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まさかの不合格

「不合格です」

「…………えっ?」


 試験管から面接結果を聞かされたセツナは、理解が追いつかないのか、不思議そうに首を傾げながらもう一度尋ねる。


「今、何て言いました?」

「ですから、不合格と言ったのです」


 紫色のタイトスーツに身を包んだ女性は、細長の眼鏡の位置を直しながらセツナに冷たく言い放つ。


「残念ながらセツナさん、あなたを必要としているギルドはこの中にはありませんでした」

「なん……ですって」


 まさか面接で落とされると思っていなかったセツナは、この場にいる各ギルドのギルドマスターと思われる人物たちを見やる。


 上半身裸の筋骨隆々の野性味溢れる男に、東の国にいるという仙人を思わせるような何を考えているかわからない老人、蛇のように長く赤い舌をチロリと舐めている妖艶な雰囲気の女や、不遜な態度で腕組みをしている金髪碧眼の派手なドレスを着た美女、さらにはリザードマンや獣の耳と尻尾を持つ亜人等々……多種多様な人種がずらりと横に並んで座り、一様にセツナのことを見ている。


 後は少し離れた場所に、床にあぐらを組んでだらしなく座ってニヤニヤとこちらを見ている人相の悪いシスターがいた。



 どうしてあのシスターだけ少し離れた場所に座っているのかという疑問が浮かんだが、セツナは浮かんだ疑問を振り払ってギルドマスターたちに話しかける。


「あの、どうして僕は不合格になったのでしょう?」

「どうしてだって? わからないのかね?」


 セツナの質問に、長い耳を持つエルフの男性が大袈裟に肩を竦めながら話す。


「君は我々に、ダンジョンに来た理由を何と言ったか覚えているか?」

「えっと……」

「覚えていないのか? なら教えてやろう。君はこう言ったんだ『このダンジョンには、女の子との出会いを求めてきた』とね」

「おいおいレックス、それだけじゃないだろう?」


 レックスと呼ばれたエルフの言葉に、胸元が大きく開いたドレスを着た金髪碧眼の派手な美女が、赤い舌でチロリと唇を舐めてシニカルな笑みを浮かべる。


「こいつはさらにこう言ったんだ『女の子と仲良くなったら、おっぱいが揉みたい』ってね」


 自分の豊かな胸を揉みながら女性が下卑た笑みを浮かべると「ブハッ!」と誰かが吹き出す。

 響いた声に思わず驚いてセツナが声のした方に目を向けると、シスターが自分の膝を叩きながら爆笑していた。


「…………」


 とても神に仕える敬虔な信者とは思えない粗暴な態度に、セツナだけでなく、ギルドマスターたちも揃って顔をしかめる。


「……コホン、とにかくですね」


 エルフのギルドマスターが咳払いをして空気を引き締め直すと、改めてセツナが不合格になった理由を話す。


「ここに来る冒険者は、誰もが『黄昏の君』の遺産を手に入れるためにやって来るのです。あなたのような浮ついた者がいると、他の者に悪影響を及ぼしかねないのですよ」

「はぁ……つまり僕は、皆の和を乱すから仲間に入れてもらえないということですか?」


 セツナの疑問に、エルフのギルドマスターは不服そうに顔をしかめながら頷く。


「言い方がやや子供っぽいような気がしますが……端的に言えばその通りです」

「では、ここにいる皆さんとギルドに所属している全員は、漏れなく『黄昏の君』の遺産を見つけるためにいるのですか?」

「当然です。ギルドは運命を共にする家族も同然です。その理念が理解できない異分子が入り込む余地などないのですよ」


 堂々たる演説に、他のギルドマスターたちも一様に「うんうん」と頷く。

 どうやらこの場にいる全員が、エルフのギルドマスターの意見に賛成のようだった。


「そう……ですか」


 考えが違うからという理由だけで不合格にされたのは腑に落ちなかったが、ここでいくら文句を言ったところで結果が覆るわけではないと察したセツナは、がっくりと肩を落とす。


 果たして来週以降に再び面接に訪れ、考えが変わったと言ったところで受け入れられるだろうか?


「…………」


 真偽を確かめたいと思ったが、怖くて聞けなかったセツナは、代わりに浮かんだ疑問を口にする。


「あの……一ついいですか?」

「何ですか? 我々は忙しいのです。質問なら手っ取り早くしなさい」

「はい、ここにいる皆さんは、協力して『黄昏の君』の遺産の獲得を目指しているのですよね?」

「ええ、さっきからそう言っているでしょう」

「でしたら、見つけた遺産は誰のものになるのですか?」

「「「「――っ!?」」」」


 セツナの何気ない質問に、場の空気が一気に凍り付く。

 だが、そんな殺伐とした雰囲気を意にも返さず、セツナは質問を続ける。


「遺産が皆で分け合えるものであればいいのですが、一人しか恩恵を得られないものなら、見つけた人に全部くれるのですか?」

「……面白いね」


 セツナの質問に、離れた場所でニヤニヤと様子を伺っていたシスターが話しかけてくる。


「なら君はどうするんだい?」

「……どうするとは?」

「君が遺産を求める者で、他の奴が見つけたと聞いたらどうするってことさ? おとなしく祝福してこのダンジョンを去るかい?」

「そうですね。僕なら……」


 セツナはここにいる全員を見渡しながら、ゆっくりと思考を巡らせる。



 だが、


「いや、よそう」


 セツナが答えを口にするより早くシスターは一方的に話を打ち切ると、立ち上がって彼へと駆け寄って馴れ馴れしく肩を組んで笑いかける。


「それより、ここには君の居場所はないんだ。敗者はおとなしく立ち去ろうぜ」

「えっ? あっ、ちょっと……」


 思わず抵抗しようともがくセツナの頭を、がっちりと胸に押し付けるようにしてロックしたシスターは「邪魔したな」と言い残して面接会場から立ち去っていった。

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