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彼方からの手紙

 カタリナから受け取った手紙は、女神の刻印の封蠟がされた見るからに上等な手紙だった。

 裏返して差出人を見てみると、流麗な文字で『ヴァルミリョーネ』と書いてある。


 初めて見る名前に、セツナは首を傾げてカタリナに尋ねる。


「あ、あの、カタリナさん。この人は?」

「その方はヴァルミリョーネ大律師。アウラの腹違いの兄にあたる人物だ」

「腹違いの……兄」


 ということは、この手紙を書いた人物はアウラの家族ということだ。


 大律師という立場が教会内でどれだけの地位の人なのかは、リブラ教徒ではないセツナにはわからない。

 だが、アウラの父親が一番偉い人なのだから、ヴァルミリョーネもそれなりに偉い人なのだろうと考えながら中の手紙を読んでみる。


「……ふむ」


 宛名と一緒で流麗な文字で書かれた手紙には、長ったらしい挨拶から始まり、近況の報告、家族の話に続いてアウラを心配するような文言が並ぶ。


 最後に、近いうちに視察でオフィールの街に赴くから、一緒に食事でもしようと書いてあった。


 カタリナから内密にと言われたので、何か重要なことが書かれていると身構えていたセツナであったが、普通によくある家族からの手紙で肩透かしをくらう。

 手紙の裏面や封筒の中も見て、不審なものがないのを確認したセツナは、最初に受け取った時と同じ状態に戻してカタリナに尋ねる。


「あの……これの何か問題が? というより、どうしてアウラさん宛の手紙をカタリナさんが持っているのですか?」

「ん? ああ、まあ、そう思うのは当然だな」


 カタリナはセツナから受け取った手紙を再び胸の谷間へとしまうと、アウラ宛の手紙を持っている理由を話す。


「実はこれまでに何度もアウラ宛の手紙や連絡はあったのだが、その全てを私とレオーネで握り潰してある」

「……えっ?」

「アウラの事情については、既に知っているのだろう?」

「あっ、はい」


 アウラは時期聖女となるべく存在で、出家して教会に入るその僅かな時間の間、見聞を広めるため、世間に聖女という存在を浸透させるためにオフィールの街で冒険者として活動することが許されている。


 今のところアウラという存在が、オフィールの街に及ぼす影響は、殆どないと言っても過言ではない。

 だが、アウラは冒険者の中でも数少ない回復魔法が使えるので、ダンジョンの階層ボスに挑むといった大規模作戦の時が来れば、彼女に対する評価が一変するかもしれないとレオーネから聞いていた。


「そうだ。よく覚えていたな」


 セツナの解答を聞いたカタリナは、満足そうに頷く。


「では、レオーネがアウラを聖女として扱う気がないことも知っているな?」

「はい、僕にアウラさんと仲良くなって欲しいと言われました」

「うむ、それについては私も同意見だし、実際に少年はよくやってくれているよ」


 どうやらアウラの処遇については、レオーネとカタリナの間で取り決めがあるようだ。


「とまあ、そんなわけで私たちはアウラに普通の青春を送ってもらうため、教会からの連絡は極力潰してきたのだ」

「なるほど……」


 どうやらカタリナたちはアウラの知らないところで、彼女が普通の女の子として暮らせるようにあれこれ動いていたようだ。


 大人二人がアウラのために秘密裏にあれこれしていたことなど、露にも知らなかったセツナは感心したように目を輝かせる。


「全然、気付きませんでした」

「フッ、そういう暗躍は私もレオーネも得意だからな」

「そうなのですか?」

「ああ、何といって、堅物のレックス曰く、不真面目なのが取り柄だからな」


 そう言ってカタリナは、自嘲気味に笑って肩を竦める。


「本当はそんな感じで暫くのらりくらりとかわすつもりだったのだが、ここに来て少し潮目が変わったのだ」

「それが、この手紙というわけですか?」

「そういうことだ」


 カタリナは豊かな胸を下から持ち上げるように腕を組むと、大きく嘆息する。


「そこら辺の有象無象の連中の報告なら無視することができたが、流石に大律師という立場の人間となると、無下にするわけにはいかない」

「……でも、アウラさんのご家族なんですよね?」


 カタリナの様子からも大律師という立場がかなり偉い人物であることは理解できたセツナであったが、だからこそわからなかった。


「ご家族がわざわざ会いに来てくれるのに、僕がアウラさんを守る必要なんかあるんですか?」

「まあ、そうだな……」


 セツナの質問に、カタリナは後頭部をガリガリ掻きながら歯切れの悪い態度をとる。


「…………」


 カタリナはまるで近くに怪しい者が潜んでいないかどうかを確認するように周囲を見渡した後、セツナに向かって人差し指で近くに寄るように指示を出す。

 指示に従ってセツナがカタリナへと顔を寄せると、彼女が付けているであろう香水の匂いが漂ってきて心臓が早鐘を打ち出すが、どうにか胸を押させて平常心を保つ。


「…………な、何でしょうか?」

「うむ」


 聞く姿勢を取ったセツナに、カタリナは耳に顔を寄せてあることを小さな声で囁く。


「実はだな……ヴァルミリョーネ大律師がアウラを暗殺しようと画策しているという噂があるんだよ」

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