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辺境からやって来た少年は、ダンジョンでアオハルがしたい。  作者: 柏木サトシ


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それで、どうするの?

「あ、あわ、あわわ……」


 ファーブニルが勇者であると自己紹介をした途端、セツナは目に見えて狼狽えだす。


「あれ、犬さんどうしたの?」


 顔を真っ赤にし、視線をあちこち彷徨わせるセツナを見て、ファーブニルは怪訝そうな顔になる。


「もしかして、僕が勇者と聞いて緊張しているの?」

「違うわよ」


 ファーブニルの疑問に答えたのは、黙って事の成り行きを見ていたアイギスだ。


「そいつ、とんでもない田舎の出身で、女の子に対して極端に免疫がないのよ」

「えっ、本当に?」

「本当よ。だからあんたが勇者というより、女の子と普通に話していたことに気付いて狼狽えているのよ。嘘だと思うなら、そいつの手でも握ってやるといいわ」

「ふ~ん……」


 アイギスの解答を聞いたファーブニルは、改めてセツナに向き直って探るように尋ねる。


「僕が勇者だからじゃなくて、女だからそんなに狼狽えているの?」

「ち、違います」


 ファーブニルの問いかけに、セツナは反射的に首を激しく横に振って否定する。


「むぅ、じゃあ……」


 明らかに嘘を吐くセツナに、頬を膨らませたファーブニルは、目にも止まらぬ速さで手を伸ばして彼の手を握ろうとする。


 すると、


「――っ!?」


 ファーブニルの手が僅かに触れた途端、セツナは弾けたとように大きく後ろに飛ぶと、そのままバックステップを繰り返して建物の隅の天井へと張り付く。


「わぁ、凄い身のこなし」

「……まるで猿だな」


 天井に張り付いて猫が威嚇するようにこちらを見るセツナを見て、ファーブニルは手を叩いて喜ぶと、呆気に取られているジンに向かって懇願する。


「ジンさん。あの犬さん、本当に凄いですよ。是非ともウチに欲しくないですか?」

「ま、まあ、お前の言いたいことはわかるがな……」


 ファーブニルの提案に、ジンは後頭部をガリガリと掻きながら渋面を作る。


「知ってると思うが、そいつは新人採用の面接で不合格になった奴だ。そして、一度不合格になった者は、最低でも一年はギルドに所属できないんだよ」

「え~、そんなの堅物のレックスさんが決めた、くだらないルールじゃないですか」


 セツナを迎えられないと聞いて、ファーブニルは不満そうに唇を尖らせる。


「そもそも、ただ女の子のおっぱいが揉みたいって、男の子としては可愛らしい夢じゃないですか。犬さんに比べたら、他の男の人の考えることなんて……」


 そう言ってファーブニルは、ようやく扉に辿り着いた様子のライオネスの背中に冷たい視線を送る。


「まあ、そんな訳でボクとしては、犬さんをスカウトしたいんですけど……」

「だからだな!」

「おっぱいですか? おっぱいが必要なんですか?」


 ジンの言葉を勝手に解釈したファーブニルは、威嚇し続けるセツナに詰め寄る。


「犬さん、おっぱいが揉みたいって言うなら、ボクのでよければいくらでも揉ませてあげるから、ウチに来ない」

「いいわけないでしょ!」

「あいたっ!?」


 とんでもないことを言い出すファーブニルに、戒めの言葉と共に衝撃が彼女の脳天を襲う。


「い、いきなり酷いよ……」

「何言ってんの。自業自得でしょ」


 涙目のファーブニルが振り返って抗議の声を上げると、チョップを構えた怒り顔のアイギスが呆れたように話す。


「あんたがいくらゴネても、あいつはもう教会の犬なの。いくらあんたが国の認める勇者だとしても、そんなわがままが通るわけないでしょ」

「ぶぅ……」


 ファーブニルも自分がわがままを言っていたという自覚があるからか、不貞腐れたように頬を膨らませる。


「全く……」


 問題がややこしくなる前に退散した方がいいと思ったアイギスは、セツナが持って来た荷物を手に取ると、密かに安堵しているジンへと話しかける。


「ジン様、これを」

「ん? お、おう、そうだったな」


 その一言で全てを察したジンは、アイギスから依頼の品とダイフクが入った木箱を受け取り「コホン」と咳払いを一つして佇まいを正す。


「うむ、確かに頂戴した。それと、手土産まで用意してもらって悪かったな」

「それはあそこにいる馬鹿に言って下さい。それ作ったのあいつですから」

「マジか!? これ、坊主の手作りなのか」


 セツナの手作りと聞いて目を大きく見開いたジンは、ダイフクを一つ手に取って口を大きく開けて頬張る。


「ふもっ!? もほぅ、ほへは……」


 独特の食感に若干驚いた様子だったが、続いてやって来たあんこの優しい甘さに目尻を下げて大きく頷き、しっかり咀嚼して飲み込む。



「うむ、うまい!」


 大きな声で感想を言って何度も頷いたジンは、まだ警戒態勢を続けているセツナに向かって笑顔で手を振る。


「坊主、ありがとうな。こいつは後でいただくとするよ」

「あっ、は、はい……」


 流石にギルドマスター相手に今の姿勢は失礼にあたると思ったのか、セツナは天井から降りると、彼に向かってペコリと頭を下げる。


「そ、その……これからどうぞよろしくお願いします」

「おう、今度はもっと難しい死体回収をお願いするから、その時はよろしくな」

「あっ、は、はい」


 多少のトラブルはあったが、無事に依頼を果たせたとセツナは安堵の溜息を吐く。


 後はギルドマスターであるジンが、上手くこの場を治めてくれるだろうと思っていると、


「セツナ!」

「あっ、は、はい」


 アイギスから名前を呼ばれ、セツナは慌てて顔を上げる。

 何事かと思っていると、アイギスは顎で出口を指し示してくる。


「ほら、帰るわよ」

「えっ?」

「レオーネさんのところで犬の仕事、続けるんでしょ? それともここに残りたいの?」

「あっ、い、いえ……」


 ファーブニルから誘われた時、セツナは一瞬だけ冒険者になれるかもと思った。

 だが、今となってはこのギルドではうまくやっていける自信はないし、既にあまり良い印象を持たれていない者たちと、一から人間関係を築くのは難しいと思った。


(それに、せっかくレオーネさんに認めてもらえたんだ)


 人と付き合うのは得意ではないが、向けられた信頼にはなるべく応えたい。

 正に職業名の如く、セツナは教会の犬としてこれからもレオーネに忠義を果たすつもりであった。


「それで、どうするの?」

「あっ、はい」


 機嫌が悪そうなアイギスに怯えながらも、セツナは彼女の問いかけに小さく頷く。


「その……帰ります」

「そう、なら帰りましょ。私たちのホームに」


 セツナの返答を聞いたアイギスは嬉しそうにニッコリと笑うと、満足そうに頷いてみせた。

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