6 王子への指令
「報告書をみたな、そろそろ始動させてもいいだろう」
「そうですね、根回しはすべて終わっております」
「各国の反応は?」
「上々です、どの国も大変面白がってくれたようですね」
「どの国も数年に1度は経験しているからでしょうね」
「平和な時でよかったよ、そうでなければ情報統制の為にどれほど労力がかかるか・・・」
「ほんの5年前?6年前でしたか?あの国でやらかしたのは」
「わはは、やらかしとはうまい事を言うな。それにしてもその後は大変そうだったな。
昨年の国際会議では疲れた顔をしておったよ」
「まあ、自業自得、ですかね」
「そうはならないように今回しっかり見てきてもらわねばならん」
「まだ初期症状です。殿下なら大丈夫でしょう」
「ハイルトバルト侯爵には?」
「侯爵閣下には内密にお知らせいたしました」
「それで?」
「苦笑いしておられました。娘を不幸にはさせたくない、そのことをくれぐれも申し上げてほしいと」
「最悪の想定もしておこう、それまでは緘口令を敷け」
「「「はっ」」」
内密の会合が行われた数日後、アルベルトを含む6人が御前に呼ばれた。
「顔をあげよ」
そう言われて、6人は顔をあげた。
何故ここに呼ばれたのかは、まったく知らされていない。
「お前たちに外交を命ずる」
「外交・・・?」「どういうことだ?「学園は?」「何をしに行くんだ?」「どの国へ行くんだ?」
思ってもいない命令に、アルベルト以外の5人はこそこそと話した。
「陛下、質問してもよろしいでしょうか?」
アルベルトがそういうと、王は大きく頷いた。
「外交とはどういうことでしょうか。私たちはまだ学生です。
そんな私たちにどのような外交をお望みなのでしょうか?
学園も休まなければなりませんし、そのあたりの事はどうなっているのでしょう」
「ふむ、そのあたりの詳しい事はこの後宰相たちから説明してもらう予定だ」
「ここでは教えてもらえないでしょうか?」
「説明するには資料などを見てもらいながらの方がわかりやすい。
この広間で大勢の前でやる必要もない。
ここに呼びだしたのは、これが内々ではなく、公の命令であることを知らしめるためである。
そして、この命令に拒否権はない、ということだ」
父親である国王の言葉にアルベルトは黙って頭をさげた。
その後は宰相、外務大臣、財務大臣達から説明を受けた6人は、すでに疲れた顔をしながらそれぞれの家で旅の準備をするのだった。
「ねえ、どうしてサロンにいれてくれないのよっ!」
サロンの前で騒いでいるのは何時ものようにエリザベス。
「バッツ達も全然学園に来なくなっちゃったし・・・、何がどうなってるのよ」
サロンの前にいる護衛騎士は表情を変えることなく、黙って立っている。
何を言っても反応しない護衛騎士にいら立ち、エリザベスは足を蹴ろうとしたのだが、するりとかわされてしまい、そのまま転がってしまった。
「助けてもくれないのね、ひどいわ!わーん」
そう言って大声で泣き真似をしながら走り去った。
「毎日来るんだってな」
「ああ、お前は初めて交代したんだったっけ?」
「そうなんだ。話には聞いていたけど、笑いをこらえるのに必死だったよ」
「まあ、精神鍛錬だと思えって言われるくらいだしな」
「くくくっ、まさに精神鍛錬だわ」
護衛騎士は交代でサロンの前にいるのだが、王子が学園を長期で休むことにより、本来は必要ないはずなのだ。単にエリザベスの突撃を防ぐためだけにいるようなものだ。
エリザベスとアルベルト達はサロンの中だけで会話をするようにしていたうえ、市井にも1,2度行っただけなので、学園の中ではまだあまり噂になっていない。
寮でエリザベスがいろいろと吹聴しているのだが、男子生徒や教師にベタベタと触り、物をねだるような姿を知っている生徒達は、彼女をいないものとして扱っているため、噂にもならないのだった。
始めに出会った時、平民出身、ということで、国民の生活を知りたがったアルベルトがお茶に誘い、話を聞いていたのだ。
ところが、日が経つにつれ、スキンシップが多く、表情をくるくると変えるエリザベスが新鮮で、彼らは彼女に恋をしたような気分になってしまった。
エリザベスがそういう男心をうまく引き付ける手腕があった事も災いした。
そして、それぞれがエリザベスの気を引こうとお互いをけん制し合うので、自分のモノにしたくなる欲求は膨れ上がり、自由恋愛こそが真実の愛に思えてしまったのは、彼らがまだ若く、経験も浅かったからだろう。
そんな彼らは、エリザベスから離れ、その気持ちが変化していくことになるのだった。