二人で愛のドリンクを
礼を言って店主からカラフルなドリンクを受け取ったカタリナは、呆気にとられる冒険者のカップルにニヤリと笑ってみせてからセツナの下へと戻って再び腕を絡める。
「少年、待たせたな。楽しいデートの続きといこうじゃないか」
「えっ? あっ……はい」
カタリナの強引さに呆気にとられるセツナであったが、ドリンクの値段を思い出して慌てて財布へと手を伸ばす。
「あっ、そ、そういえばお金を……」
「いやここは私におごらせてくれ」
カタリナは財布へと手を伸ばしていたセツナの手の上に自分の手を優しく重ねると、微笑を浮かべてかぶりを振る。
優しい眼差しを向けてくるカタリナに、セツナは困ったように眦を下げる。
「で、ですが、デートでは男の方がお金を持つべきだと……」
「誰だ? そんな適当なことを言った奴は」
「あ、その、アイギスさんに……」
「あいつか……」
思い当たる節があるのか、カタリナは微苦笑を浮かべる。
「確かにそういう風に考える奴もいるが、それとは別に大切なこともあるぞ」
「大切な……こと?」
「そうだ。理由は主に二つあるが、一つは年上がおごると言った時は素直に立てるべきだよ」
「……む、難しいです」
「ハハハ、そうだな。人付き合いというのはかくも難しいんだよ」
豪快に笑ったカタリナは、困惑するセツナの背中をポンポン、と軽く叩いてドリンクが飲める場所へと促した。
屋台村内にある自由に飲食ができる場所に設けられたテーブルへと移動したセツナは、そこでジュースを挟んでカタリナと座る。
「さあ少年、二人で仲睦まじく飲もうではないか」
「は、はい……」
ゴクリ、と喉を鳴らしてセツナが見る先には、イラスト通りに三層に別れてストローが二本刺さった瓶に入ったドリンクがある。
普通に売っている飲み物と比べて強気な値段設定なので、かなりの量があると思っていたが、生憎と瓶のサイズは二人で飲むには些か少ないような気がした。
明らかに値段の割に量が少ないドリンクを前に、セツナはジッと瓶を眺めながら正直な感想を述べる。
「……何だか、凄い損な買い物をしたような気がします」
「こういうのは雰囲気を楽しむものだからな。割高に感じるのは仕方ないさ」
カタリナは肩を竦めてみせると、ストローへと顔を近付けて中身を飲んでみる。
「ふむ……思ったより甘くはないな。ほら、少年も飲んでみろ」
「あっ、はい……」
セツナはカタリナが十分にドリンクから離れたのを確認すると、おそるおそる顔を近付けて『特製ラブラブトロピカルジュース』を飲んでみる。
「あっ……」
一番下の層の水色のジュースを一口飲んだセツナは、驚いたように目を見開く。
「お、おいしいです。もっと甘いと思ったのに……とても香り豊かで、爽やかな甘さです」
「だろ? 気に入ったのなら、もっと飲んでいいぞ」
「は、はい……」
お菓子好きとしてもっとこのジュースを味わいたいと思ったセツナは、再びストローへと口を付けて今度は真ん中の層の赤色のジュースを飲む。
「こ、これは……味が変わりました」
「何、本当か!?」
味が変わったと聞いて、カタリナもこうしてはいられないとストローへと顔を近付けて口を付ける。
すると、必然的にジュースを飲んでいるセツナと至近距離で見つめ合うことになる。
「――っ!?」
カタリナの顔が急接近してきたことに、セツナは驚いて弾けたように顔を離す。
「あ、あのあの……」
鼻息がかかる距離で見つめ合ってしまったことに真っ赤になるセツナを見て、
「フフフ、少年は相変わらず可愛いな」
対照的にストローに口を付けたまま余裕の笑みを浮かべたカタリナは、赤いジュースを飲んで大きく頷く。
「そんな初々しい態度を見せられたらお姉さん、君のことを食べたくなっちゃうぞ?」
「え、ええっ!? 食べるって……」
「フフッ、たまには若い果実を手折るのも悪くないかもな」
そう言ってカタリナは、赤いジュースで真っ赤になった舌でベロリと舌なめずりをする。
「ヒッ!」
まるで獲物を狙う蛇のような射竦める強い視線に、セツナはガタッ、と音を立てて逃げようとするが、それより早くカタリナが手を伸ばして彼の腕を掴む。
「冗談だよ。流石に公衆の面前でそんな馬鹿な真似するわけないだろう」
「…………は、はい」
だとすれば、二人きりだったら食べるのかな? そんなことを一瞬考えるセツナであったが、流石にそれはないだろうと椅子に腰を下ろす。
「いい子だ」
セツナがおとなしく席に座ったの見たカタリナは、先程とは色が違うジュースを一口だけ飲んで、彼に向かって瓶ごと差し出す。
「ほれ、残りは飲んでいいぞ」
「えっ? い、いいんですか?」
「ああ、こいつは確かにうまいが、私には少し甘すぎるからな」
「はぁ……」
だったらどうしてこのジュースを買ったのだろうと思うセツナであったが、このジュースをを気に入ったので、遠慮なくもらうことにする。
「…………うん、おいしい」
甘くて酸っぱい不思議な味のジュースに、セツナが舌鼓を打っていると、
「さて、少年。デートはまだ終わりではないぞ」
そう言ってカタリナは、華麗にウインクをしてみせた。