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No Mercy

「さて……」


 最初にボタンを押して暫く様子を見ていたヴェルガーは、最初に押したボタンを再び押して立ち上がる。


「そろそろ終わっていると思いますよ。いきましょうか」

「は、はい……」


 店の方から何やら野太い悲鳴が聞こえていたが、あくまで冷静に振る舞うヴェルガーに、セツナは若干の恐怖を覚えながら彼に続いて店の入口へと向かう。



 入口が見えたところで床に穴が開いているのに気付いたセツナは、息を飲んでヴェルガーの方を見やる。


「何、ちょっとした防犯装置の一つですよ」

「防犯……装置」


 全然ちょっとじゃないと思いながらも、セツナはおそるおそる穴に近付いて中を覗いてみる。


「あっ……」


 思わず声を上げたセツナの視線の先には、穴の中で水に半身が浸かった状態でぐったりと項垂れている三人の男たちがいた。


「うっ、ううっ……」

「もう棒は嫌だ……棒は嫌だ…………」

「あばばばば……」


 一体何をされたのかわからないが、どうやら穴の中で拷問に近い目に遭ったようで、三者三様に怯えているのが見て取れた。


(これが防犯装置の一つということは、この店で不埒な行いをしようものなら……)


 他に一体どんな防犯装置があるのかと、思わずセツナが周囲を見渡していると、長い棒を手にしたヴェルガーが横にやって来て、穴の中の一番手前にいるモヒカンの男の身体を突きながら声をかける。


「どうです? 自分がいかに愚かな行為をしようとしたのか理解しましたか?」

「あっ、あうぅ……やめ……もう、やめて」

「やめてほしかったら、私たちの質問に答えなさい。いいですね?」

「答えます……何でも答えますから…………もう、許して」


 すっかり心が折れた様子のモヒカンの男を見て、ヴェルガーはセツナに頷いてみせながら場所を譲る。


「さあ、セツナ君……」

「わ、わかりました」


 ヴェルガーに代わって前へと出たセツナは、怯えた様子で震えている男たちに質問する。


「あなたたちは、どうしてアウラさんを狙うのですか? 一体、誰に頼まれたのですか?」

「……えっ?」

「あんた、何言ってんだ?」


 セツナの質問に、男たちは困惑したように顔を見合わせる。


「その前に一ついいか?」

「アウラって……誰?」

「えっ?」


 男たちまさかの反応に、セツナは唖然としながら再び問い詰める。


「あなたたちは、教会の人に頼まれてアウラさんを襲いに来たのではないのですか?」

「な、何言ってんだ。そんな依頼、俺たちに来るわけないだろ」

「そうだぜ、それにもし教会からそんなこと言われても、怖くて絶対にやりたくないぜ」

「俺たち、自分より強い者には戦いを挑まないと決めているんだよ……クソッ、こんなことならこんな依頼、受けるんじゃなかった」

「…………」


 中々に最低なことをいう男たちに、セツナは呆れるしかなかった。


「じゃ、じゃあ、あなたたちの狙いは?」

「それは兄ちゃん、あんただよ」


 モヒカンの男は震える手でどうにかセツナを指差して、自分たちが受けた依頼について話す。


「酒場で遊んでいた時にイケメンの兄ちゃんから、生意気な犬がいるからシメてほしいって言われたんだよ」

「そうそう、冒険者だったらお断りだけど、犬ぐらいならちょっと脅せばどうにかなると思ったんだ」

「だけど、こんな目に遭うならもうこの街から去るから……お願いだから許してくれ」

「…………」


 立ち上がる気力もないのか、水溜まりの中でひれ伏す三人を見て、セツナは頭痛を堪えるように頭を押さえる。


 どうやら狙われたのはアウラではなく、セツナだった。


 男たちの話が事実なら、依頼者はかつてセツナに下剤入りのダイフクを食べさせられた冒険者、炎のライオネスのようだった。



「セツナ君、どうやら誰かから恨みを買ってしまっているようですね」

「は、はい、すみません……」

「いえいえ、気にしないで下さい」


 頭を下げて謝罪するセツナに、ヴェルガーは笑顔のまま気にしていないとかぶりを振る。


「この街ではこれぐらいのいざこざは日常茶飯事ですよ。むしろ、犬である君が存在感を示せば、彼等の地位向上に繫がるやもしれませんからね」


 この街の教会の犬の待遇について思うところがあるのか、ヴェルガーは穏やかな笑みを浮かべる。


「ですから、これからもどんどん暴れてやりなさい。何、レオーネの後ろ盾があれば、大体のことはもみ消せますから」

「は、はぁ……」


 何だかサラッと恐ろしいことを言われたような気もするが、反論する理由もないのでセツナは戸惑いながらも頷く。


「期待していますよ」


 セツナに頷き返したヴェルガーは、彼と場所を代わってもらい、中の男たちへと声をかける。


「さて、君たちにはそろそろご退場願いましょうか?」

「こ、ここから出してくれるのか?」

「早くはしごか何か降ろしてくれ。寒くてしょうがないんだ」

「もう、二度とこの店には手を出さないから、頼む」

「ええ、わかっていますよ」


 男たちの要請に静かに頷いたヴェルガーは、入口のすぐ脇にある天井からぶら下がっている紐を引っ張る。


 すると、穴の中からガコン、という何かがはずれるような大きな音が聞こえ、


「えっ? わ、わあああああああああああああああああぁぁぁ!」

「落ちる……落ちるううううううううううううううううううぅぅ……」

「怖いよ。お、おかあちゃあああああああああああああああああああああぁぁぁん!!」


 三人の男たちは、中に溜まった大量の水と共に何処かに押し流されていった。

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