから手紙を読ませてもらった時から、ヴァルミリョーネがアウラを呼び出すような展開は何となく予想できたセツナではあったが、そこから先の展開は予想できなかった。


 腹違いの兄であるヴァルミリョーネからの呼び出しにアウラは、


「わかりました。ですが夜も遅くなるので、セツナさんに護衛をお願いしてもいいですか?」


 そう言って、セツナも一緒に来るようにハマーに申し出たのだった。


 当然ながら神官騎士大隊長という立場にあるハマーが、自分がアウラの護衛になると申し出たのだったが、


「この街ではハマーより、セツナさんの方が頼りになりますから」


 そこまでハッキリと断じられてはセツナもハマーも返す言葉もなく、アウラの言う通りにするしかなかった。



 領主の屋敷に連れてこられたセツナは、ヴァルミリョーネに会うために着替えるというアウラの衣装に合わせるため、屋敷の者に用意された服、執事が身に纏う燕尾服に着替えて用意された部屋で彼女を待っていた。


 通されたのは贅の限りを尽くしたようなとても立派な部屋で、細かな模様が施された絨毯に、見るからに重厚で値が張りそうな重厚な家具と煌びやかな調度品の数々、どれもこれも一生かけても手に入れられそうな高級品を前に、セツナは部屋の真ん中でまともに身動きも取れずにいた。


「はぁ……」


 息が詰まりそうな状況に、セツナは堪らず無理矢理付けられた蝶ネクタイを緩める。



 すると、


「もう、せっかく着付けてもらったんだから崩しちゃダメだよ」

「あっ、はい、すみません」


 見知ったアウラの声が聞こえ、セツナは弾けたように声のした方へと顔を向け、


「あええええええええええええぇぇっ!?」


 驚きに目を見開いて、金縛りにあったかのようにその場に固まる。


 セツナの視線の先には、いつものリブラ教の女性信徒が着ている白い法衣から、踊り子を思わせるような露出の激しい衣装に着替えたアウラがいた。


 一応、全身をヴェールのような薄い布で覆っているが、それでも向こう側が透けて見えるほど薄い布では、申し訳程度にしか隠されていないアウラの未発達な胸や、普段では絶対に見ることがないへそから鼠径部、そして布面積が明らかに少ない下腹部がはっきりと見て取れた。


「あ、あうあうあう……」

「もう、そんなに驚かなくてもいいでしょ」


 普段良く知る人物の半裸にも近い格好に慌てふためくセツナに、アウラは苦笑しながら手を伸ばして彼の蝶ネクタイを直してやる。


「普段はしないんだけど、これが私の聖女としての衣装なのよ」

「せ、聖女として……」


 聖女というよりは、行ったことはないが、歓楽街の酒場で男に媚びを売る踊り子のようだとセツナは思う。


「ああっ!?」


 すると、セツナの視線に気付いたアウラがジト目になって彼へと詰め寄る。


「今、私のこといやらしい目で見たでしょ」

「み、みみ、見てないです!」


 慌てて首を横に振って否定するセツナであったが、赤面し、鼻の下が伸びているので説得力はまるでなかった。


 そんなことはアウラも承知しているのか、せめてもの抵抗にと薄いヴェールを体に巻き付けながら不貞腐れたように話す。


「やっぱりセツナ君も、こんなの聖女の格好じゃないと思うよね」

「そ、そんなこと……」


 ない。というのは簡単だが、ここで嘘を吐くのは良くないと判断したセツナは、アウラから視線を外しながら静かに思ったことを口にする。


「はい、その……聖女というにはエッチ過ぎると思います」

「そう……だよね」


 当然ともいえる指摘に、アウラは大きく嘆息して聖女の衣装を見下ろす。


「皆が言うには、聖女は人々の希望の柱になる存在だから、こうして目立つ格好をする必要があるんだって」

「そ、そそ、そうなんですね」

「うん、そうなの……」


 恥ずかしそうに背を向けて話すセツナを見て、アウラは微笑を浮かべて手を伸ばし、彼の手を取る。


「セツナ君」

「ひゃ、ひゃい!?」


 アウラはセツナの腕を取って自分の腕と絡めると、耳まで真っ赤になっている彼に向かって笑いかける。


「今日は私のエスコート、よろしくね?」

「は、はい……でも、エスコートって何をすれば?」

「何もしなくていいよ。ただ、私の近くで静かにしてくれればいいから」


 そこまで言ったところで、アウラは笑顔を引っ込めて申し訳なさそうに眦を下げる。



「その……ゴメンね」

「えっ、何がですか?」


 わからないと小首を傾げるセツナに、アウラは彼の体温を感じるように身を寄せながら話す。


「今回の懇談会にセツナ君を呼んだこと、本当はセツナ君のこと巻き込みたくなかったんだけど……」

「アウラさん……」


 そこでセツナは、アウラが小さく震えていることに気付く。


 これから親族と会うのに、まるで怯えたように小さくなるアウラを見て、セツナはカタリナから見せられたヴァルミリョーネから届いたという手紙を思い出す。


(もしかしたらアウラさんは、お兄さんの考えを知っているのかもしれない)


 ヴァルミリョーネが聖女を排除しようという過激な思想の持ち主であることをアウラが知っているのであれば、この場にセツナを呼んだ理由もおのずとわかって来る。


 流石に犯人が簡単に絞れてしまうこの場で、アウラを殺すなどという凶行に出るとはセツナも思っていないが、それでも万が一ということはある。


(なら、僕がすることは一つだけだ)


 自分の決意を固めたセツナは、アウラに向かって話しかける。



「構いませんよ」

「えっ?」


 悲しそうに目を伏せるアウラに向けて、恥ずかしくて彼女の顔を見る勇気はないセツナであったが、顔を背けたままはっきりと自分の想いを告げる。


「僕に何ができるかわかりませんが、壁ぐらいにはなれるのでドンドン頼って下さい」

「セツナ君……」

「その……アウラさんにはもっと自由に笑っていてもらいたいです」

「……うん」


 そういう台詞はできれば目を見て言ってほしいと思うアウラであったが、セツナの精一杯の勇気を受け取ったことで彼女の顔に笑顔が戻る。


「頼りにしてるからね」

「任せてください」


 セツナは勇気を振り絞ってアウラの方を振り向き、ぎこちない笑顔を作って見せた。

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