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お姉さんの正体

「ハハハハ、さあ、楽しみましょう!」


 勢いよく飛んだビキニアーマーの女性は、腰から剣を抜いて空中からセツナへと斬りかかる。


「――っ!?」


 ビキニアーマーの女性から殺気が発せられた瞬間、素早くそれを察知したセツナは、大きく横へと飛んで彼女の攻撃を回避する。


「クッ……」


 視界の端で女性が剣を振り下ろすのを目にしながら素早く距離を取ったセツナは、ビキニアーマーの女性に向かって叫ぶ。


「いきなり何をするんですか!?」

「何? 何をするかですって?」


 ゆらりと立ち上がったビキニアーマーの女性は、真っ赤な舌で手にした剣の刃をベロリと舐めて妖艶に笑ってみせる。


「言ったでしょ? お姉さんと一緒に気持ちのいいことして遊びましょうって」

「気持ちのいいことして遊ぶって……だったらどうして剣なんか振り回すのですか?」

「どうして? だってそうしないとキミ……お姉さんのこと見てくれないでしょ?」

「い、意味がわからない?」

「分からない? そう、わからないの……」


 恐怖で顔を歪めるセツナを見て、ビキニアーマーの女性は顔を嗜虐的に歪める。


「だったら、その体で教えてあげるわ!」


 そう高々と宣言したビキニアーマーの女性は、再びセツナへ向かって斬りかかる。


「ちょっと手足の腱を切るだけだから、おとなしくしなさい!」

「何言っているんですか! そんなこと了承するわけないでしょう」

「大丈夫、後で治療はしてあげるからさ」

「な、尚更意味がわからない」


 物騒なことを言いながら武器を振り回してくるビキニアーマーの女性の攻撃を回避しながら、セツナは思わず腰のナイフへと手を伸ばす。


(でも……)


 いきなり襲われたからといって、ナイフを抜いて反撃していいものだろうかとセツナは迷う。


 セツナのナイフには、大型の魔物であるトロルすら一瞬で絶命させるほどの毒が塗ってある。


 故にナイフを振るえば、殆ど防具を身に付けていないも同然のビキニアーマーの女性の命を簡単に奪うことができる。


 しかしだからといって教会の犬であるセツナが、冒険者の命を奪ってもいいのだろうか?


 オフィールの街に来て最初に面談を受ける前に冒険者の心得について書かれた紙には、冒険者同士の争いはご法度であり、ダンジョン内での争いの果てに相手を殺してしまった場合、冒険者の資格は取り消されて追放されるとあった。


 冒険者でないセツナにそれが当て嵌まるかどうかはわからないが、それでも安易に相手を殺すことは避けた方がいい、セツナはそう判断する。


(なら……)


 ここは逃げの一手しかない。そう思ったセツナは、ナイフに伸ばしかけた手を引っ込め、代わりにポケットから小さな黒い玉を取り出す。


「すぅ……」


 大きく息を吸って肺の中に空気を満たすと、セツナは息を止めて黒い玉を地面へと叩きつける。

 次の瞬間、黒い玉から大量の煙が発生し、辺り一面を白く染め上げる。


「わわっ! コラッ、ボク君ったら何するのよ!」


 セツナが放ったけむり玉に巻き込まれたビキニアーマーの女性が抗議の声を上げるが、セツナはそれを無視して一気に駆け出す。


 棺を引っ張っていかなければならないので、どうしてもガタガタという音が発生してしまうが、それでも自分の足なら逃げ切れるという自信があった。


「うわっ、速っ……」


 事実、セツナが逃げ出したことに気付いたビキニアーマーの女性が彼の足の速さに驚く声が聞こえる。

 あっという間に遠ざかるビキニアーマーの女性の声を耳にしながら、セツナはこのまま逃げ切れると確信する。


 だが、


「だったら、ちょっと援軍をお願いしちゃおうかしら」


 ビキニアーマーの女性のそんな声と共に口笛を吹く甲高い音が聞こえるが、セツナは足を止めることなく逃げ続ける。

 目に見える範囲に脅威となるものは見えないし、もしかしたらセツナの足を止めるためのブラフかもしれないと思ったからだ。


 何が起きようともこのまま押し切る。


 セツナがそう思った矢先、彼の足元が何の前触れもなく隆起する。



「えっ?」


 突然の地形の変化に思わず足を取られ、思わず止めたセツナの足に、地面から大量の蔓が伸びてきて絡みついてきたのだ。


 蔓はあっという間にセツナの手足へと絡みつくと、動けないように拘束して彼の体を吊るし上げる。


「な、ななっ!?」


 突然の事態に驚くセツナの目の前の地面が大きく爆ぜたかと思うと、地中から何かが飛び出してくる。


「ま、魔物?」


 セツナの両手足を絡み取ったのは木の姿をした魔物、トレントだった。


「ど、どうしてこんな所にトレントが……」

「フフフ、驚いた?」


 愕然とするセツナの下へ、ビキニアーマーの女性が腰をくねらせながらやって来る。

 てっきりトレントを退治してくれると思ったビキニアーマーの女性は、セツナを拘束しているトレントにもたれかかるように体を預けると、愛おしそうに魔物の体を撫でる。


「この子は私の言うことを聞いてくれるいい子ちゃんの一匹なの。今もボク君のことを優しく絡めとってくれたでしょ?」

「あ、あなたは……」


 魔物を使役するビキニアーマーの女性に戦慄しながら、セツナは彼女に尋ねる。


「あなたは人間……なのですか?」

「フフフ、気付いちゃった?」


 セツナの疑問に、ビキニアーマーの女性は不敵な笑みを浮かべると、


「それじゃあご期待に応えてお姉さんの本当の姿、見せちゃおっかな?」


 そう宣言して体をくの字に折る。


 次の瞬間、女性の背中からコウモリを思わせる両翼が飛び出し、臀部から先がスペードの形をした黒い尻尾が生える。


「じゃーん、お姉さん、実はサキュバスなのでした」


 自分の正体を明かしたビキニアーマーの女性は、空中に座るようにふわりと浮かぶと、セツナに向かってウインクしてみせた。

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