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番外編:ミラ(エリザベス)③

ストーカーが出てきたり、暴力表現があります。


 コツっと扉から小さな音がした。

「ジャック?」

ミラが小さな声でそう尋ねると、コツっとまた音がした。

ジャックだと喜んでミラは鍵を外して扉を開けた。

「ジャック、早く入って」

ミラがそういうと、扉がぱっとひらかれ、黒い服に身を包んだジャックが入ってきた。

「会いたかったわ」

「僕もだよ」

「早く扉を閉めて、中にいきましょう」

「いや、まだ、閉められないな」

「え?どういう意味?」

「ありがとうね、おバカなミラ」

ジャックはそう言って笑顔でミラの腹を殴りつけた。

「うっ・・」

ミラはそのまま意識を失ってしまった。


「ミラ、ミラ!!」

誰かがミラに声をかけながら体を激しく揺さぶっていた。

「う、ううん・・」

「ミラ!生きてるわよね?」

「エマ、目が覚めそうよ、もう揺さぶらないで!」

ミラが目をあけると、エマとリサがミラの横で顔をのぞきこんでいた。

「あたし・・・」

「ミラ、あんたなんであんな所で倒れていたの?」

「えっと?何?どういうこと?」

意識を取り戻したミラは、エマとリサから驚くような話を聞いた。



******* ミラが意識を失った後 *******

「本当に頭が空っぽなんだな」

ジャックはそう言って裏口の側に生えている木の側にミラを移動させた。

その後、懐から黒い布を取り出すと、自分の顔を隠すように包み、後ろで縛った。


裏口から同じような黒い服を着た数名が入ってきた。

「おい、扉閉めておけよ」

「ああ、行けるか?」「段取りはわかっているな?」「「「当然だ」」」」

「間取りは?」

「ああ、あの頭の軽いおバカちゃんがペラペラしゃべってくれたからばっちりだ」

「では行こう」

そう言って男たちは屋敷の中に侵入していった。


「ここだ」

そう言ってジャックは扉をそっと開けた。

そこはリリアに割り当てられた部屋だった。

ジャックは少し開けた扉の隙間から滑り込むように部屋に入ると、そのままリリアの休んでいるだろうベットに近寄って行った。

「ああ、愛しのリリア、ようやく手に入る」

うっとりするような顔でジャックは手をのばした。


別の部屋では数名の男たちがルイのベッドを取り囲んでいた。

「早いところ縛り上げろ」「顔に傷はつけるな」「ああ、わかっている」

そして男たちは手をのばした。


「ぎゃーーーー」

屋敷の中に声が響いた、と、同時に屋敷中に鐘が鳴り響いた。

バタバタと足音と共に、武装した女優達が走ってきた。

今夜の警備担当者たちだ。


リリアの部屋の中では、ジャックが倒されていた。

ご丁寧にうつぶせにして両手足を一緒に縛りあげられていた。


ルイの部屋では男たちとルイがにらみ合っていた。

すでに二人の男が倒されていた。

ルイの手には剣が握られている。

「こんなの聞いてないぞ」「女のくせに剣が振れるなんて」「強くねえか?」

「お前たちが弱いだけだ、まったく女の寝こみを襲うとは、恥知らずもいいところだな。

誰に頼まれた?」

「言うわけねえだろう」

「やれやれ、まあいい、後でゆっくり吐かせてやる」

「生意気な女だ!」「やっちまえ」「多少傷がついてもしょうがねえ」

そう言って3人はルイに襲い掛かってきた。

警備担当がルイの部屋に入ると、3人目の男がゆっくり倒れるところだった。

「ちょっと遅いぞ。たるんでるな」

「ルイ・・あんた、ケガはないの?」

「うん、大丈夫、他にも賊がいたの?」

警備担当の人数が少ないのを見てルイがそう尋ねると、リリアの部屋にも賊が入った事を伝えられた。

「リリアの所にも?」

「そうなの、あれよ、例の」

「え!!なんで入り込めたんだ??」

「それも含めて尋問しないといけないの、手伝える?」

「もちろん、しかし、リリアの部屋に忍び込むとは、リリアを舐めすぎだな」

そう言ってルイは剣をしまい、男たちの拘束の手伝いを始めた。


団長のレイの判断により、本日の公演は休止になった。

屋敷に押し入った賊たちは、騎士団に引き渡されることになり、尋問は先にルイ達がさせてもらうことになった。


「俺は恋人のリリアに会いに来ただけだ」

「だ~れが恋人だ!この付きまとい野郎が」

「リリア、そんな演技をしなくていいんだよ」

「演技じゃね~よ、金にもならん演技なんて誰が見せるか!!」

「素直になればいいんだよ、俺のリリア。恥ずかしがらなくていいんだよ」

「は?どこが恥ずかしがってるように見えんのよ。

その目玉はついているだけか?脳みそにつながってないのか?」

「リリア、そんな汚い言葉を頑張って使わなくてもいいんだよ?俺には甘えていいんだ。

だから一緒に帰ろう、さあ、この手を取って」

「あぁぁぁあ~、このくそ花畑野郎!!!」

たまりかねたリリアは思いきり机を蹴り上げた。

突然の動きに反応の遅れたジャックは机ごと蹴り上げられ、顎をしたたかにうち、そのまま床に飛ばされて倒れた上に、机が降ってきた。

「ぐぇえ」

そう言ってジャックは気を失った。


リリアの見た目は庇護欲をそそる可憐で純情な令嬢であるが、下町育ちで体を鍛えることが趣味で、各国の自警団などと体術の稽古をする程の脳筋なのであった。

劇場で見るリリアと、普段のリリアはまったく別人であり、レイたちからは「詐欺師リリア」とからかわれるほどである。

だが、劇場でリリアを見た観客の中には、リリアに恋をしてしまい、贈り物などで気を引こうとしてくるものもいる。物理的に近寄る者もいたのだが、リリア本人によってすべて撃退されていた。


ジャックはこの国のとある伯爵家の次男で、前回リリアを見初めてしまった。

貴族の特権を使い、ありとあらゆるアプローチを続け、国を移っても商売と称して付きまといを続けていたのだ。

実家の母親に溺愛されていたジャックは、豊富な仕送りによって“紅乙女団”に付きまとい続けた。

そのしつこさに呆れ、5か国目に移動した際に“紅乙女団”の支援者に願い、ジャックの入国を拒否してもらったのだった。

そして、時が過ぎ“紅乙女団”がジャックの国に戻ってきたことから、この計画が持ち上がった。


ジャックと同様に劇場でルイを見初めた侯爵家の御令嬢がどこでかジャックの計画を知り、自分の私兵を貸し出すのでルイを攫ってほしいと依頼をしてきたのだった。

だが、“紅乙女団”はジャックのいるこの国で油断することなく、厳戒態勢を敷いていた。

当然だが、ジャックは劇場を出禁とされてしまい、何とか近づく事を計画している時に、見張っている屋敷から一人の少女が頻繁に出かけていることが分かった。

ミラは聞いていなかったのだが、この国での外出は3人1組で、必ず警備担当が付くことになっていた。

町で声をかけられても警備担当者が返答をすることも決められ、ジャック達は付け入るスキを伺っていたのだった。


侯爵家の私兵たちは、主である侯爵からではなく、お嬢様からの命令でジャックの計画に加担したらしい。

もちろん、特別に成功報酬を渡されることになっていた。

「なんであんなに強いんだよ」「そうだ、どうなってんだ?お前」

尋問中に私兵たちはルイの強さに興味を持ったようだった。

「強いはずよ、だってルイは女性騎士だったんだから」

「「「「「はあ?」」」」

「神速のカミラ様の同僚だったのよ」

「神速のって・・・あの剣の捌きの達人?」

「そうそう、舞い落ちる花びらを最速で剣で刺すという」

「なんでそんなすごい人と同僚だった騎士がこんな所にいるんだよ」

私兵の一人が思わずそう言った時。

()()()()()()だと?」

壁際で眺めていたルイがゆらりと前に出てきた。

「ひっ!!」「ごめんなさいごめんなさい」「やめて!近寄らないで~」

私兵たちは慌てて謝るのだが、身体の震えは収まらなかったようだ。


ルイが女性騎士をやめたのは、ケガが原因だった。

普段の生活には支障がないのだが、騎士として働き続けるには無理があった。

どこかに嫁ぐのも面倒であったし、この剣の腕を活かしたいと考え、カミラにも相談をしていたところ、カミラの婚約者が言った一言が、“紅乙女団”に入団のきっかけにもなった。


カミラの婚約者は 「そう言えば、王都で見た劇場では女性が男性役もやっていたなあ。

ルイは背も高いし、男らしい身体に見えるし、劇で剣をふるったらどうだろう」

ちょっと失礼な事を真剣に言っていた。

ルイはなるほど、と思ったのだがカミラは違ったらしい。

「お前・・・本当にその口縫ってやる、男らしい身体だと?女性に向かって・・・。

おまえの男らしい身体とやらをみせてみろ!!」

そう言って、カミラが婚約者の服を神速の技で切り裂いていたが。


この国の貴族が関わっていることもあり、この事件は騎士団預かりとされた。


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