表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/74

番外編:ヘンリー王子⑪


 「おはようございます、殿下入りますよ」

そう言って入ってきた侍従は扉を開けて入ってきたところで動きを止めた。


目の前にはソファにもたれて眠るヘンリーと、その肩に頭を預けて寝ているアデレイドの姿があったのだ。

「おい、どうし むぐぅ」侍従の後ろから声をかけた護衛騎士は侍従に口を押さえられ、ぐいぐいと部屋の外へ押し出した。

そっと扉を閉めると、護衛騎士の口から手を離した。

「なんだよ、急に」

「いや、あのさ、多分、アデレイド様が」

「ん?」

「アデレイド様がいる」

「なんて?」

「部屋の中で殿下とアデレイド様が・・・」

「!!!」

護衛騎士は途端に顔を真っ赤にさせた。

「いや、違う違う、ソファに座って寝ていらっしゃるだけだ。変な妄想すんな」

「あ、ごめん」

「でも、それで、どうすんだ?」

「どうしよう、驚きすぎて思わず部屋から出てしまった」


侍従と護衛騎士がおたおたしている間に通りかかった視察団の面々や侍女たちが集まってきた。

そして、部屋の中の様子を見たがった。

「静かに、だぞ?」「そうだ、そっとだぞ」「お前ら気配を消せ」

「息を止めろ」「声を出すなよ」

そして、護衛騎士がそーっと扉を開け、皆が部屋を覗き込むと、顔を真っ赤にしてソファの両サイドぎりぎりに座る二人の姿があった。

どうやら外が騒がしくなり、目が覚めてしまったようだ。

「ああ~目覚められてしまったの」「起きたらお互いにびっくりしてしまったのね」

「ソファの両端でモジモジされてるな」「いいわね~」「お互いに意識してるのがまた」

周囲がきゃいきゃいと盛り上がるので、二人はますます赤くなっていく。


しばらくそんな感じで盛り上がっていたのだが、仕事を放棄するわけにもいかない。

予定を変更した視察の予定が待っている。

侍女たちはアデレイドを促して、部屋を退出していった。

侍従たちも石像のように固まったヘンリーの支度を始めた。


視察の最中も、会議の最中も、ヘンリーとアデレイドはお互いを意識し合っていた。

仕事はきちんとしているのだが、目が合えばお互い不自然に目線をそらし、お互いの名前を呼ぶ時も何度もどもっている。

周囲はそれをニヨニヨしながら見守っていた。


その夜、アデレイドの所に手紙が届けられた。

ヘンリーから、明日の朝早くから、馬で湖を見に行かないか、というお誘いだった。

「アデレイド様、お返事をいただきたく」

「あの・・ちょっとだけ待っててくださる?」

返事を待つ侍従が部屋の外で待機している間、アデレイドは控えていた侍女や護衛騎士に相談していた。

「ど、どどうお返事したらいいのかしら」

いつもの彼女らしくないワタワタした様子に、侍女や護衛騎士は微笑ましく見ていた。

「仕事の話をしていただけなの、でも盛り上がってしまって、いつの間にか寝てしまっただけなの。

どうしましょう、ヘンリー様にご迷惑をおかけしてしまって。

なのに、明日の朝一緒に乗馬だなんて・・・。なんてお返事したらいいと思う?」

「アデレイド様?今アデレイド様はどうしたいと思っているのですか?」

「わからないわ、ヘンリー様に会うのは恥ずかしくて・・・」

そう言って頬を染めるアデレイドに

「恥ずかしいだけですか?側に寄ってほしくないとか、嫌悪感を感じるとか」

「嫌悪感なんて、ただただ恥ずかしくて」

「では、ヘンリー様が他の女性と一緒に乗馬していたらどう思われます?」

アデレイドは想像してみたが、何となく胸がもやもやっとした。

「なんかもやっとするわね」

そう答えると、周囲がきゃあっと盛り上がった。

「では、恥ずかしい気持ちのままで大丈夫ですよ。ぜひ行きましょう」

「でも」

「いいのですよ、それが」

そう言って笑いながら頷き合う皆を見て、アデレイドは心を決めた。


次の朝、早朝から皆に磨かれまくったアデレイドは乗馬服に身を包み、ヘンリーと馬に乗って走り出した。

二人は特に話をすることなく、黙々と馬を走らせた。


ついたのは、小高い丘になっている場所で、そこから湖がよく見える。

「ここから見る湖はリンチ領とは違う景色に見えるな」

「っそそそうですわね」

「その・・アで、アデレイド嬢」

「ははははいいい」

「昨晩は・・・その・・・・すまなかった」

「いいいいいえいいえ、わたくしがおしゃべりしすぎたから・・・」

「いや、時間をちゃんと見て部屋に送ればよかったんだ、申し訳ない」

「わわわわたくしが早めに引き上げればよかったのですわっ!」

しばらく二人はお互いに謝り合っていた。

その後、突然二人の間に沈黙が訪れた。


「アデレイド嬢」

「はい」

「私は婚約者として最低だった」

「ええ、え?はい?」

「貴女を苦しめた上に、国外追放までさせてしまった」

「・・・」

「ガミ=ル国にカノッサ公爵と共に行った時」

「はい」

「私は公爵と共に立ち去る貴女を引き留めたかった」

「・・・」

「でも、そんな資格はないと、貴女の手を取れなかった。

「ガミ=ル国の個人礼拝室で自分と向かい合い、私にできるのはアデレイド嬢、貴女が宰相になるために手助けをする事だと思ったのだ」

「そう・・なんですね」

「でも、文官として働き始めた貴女を見ていると、どうしてもあきらめきれなくて・・」

「あきらめる?」

「私の心には最初から貴女しかいなかった。

どんなことをしても、貴女から目を離すことができなかった」

そう言ってヘンリーはアデレイドの手を取り、じっと見つめた。

アデレイドの頬は真っ赤に染まったが、ヘンリーから目をそらすことはなかった。

「宰相とか、王妃とか関係なく、私は貴女に、アデレイドに、アディに側にいて欲しい。

そして、ともに国を作るために一緒に歩いてほしい」

「わたくし・・・わたくしでよいのですか?

わたくしは宰相を目指しております。王妃の仕事をすべてすることはできませんよ」

「いろいろと問題はあるだろう、それでも、私は貴女が、アディが良いのだ」

熱く見つめるヘンリーを見て、アデレイドは思った。

自分もずっとヘンリーを見ていた、と。

ヘンリーが自分の為に力を尽くしてくれていた事も、一途に自分を見てくれていた事もちゃんとわかっていた。


そして、彼女は心を決めた。

「わたくしはヘンリー様と共に歩きます。形はどうあれ、一緒にいられるならヘンリー様の側がいいです」

ヘンリーはその返事を聞くと、嬉しそうにアデレイドを抱きしめた。

アデレイドもそっとヘンリーの背中に手を回した。


マリオット国は世界でも珍しい王妃のいない王と、女性の宰相が治める国となった。


書きながら、背中がムズムズしました。

再構築かよ!と思われるかもしれませんが、ヘンリーが頑張りましたので・・・優しくお見守りください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ