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王たちは手紙を読む


 「レーナ、今日はお茶の時間を取れるかい?」

朝食の席で王妃エレーナは夫であるアルベルト王からそう問われた。

「はい、本日は特に面談や視察などありませんから、時間はありますわ」

「そうか、だったら午後のお茶の時間を頼むよ。それから、クルスたちも一緒だから、レーナもカミラ達に声をかけておいてくれ」

「まあ、皆も、ですか?何がありましたの?」

「いや、あちこちから手紙をもらってね、皆にも披露しようと思ってね」

「そうですか、では楽しみにしておりますわ」


午後になり、全員が集まった。

「皆、急にすまないな。だが、ちょうど同じタイミングで手紙が届いてな。

せっかくだから皆と共有したくて集まってもらったんだ」

アルベルトがそう言うと、クルスがお盆の上に置かれた手紙を持ってきた。

「まずはトリニスタン国のロイド王からの手紙だ」

そう言ってそれをエレーナに渡した。

普段はマナー違反になるのだが、カミラやリザベラはエレーナに促されて、一緒に手紙を覗き込んだ。


そこには街道整備の進捗状況と共に、鉱山で採れた鉱物の加工について、マニスタン国に任せたいことがなどが書かれていた。

「まあ、薬草を栽培されることに?」

「そうらしいな、以前、世界会議で暁王に紹介したらな、東国の薬草で高山でしか取れない薬草を育ててみないかと打診されておられた」

「それがトリニスタン国の風土に合っていたようですよ」

クルスがそう言って補足をした。

トリニスタン国は街道整備も進んでおり、マニスタン国への返済も順調に進んでいる。

ロイド王の息子、ガイドもきちんとした教育を受け、すくすくと育っている。

王妃こそいないが、側近達と安定した政治を行っている。

「今後も良い関係を続けていけそうですね」


2通目はブルッスタン国のクロードからだった。

現在はクロードの弟マロードが王としてブルッスタンを治めているが、アルベルト達と同年代だったこともあり、マニスタン国との連絡などはクロードが代理として行っている。

「マニスタン国とブルッスタン国が共同で立ち上げた平民への奨学金制度がうまくいっているようだな。ガ=ミル国からも参加したいとの要請が入っているそうだ。

他にも賛同する国がいくつかクロードの打診してきているそうだ」

一度平民に落とされたクロードは、平民が働きながら貴族と同じように学ぶことの大変さを身をもって感じていた。

そのため、臣籍降下してから自らの商会をたちあげ、その売り上げを基にアルベルトにも打診し、2国の共同事業として平民への奨学金制度を立ち上げたのだ。

「マロード陛下にお子様が産まれましたし、『子供が産まれるまで』と懇願されて一度戻られた王位継承権を返還するのもそう遠くはないのでしょう」

「そうなれば、クロードはもっと自由に他国に行って奨学金制度の整備ができるな」

「平民が知識をつけてくれれば国がもっと豊かになる亅

「それには陛下が民に尊敬される存在でいなければいけませんわね」

エレーナに言われ、アルベルトは小さく「はい」と答えた。


3通目は東国の暁王からだった。

 今度息子をガ=ミル国に留学させたいが、入学時には海が荒れる可能性があるため、穏やかなうちに大陸へ渡りたいこと。

そして、入学までの間、各国を回らせ、外交を学ばせたいが、まずはマニスタン国から始めたいのでよろしく頼む、とのことだった。

「暁王らしいお手紙ですね」

「まあ、如月妃が自ら教育されたそうだし、そんなに破天荒ではないだろう。

協力しようと思うが、懸念事項はあるか?」

「そうですわね、特に問題はないと思いますが、女性に近寄らせないようにしませんとね」

「「「「え?」」」

「そうですわ、悪しき前例がありますもの」

そう言ってリザベラがちらりとこちらを見た。

うっと言って覚えのある男たちは気まずそうな顔をした。

「カミラ、騎士と影から女性の護衛を選んでちょうだい」

「かしこまりました」

カミラは今、騎士団と影の両方の女性たちの統括をしている。

選りすぐりの護衛が付けられることは間違いないだろう。


4通目は

「あら、マリオット国からだわ」

「あれからどうされたのか心配してましたの」

「アデレイド様、どう決断されたのかしら?」

「ヘンリー様の告白はどうなったのかしら?」

マリオット国からの手紙に女性達はきゃいきゃいと声をあげた。

「女性は恋の話が好きだな」「本当にな」「盛り上がってるな」

「ま、我々も相談されていた手前、気にはなっていたからな。結末は知りたいな」


ヘンリーとアデレイド双方からの手紙が入っており、それぞれ読んでいった。

「まああ、まるで物語を読んでいるようですわ」

「果実水をかけられそうになったアデレイド様をかばうなんて!!」

「素敵ですわ~」

「その後、話し込んでしまって、朝を迎えてしまったなんて!」

「「「きゃ~」」」

「【宰相とか、王妃とか関係なくアデレイドに側にいて欲しい】だなんて」

「ヘタレだった割には情熱的なプロポーズですわね」

「なんだかこちらもドキドキしてしまったわ~」


女性たちが盛り上がるなか、話を聞いていた男性たちは。

「そんな事ヘンリー殿は書いてなかったが・・・」

「アデレイドと心が通じた、としか」

「王女が王妃の代わりに公務をするとか」

「簡潔に書きすぎじゃないか?」

「逆にアデレイド嬢が書きすぎてないか?」

アルベルト達はひそひそと話していた。

アデレイドからの手紙はエレーナ達だけで読んで欲しいと書き記してあり、アルベルトは目を通していなかったのだ。

相談に乗ってもらっていた事もあり、アデレイドはエレーナ達に心を許しているのだろう。

他国ではあるが、親しい友人の幸せを喜んでいるエレーナを見て、アルベルトも嬉しくなっていた。

「また世界会議で、とあるから、その時にお披露目するのだろうな」

「王と宰相ですか、世界が驚きますね」

「そうだな」


手紙を見せ終わり、お茶会は終わった。

エレーナ達は満足げに部屋を出ていった。

残された側近達にアルベルトは1通の書類をみせた。

「アルベルト様、これは?」

「エリザベスの報告書だ」

「「「「「!!!!」」」」」

「彼女は父上の判断で、女性だけの劇団で働いていたらしい」

「もしかして、あの有名な?」

「私も報告書を見て初めて知ったのだがな」

その後も定期的にゼフが派遣した影が見張っていたらしい。

「今後、見込みがありそうなら、影も引き上げるつもりだったらしいがな」

報告書にはエリザベスの振る舞いから、その自分勝手な行動による事件の詳細が記されていた。


「それで・・・彼女は?」

「劇団を出されて次の職場に送られた、とだけ」

「そうですか」

「エレーナ達に言うかどうか迷ったのだが、あんなに楽しそうにしていたのに水を差すこともできなくてな。後日でいい、それぞれに伝えておいてくれ」

「「「「わかりました」」」」


アルベルトは思う。

彼女がそうなった責任の一端は自分にもあると。

だが、そこから改めて生活することができなかったエリザベスは、これからも変わることはないだろう。

その人生に少しでもかかわった自分にできる罰は、王として自分を律し、人ときちんと向き合っていくことしかないのだ、と思うのだった。

たとえそれが自己満足であったとしても、それがアルベルトが旅で見つけた真実なのだから。


これにて完結です。

お読みいただきありがとうございました。

また誤字脱字の報告もありがとうございます。


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