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一難去って……

 ダンジョン内に響き渡る警告音は、魔物をおびき寄せるサイレンという名の罠だった。


 目立たないように設置されているサイレンの罠を踏むと、耳障りな大音量が響き渡り、階層全体から魔物が一斉に押し寄せてくる恐ろしい罠である。


「セツナ君、どうしよう……」


 サイレンの罠を踏んだシャルムは、震えながら隣へと目を向けるが、


「……あれ?」


 そこにいるはずのセツナが忽然と姿を消していた。


「セ、セツナ君!?」


 突如として姿を消したセツナを探してシャルムが首を巡らせると、


「あっ……」


 まさかの同行者を見捨てて、一目散に逃げ出すセツナの後ろ姿が見えた。


 その足取りは一切の迷いがなく、後ろを振り返ることなく猛然と立ち去る姿は、いっそある種の清々しささえあった。


 だが、それは一方的に置いていかれる立場になった者からすれば、たまったものではない。


「ちょ、ちょっと待って!」


 ここで置いていかれるわけにはいかないと、シャルムは立ち去ろうとするセツナの背中を追いかけようとするが、


「はっや……」


 どれだけ足を動かしてもセツナとの距離は離れていく一方だった。


「棺を持っているのに、何て速さなの……」


 セツナに絶対に追いつけないと悟ったシャルムは絶望的な気持ちになるが、足を動かしながら必死に叫ぶ。


「セツナ君、待って! 私を……私を見捨てるつもりなの?」

「ち、違います」


 セツナは駆けながら、シャルムに向かって叫ぶ。


「ただちょっと、安全な場所に退避します」

「安全なところって……私のことはどうするのよ?」

「……死体になったら後で回収しますから」


 そう一方的に告げると、セツナはさらに加速してあっという間に立ち去っていった。



「…………信じられない」


 けたたましくサイレンが鳴り響く中、シャルムは足を止めて呆然と立ち尽くす。

 まさかこんなにもあっさりとセツナが自分を見捨てて、一目散に逃げ出すとは思わなかったのだ。


 セツナが消えて行った方角を見ながら立ち尽くしていたシャルムは、


「フッ……」


 どういうわけか、慌てる素振りをみせるどころか不敵に笑ってみせる。


「まあいいわ。精々、楽しませてもらおうじゃないの」


 そう言ったシャルムの体がゆっくりと影の中に沈んでいくと、後にはサイレンの音だけが不気味に響いていた。




 鳴り響くサイレンの音を背中に聞きながら、セツナは必死に足を動かし続ける。


「まずはどうにかして、安全な場所を探さないと……」


 途中、怒涛の勢いでサイレンする方へと殺到する魔物たちとすれ違ったが、身に付けているお守りの効果もあり、気付かれることなく逃げられていた。


「だけど……」


 セツナは見捨ててきたシャルムがいる方角をちらと見ながら、地図を取り出して現在地を確認しようとする。


 だが、


「駄目だ……わからない」


 リードからもらった地図は、ダンジョンに潜る全員に支給されている簡素なもので、構造こそ正しく書かれているが間取りや縮尺は滅茶苦茶で、シャルムといる時に浮かれてどう移動したのか覚えていないので、自分がいる場所を完全に見失っていた。


 これではダンジョンから脱出しようにも何処を目指せばいいかわからないし、下手すればさらに奥へと迷い込んでしまう可能性もある。


 とりあえず死体を回収した場所へと戻ることができればと思うが、確実にあの場所に戻るにはサイレンが響くあの広場へと戻らなければならない


「……それは駄目だ」


 頭の中で過ぎ去った魔物の数を思い描き、とてもじゃないが一人では対処できないと判断したセツナは、他の道を探ることにする。


 幸いにも頭は働いていなくても棺を持って来ることはできたので、このまま一度外に出た後、改めてシャルムを助けに戻ることもアリだと考える。


「うん、そうしよう」


 とにかく安全を確保した後、シャルムを助けに向かうのではなく、ダンジョンから出ることを最優先させる。


 それから改めてシャルムを助けに戻る。


 やることを決めたセツナは、暫く身を隠せる場所を探すために移動を開始することにする。



 すると、


「見~つけた」

「――っ!?」


 背後から見知らぬ声が聞こえ、セツナは弾けたようにその場から飛び退く。


 そうして振り向いた先で、


「……だ、誰ええええぇぇぇ?」


 セツナは奇声を発しながら、慌てて首を横へとずらす。


「…………」


 だが、流石にいきなり襲われないとは限らないので、セツナは警戒するようにチラチラと声のした方へと顔を向ける。



「ウフフ、どうしたの?」


 余裕たっぷりな様子で話す声の主は、またしても女性だった。

 しかも今度の女性は、シャルムとはまた違った意味で非常に刺激的な女性だった。


「ねえ、こっち見ないの?」


 そう言って可愛らしく小首を傾げる女性の格好は、肌の露出していない面積が非常に少ない鎧、カタリナが装備する鎧よりさらに露出の激しいビキニアーマーだった。


 腰に帯剣していることから戦士職だと思われるが、女性に対して免疫のないセツナにとってはとても正視できるものではなかった。


(ど、どうしてカタリナさんといい、こんな格好で平気でいられるんだ?)


 わざわざ防御力の乏しい露出の高い鎧を好んで着るのかが、セツナには全く理解できない。


「フフッ、可愛い」


 女性らしく出るところはしっかりと出ているビキニアーマーの女性は、恥ずかしそうに顔を背けるセツナを見て、ペロリと真っ赤な舌を出して舌なめずりをする。


「ヒッ……」


 まるで獲物を見つけたかのように()め付けるビキニアーマーの女性に、セツナは怯えたように思わず一歩後退りする。

 だが、その行動が逆にビキニアーマーの女性の心に火を点けたのか、


「ウフフ、お姉さんと一緒に遊びましょう!」


 そう言うと、ビキニアーマーの女性は両手を広げてセツナに向かって飛びかかった。

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