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女の園

 最初に辿り着いた広間は非常に広大であったが、そこからダンジョンへと続く通路は流石にそこまで広くはなかった。


 いくつかある通路の一本へと足を踏み入れると、そこは前衛が三人も横に並べば一杯になるほどの広さの通路で、床は広間と同じ石造りであったが、壁面と天井は全てレンガで出来ていた。


「面白いだろう」


 突如として変わった壁面を眺めているセツナたちに、再びパーティの先頭に立ったカタリナが説明する。


「ダンジョンは階層毎に同じ建材が使われていてな。一階層目はレンガ造りなんだ」

「ということは……」


 アウラが何かに気付いたかのように手を上げて発言する。


「壁の見た目が変われば、階層が変わったということなんですね?」

「そういうことだ。まあ、その前にボス部屋を通る必要があるから、気付かない内に階層が変わっていた、なんてことはないから安心しろ……普通はな」

「普通は?」

「ああ、例外として落とし穴や転移の罠にかかった場合、強制的に階層が変わることがある」

「落とし穴……」


 そう言われてアウラは自分の周囲の足元と周囲を見てみるが、そこには冷たい石畳の道が続くだけで、落とし穴どころか罠の一つさえも見つけられなかった。


「――っ!?」


 突如として自分の足元が崩れるのでは? そんな思いに駆られたアウラは、堪らずカタリナに尋ねる。


「あ、あの、この辺にそういった罠の類は……」

「ないから安心しろ。それに……」


 アウラを安心させるようにカタリナは大きく頷いてみせると、自分のすぐ後ろに控えるミリアムの肩をたたく。


「そういった罠の発見や解除は全てミリアムがやってくれる。こいつの魔法があれば、ダンジョン内の殆どの仕掛けは意味を成さないから安心しろ」

「フフフ、お給金が出る間はしっかり働かせてもらうからよろしくね」


 何処まで冗談なのかわからないことを言いながら、ミリアムが笑顔で手を振って応える。


「私、アウラちゃんが回復魔法できると聞いて、とっても嬉しく思ってるの」

「そ、そうなんですか?」

「そうなのよ。だって私たちのギルド、色々とあって今は三人しかいないの」

「い、色々ですか?」

「そう、色々……」


 色々あったと聞いて悲しそうに顔を伏せるアウラに、ミリアムは頬に手を当てて困ったように笑う。


「まさか三人も揃って子供がデキちゃうなんて思わなかったわ」

「えっ?」

「そう、子供……妊娠しちゃったのよ。それも三人同時に」


 ミリアムは両手で腹が膨らんだジェスチャーをしてみせる。


「流石にお腹が大きな子を連れてダンジョンに潜るわけにはいかないし、三人とも旦那さんと一緒に故郷に帰っちゃったのよね」

「そ、そうですか……」


 てっきりギルドメンバーが死亡したと思っていたアウラは、安堵の溜息を吐く。

 人数が激減したのはかなりの痛手だが、人が死んだと聞くよりはマシだと思う。


 だが、そう思っているのはアウラだけなようで、


「まあ、そんな訳で今はどうしても私の負担が大きくてね……」


 ミリアムは大きく嘆息しながらギルドの現状を話す。


 現在、ギルド鮮血の戦乙女ブラッディ・ヴァルキュリアのギルドメンバーはカタリナ以下、アイギス、ミリアムの三人しかおらず、前衛をカタリナとアイギス、そして後衛その他諸々をミリアム一人で担当しているという。


「だから魔法職が一人でも増えるのは大歓迎、だからアウラちゃんは一日も長く生き延びてね?」

「は、はい、わかりました」


 サラッと怖いことを言いながら差し出されたミリアムの手を、アウラは微苦笑を浮かべて握り返す。


 どうやらギルドメンバーは過去にはそれなりに人数がいたようだが、事故かクエスト失敗があったのか、人数が三人まで減ってしまったようだった。


 となると当然ながらある疑問が浮かぶわけで、アウラはカタリナへ質問をぶつける。


「あ、あの、カタリナさん、私以外にギルドメンバーは増やさないのですか?」

「ああ、今はその予定はない」


 仲間を増やさないのか? という疑問を、カタリナは迷うことなくバッサリ斬って捨てる。


「ど、どうしてですか?」

「どうして? そんなの決まってる」


 どんな理由があるのかと、思わず「ゴクリ」と唾を飲み込むアウラに、カタリナは快活な笑みを浮かべて仲間を増やさない理由を話す。


「この私の好みの女がいなかったからだ」

「…………えっ?」


 まさかの解答にアウラは目を点にし、アイギスとミリアムは呆れたように揃って溜息を吐く。


「おい、そこの二人。とても大切なことだろう」


 呆れた様子を見せる二人に、カタリナは心外だと謂わんばかりに犬歯を剥き出しにして熱弁を振るう。


「このギルドは、可愛い女の子をはべらせたいという私の、私による、私のためのギルドなのだ! そのためにギルドメンバーを厳選して何が悪い! 可愛い女の子がいると、それだけで元気が出るだろうが!」


 一方的な主張に、アイギスたちは呆れるしかなかった。



「確かに……」


 片や後方で聞いているセツナは、感心したように何度も頷く。


 内面はともかく、アイギスにミリアム、そして新たにギルドメンバーとなったアウラもとても整った顔立ちをしており、カタリナの人選は確かなものだとセツナは思う。


「……というわけよ!」

「ヒッ!?」


 セツナの様子に気付いたアイギスが彼のことを睨み付けて黙らせた後、唖然としているアウラに向かって話しかける。


「当面の間は人手不足が続くけど、互いに支え合って頑張りましょう」

「は、はい、よろしくお願いします」


 この四人でダンジョンを進むしかないことを確認し合ったアウラたちは、まずは今日のクエスト、死体の回収と初戦闘を終わらせるために通路へと足を踏み入れた。

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