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現れたのは?

 その後も二人の女性が料理を作る様子を、セツナはレオーネの隣で居心地悪そうに小さくなって見ていた。


 目の前にはミリアムが淹れてくれたハーブティーがあるのだが、今はすっかり冷めて苦くなってしまったので、それ以上は口を付ける気にはなれなかった。


 調理中の二人はとても話しかけられる雰囲気ではないので、ならばとセツナは残るレオーネへと目を向けるのだが、


「ぷっはあああああああぁぁ! あ~疲れた体へのエールは最高だわ!」


 今日はもう仕事をする気はないのか、勝手に木製のジョッキに酒を注いで一杯はじめており、早くも出来上がっている彼女に声をかける勇気はなかった。



 まるで針の(むしろ)に座る思いでセツナが小さく縮こまっていると、


「ハッハッハ、今帰ったぞ!」


 突如として場違いないほどよく通る声が響き、扉が派手な音を立てて勢いよく開く。


「喜べ! カタリナお姉さんが、我がギルドに加わった新人を連れてきてやったぞ!」


 威勢のいい声と共に現れたのは、胸元が大きく開いたドレスを着た金髪碧眼の派手な美女だった。


「ん? どうした、何だか浮かない顔をしているな」


 カタリナと名乗った美女は、キッチンの雰囲気を素早く察知して周囲を見渡す。

 そうして隅で縮こまっているセツナを見つけると、小首を傾げて不思議そうな顔をする。


「おや? 君はおっぱいが揉みたと言って不合格になった男子じゃないか」

「おっぱいが揉みたいだって!?」


 カタリナの言葉に、包丁を手にしたアイギスは、セツナへ切先と共に敵意を向ける。


「やっぱり、男は胸なの!? そんなに大きい胸が好きなの!? ミリアム……このガキに襲われたらすぐに言うのよ。私がすぐにこいつのナニを切り落としてやるから!」

「あらあら、物騒ね。心配しなくても、自分の身は自分で守るわ」


 苦笑を漏らしたミリアムはレオーネに目を向けて真顔になると、気になっていたことを尋ねる。


「レオーネさん、そもそもこの教会の居住区は男子禁制のはずですよね? なのにどうして彼を犬にしただけでなく、この部屋に招いたのですか? いくら貰ったのですか?」

「まあまあ、そう慌てなさんな。後、買収はされてないぞ……こいつ、無一文だし」


 突如として水を向けられたレオーネは、詰め寄って来る二人の女性を苦笑しながら宥める。


「それに心配しなくても、こいつにそんな度胸はないよ」

「そんな証拠……」

「何処にあるんですか!」

「いや、証拠も何も一目瞭然じゃないか」


 アイギスたちの抗議を軽く受け流したレオーネがセツナを指差すと、全員の視線が彼に集まる。


「――ヒッ!?」


 女性たちから一斉に見つめられたセツナは小さく悲鳴を上げると、青い顔をして不安そうにキョロキョロと辺りを見渡す。


 憐れな子羊のようになっているセツナを見たレオーネは、呆れたように肩を竦める。


「ほらな、こいつは驚くほどの田舎から出てきて、女に対して免疫が全くないんだ。口先はともかく、中身は純情なお子様だよ」

「うむ、私の見立ても同様だ」


 レオーネに続くように頷いたカタリナが腰をくねらせながらセツナへと近付くと、親し気に腰へと手を回して抱き寄せる。


「――っ!?」


 カタリナに触られたセツナは、まるで石化の魔法でもかけられたかのようにピシリと固まって動かなくなってしまう。


「~~~~!!」


 さらにカタリナが密着すると、今度はセツナの顔がみるみる赤くなり、喜ぶどころか少しでも距離を離さそうと顔と体を必死に背ける。


「ほらな、一目見た時からこの少年はこういう輩だと思ったのだが……潔癖症のレックスに目を付けられたのが運の尽きというわけだ」

「あの男のギルド、主力が揃ってサキュバスのチャームで全滅しちまったからな」

「ハッハッハ、あの時の奴の顔は中々に愉快であった」


 エルフのギルドマスターの憤慨した顔が余程可笑しかったのか、レオーネとカタリナは顔を見合わせて揃って笑う。



 そうしてひとしきり笑ったカタリナは、真っ赤な顔のまま伏せて何も言えなくなっているセツナの頭に手を乗せると、わしゃわしゃと撫でながら人懐っこい笑顔を浮かべる。


「まあ、何だ……ここで頑張って男を見せれば、そのうちおっぱいを揉ませてくれるような女が現れるかもしれんから、精々頑張れよ」

「うっ……ううぅ」


 だが、当のセツナはそれに応える余裕はなく、大勢の女性の前で自分の目標を赤裸々に語られた恥ずかしさの余り、今すぐにでも消えてしまいたいと思っていた。



 そんなセツナに、さらなる追い打ちがかかる。


「ああ、そういや新人を紹介するのをすっかり忘れていたな」


 セツナから離れたカタリナは、キッチンの入口へと赴いて緊張した面持ちで立ち尽くしていた人物を手招きする。


「今日からギルドに入ることになったアウラだ。神官職で回復が得意ということだから二人共、明日からよろしく頼むぞ」

「よ、よろしくお願いします」


 カタリナからの紹介を受けて、彼女の背後からパタパタと慌てて出てきた人影は深々と頭を下げる。


「アウラです。神官職ですが前衛もできますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 簡単に自己紹介をして再び深々と頭を下げたところで、


「あっ……」

「あ、あなたは……」


 綺麗に編み込まれたピンクブロンドを見てセツナは小さく声を上げ、アウラと紹介された少女もまた驚きで目を見開く。


 その少女は、巨漢に絡まれているセツナを助けるために飛び込んで来た乱入者だった。

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