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番外編:ロイド王③


 マーサが王宮に戻ってから数日後、ロイドの執務室にフロリアーナが駆け込んできた。

「もういやよ!!あのおばさん何とかしてっ!!」

「おばさんって、マーサの事か?」

「そうよ、何よあのおばさん、ネチネチと口うるさくてしょうがないわ!!」

「リアナ、顔合わせの時に話をしただろう?」

「そんなの忘れたわよ。大体、あたしは妊娠しているのよ?

毎日あんなにうるさく言われて、お腹の子に何かあったらどうするの!!」

「ちゃんと医師からの許可ももらってあるから大丈夫だ。

それに、そんなに難しい事を言われていないはずだよ?」

「あれが?だから、もっと優しい人に変えてよ。そしたら頑張るから」

「無理だ、マーサ以上の教育係としてふさわしい者はいない。

子が産まれても子供の名前も書けない、読めない、そんなのは悲しいだろう?」

「それはそうだけど・・・」

「まだ仕事がたくさんあるんだ、頼む」

そうロイドが声をかけると、マーサを呼びに行っていた従者が戻ってきたところだった。


「フロリアーナ様、行きますよ」

「いや」

「子供ですか?」

「違うわ、あたしは王妃なのよ?どうしてあなたが命令するのよ」

そう言われて、マーサはまじまじとフロリアーナをみた。

「何もできないのに、王妃、ですか?」

「そ、そうよ、ロイドがあたしを王妃にしてくれるって言ったもん。

ロイドは今王様なんだし、あたしはロイドの子を妊娠してるし、立派な王妃でしょう」

それを聞いたマーサは おーほっほっほっと高笑いをした。

「王妃とは貴族の女性の頂点ですよ。貴族女性の憧れであり、民にとっては国母ですわ。

ですが、今の貴方に憧れる人はいませんよ」

「何ですって!」

「マナーも悪い、教養もない、何かといえば平民育ちだからと怠けてばかり。

それのどこが王妃だと?王妃の仕事もできないでしょうに」

「できるわよ!王妃の仕事くらい」

「字が読めないのに?」

「誰かに読んでもらえばわかるわよ」

「機密文書があるのに?そこまで信頼できる人をご存じですの?」

「だったらロイドに読んでもらうわよ」

「お話になりませんわね」

マーサはそう言ってロイドに向き直った。

「陛下、このまま王宮で自由にさせていてもフロリアーナ様の成長は見込めませんわ。

今から離宮へと移動させますので」

「だが、今妊娠しているだろう?その・・産まれてからでも・・・」

「何を甘い事を。離宮には医師を常駐させます。

お子様が生まれたら、お披露目をしなければなりません。

今のままで社交界に出られると本気で思っていらっしゃるなら、私は今すぐ手を引かせていただきますが?どうされますか?」

マーサに言われ、ロイドは頭を下げるしかなかった。


その日から、フロリアーナは離宮でマナーや読み書きを習いながら過ごすことになった。

初めのうちはおとなしくしていたが、産み月が近づいてくると、全く勉強をすることはなくなった。

マーサも何度かいさめたのだが、結局、彼女は学ぶことはしなかった。


やがて、出産となり、無事に第1王子となるガイドが生まれた。

フロリアーナはたまにしか相手をしなかったが、マーサが選んだ乳母や侍女たちが中心となり、ガイドはすくすくと育っていった。


ガイドが3歳になったころ、ガイドのお披露目について考える時期が来た。

「マーサ、そろそろガイドのお披露目をしようと思うのだが、ガイドの健康状態はどうだろうか?」

「とても順調です。ただ、あまり長時間では疲れてしまいますので、昼、短い時間で行われた方がよろしいかと思います」

「そうか、ではそのように準備を進めよう。

ところで、王妃、いや、フロリアーナはどうだろう?」

多少は改善されているのでは?という期待を込めて聞いたのだが、帰ってきた返事は

「フロリアーナ様は体調不良で不参加でお願いします」

というものだった。

「体調不良で不参加とは、やはりまだマナーが?」

「ええ、多少なりとも貴族らしい所作ができるようになるかと思っていたのですが、興味のない人にものを教えることは難しいですわね・・・。ようやくご自分の名前が書ける、背筋を伸ばして歩くことができる、くらいですわ。言葉遣い等はまったく・・・。力不足を感じておりますわ」


フロリアーナ不在でガイドのお披露目会は計画された。

だが、もしもお披露目会までに間に合うのなら、少しの時間だけでも参加させてほしいとロイドはマーサに頼んでいた。

ロイド自身も難しい事を頼んでいる、とは自覚していた。

だが、ロイドは出会った頃のフロリアーナが忘れられず、過去の幻想にとらわれていただけだったことに、彼はまだ気が付いていない。


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