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デートで大切なこととは?

 宣言通り、カタリナとセツナのデートはその後も続いた。


 屋台村を後にしたセツナたちは、近くの商店を見て回ることにした。


 道具屋で冒険に必要なアイテムと、セツナのお菓子作りに使う調理器具や材料を購入して教会に届けてもらう手配をした。


 続いて向かったのは衣料品店で、カタリナが普段着るドレスをセツナが選んだ。


 ついでにセツナも普段着用の服を見繕ってもらい、さらに気に入って服をカタリナがプレゼントしてくれた。


 次は広場で開催していた舞台へと足を運び、人気の演目だという歌劇を鑑賞した。


 その手の芸術はさっぱりわからなかったが、隣に座ったカタリナが笑顔でいてくれるだけで、興味のなかった歌劇がとても素晴らしいものに見えた。


 歌劇を見終わると丁度よく昼食時になったので、カタリナはとっておきのレストランでランチをご馳走しようと提案してくれた。


 だが、ここまで全ての場所でおごってもらい、さらに高級なレストランで奢ってもらうのは気が引けると、セツナはレストランに比べて割安で済む屋台村で食べることを提案した。



 昼時の屋台村は多くの人で混雑しており、セツナたちは食べ物を買う前に先に座席の確保をすることにした。


「……何だ。まだ飲み切ってなかったのか」


 色々と店を回って来たにも拘らず、最初に買った特製ラブラブトロピカルジュースの瓶を手にしたセツナを見て、カタリナは呆れたように笑う。


「もしかして、気に入らなかったか?」

「そ、そんなことないです!」


 セツナはカタリナの言葉を否定するように強くかぶりを振ると、特製ラブラブトロピカルジュースの入った瓶を大切そうに両手で包み込む。


「これは、僕の初デートの思い出の品ですから大切に飲みたくて……後、せっかくなので瓶もとっておこうかと」

「そう……か」


 嬉しそうにはにかむセツナを見て、カタリナは彼の正面に座って話しかける。


「ところで少年、私とのデートは楽しいか?」

「はい、とっても」

「それは何よりだ」


 テーブルに肘を付き、手の上に頬を乗せたカタリナは優し気な微笑を浮かべる。


「そういえば、もう一つを少年に話してなかったな」

「えっ、何をですか?」

「デートで大切なことだよ」


 カタリナは人差し指を伸ばしてセツナの胸元へと持っていくと、ツンと優しく突く。


「もう一つ……というよりこっちが本命だが、デートする時は、相手のことをよく考えてやることだ」

「相手のことを考えて……」

「そうだ。デートする相手が何をしたら喜び、楽しんでくれるかを考えるんだ。ただし、相手のことだけを考えてはダメだ」

「……ダ、ダメなんですか?」

「ダメだな」


 思わず首を捻るセツナに、カタリナは鷹揚に頷いて続きを話す。


「こちらが相手を想うように、向こうもこちらを想っていることを忘れてはいけない。故にデートでは相手のことを想いやりながら、自分も一緒に楽しむことを忘れてはいけないんだ」

「なるほど……」


 相手を楽しませることだけに注力していれば、デートが予定通り進んでいる限り自分は気持ちいいかもしれない。


 だが、もてなされている方からすれば、相手が無理をしていると映るかもしれない。

 だから相手だけでなく、自分も楽しんでいることを相手にわかるように伝えることが大事なようだ。


 最期の言葉を聞いて色々と腑に落ちたセツナは、今日のデートを思い返しながらカタリナに尋ねる。


「カタリナさんも僕とのデートは楽しかったですか?」

「ああ、勿論だ。大いに楽しませてもらったよ」


 そう言ってニヤリと笑ってみせるカタリナであったが、それが本意なのかどうかはセツナにはわからない。


(でも、カタリナさんのことだから、僕のことを想って行動してくれたことは間違いない)


 田舎から出て来て、女の子と碌に会話もできないどころか、まともな接し方すら知らないセツナのために、デートと称して色々と指南してくれたのだ。


 そう判断したセツナは、笑顔を浮かべているカタリナに向かって深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。カタリナさんの教えを胸に、今後も精進したいと思います」

「うむ、大いに青春を謳歌するといい」


 言いたいことが十分に伝わったと、カタリナは大きく頷くと、


「では、そろそろ本題に入らせてもらっていいか?」


 神妙な顔でセツナへと話しかける。



「実は今日、君をデートに誘ったのは、あるお願いをしたいと思ったんだよ」

「お願い……ですか?」


 カタリナの様子から、何やら真面目な話だと察したセツナは、顔を上げて聞く姿勢を取る。


「一体何でしょうか?」

「ああ、実はだな……」


 カタリナはテーブルに肘を付いて両手を組み、その上に自分の顎を乗せると、真剣な面持ちで話を切り出す。


「君に、アウラを守ってもらいたいんだ」

「………………えっ?」


 カタリナからの思わぬ提案に、セツナはどういうことか彼女に尋ねる。


「あ、あの……アウラさんを守る、とは?」

「これだ」


 カタリナは大きく開いたドレスの胸元から一通の手紙を取り出すと、セツナへと差し出す。


「……読んでみても?」

「ああ、ただし他言は無用だぞ」

「わかりました」


 セツナはしかと頷いて、カタリナから手紙を受け取る。


(……温かい)


 この手紙が出てきた場所を思い出し、思わずセツナは頬を赤らめるが、すぐに強くかぶりを振って預かった手紙へと意識を向けることにした。

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