番外編:ヘンリー王子③
上級文官として働き始めたアデレイドは、ヘンリーの変貌ぶりに驚いていた。
何か決めなければならない時、ヘンリーはいつもうだうだしていた。
お茶の種類を選ぶ時も、目の前のお菓子を選ぶ時も、いつも自分では決められず、ガイウスが決めていた。
アデレイドへ贈るドレスやアクセサリーもいつまでもくよくよと悩み続けてしまい、いつもガイウスが決めた物になっていた。
自分の意見を決められず、いつまでも返事をしないことがよくあった。
だが、今のヘンリーはまったく違う。
仕事で一緒になると、その姿がよくわかる。
2周目、という事もあるのだろうが、てきぱきと仕事をすすめ、他人の話をよく聞き、そして自分の意見を堂々と伝える。
決めるべきことをはっきり決めていく、アデレイドはその変貌ぶりを間近で見たのだ。
そして、ふと目をあげると、ヘンリーとよく目が合う。
目が合うと、ヘンリーは嬉しそうに微笑み、また作業に戻るのだ。
アデレイドは何と言っていいのかわからない気持ちだった。
やがて、ヘンリーは2周目を終え、王子の公務に戻った。
もう関わることはほとんどないだろう、と思っていたアデレイドだったが、宰相付きに抜擢され、毎日のようにヘンリーと会うことになってしまった。
初めはどうなることかとハラハラしながら様子を見ていたが、女性にばかり肩入れしてしまう傾向のアデレイドをヘンリーがうまく誘導していたり、ヘンリーの国内しか見ていない考え方をアデレイドが留学経験を生かして考え方を広げさせたりと、良い効果を生み出した。
「元婚約者同士で、どうなるかと思ったが・・・」「どちらもそんな事を感じさせない仕事っぷりだな」「意見が合うとお互いににっこり笑いながら握手してる姿は中々だぞ」
周囲も二人の真面目な仕事ぶりに好意的だった。
そんな周囲の評価とは別に、アデレイドは落ち着かなかった。
意見を戦わせている時は感じないのだが、やはり、ふとした拍子にこちらを見て微笑むヘンリーとやたら目が合うのだ。
そんな時、アデレイドは落ち着かなくなり、そわそわとしてしまう。
公爵令嬢として夜会に出席した時もそうだった。
友人たちと談笑している時、ふと視線を感じて振り返るとヘンリーと目が合う。
貴族たちと議論を交わしていても、やはりヘンリーは近くにいる。
その姿は新たな国交を交わすために訪れていたアルベルト達にも見られていた。
エレーナやリザベラは「「そっと見守る愛??」」などと盛り上がっていた。
そして、世界会議でアルベルト達と会話をした後、アデレイドはいろいろと考えた。
そして、思ったことが一つ。
「わたくし、ヘンリー様から何も言われてないわ」
そして、ヘンリーもアルベルト達から呼び出されていた。
エレーナやリザベラ達女性陣からひとことモノ申したい、と言われたからだ。
「「「アデレイド様の事をどうしたいのですか?」」」
女性たちに責められ、ヘンリーは「えっ?」と戸惑い、助けを求めるようにアルベルト達を見た。
「「「ヘンリー様!!」」」
「ああ、その一生側にいて欲しいと思っているが・・・」
「が、何ですか?」
「アデレイド嬢がどう思っているかわからないし・・・」
「聞いてみたのですか?」
「いや、今更私から聞けないだろう?」
「今更ですって~!!!ヘンリー様、心で思っていても伝わりませんわよ!!」
「でも」
「でもじゃありません」
「だって・・・」
「だってじゃありませんわ」
「まずはご自分の気持ちをきちんとお伝えなさいませ」
「そうですわ、それだけで今のあやふやな関係が進むのですわ」
「でも、もし嫌われていたら・・・」
「それこそ今更ご自分の行いが返ってきただけの事ですもの、あきらめて遠くから眺めるだけになされたらいいのです」
「そんなぁ~」
エレーナ達の口撃に、たじたじとなるヘンリーだった。
そんな姿を見ながら、男性陣はこそこそと話している。
「アデレイド嬢は嫌ってなかったと思うが・・・」
「嫌がってはいなかったな」
「それにしても、あのヘンリー殿がたじたじとなるとは・・・」
「女性を敵に回してはいけないって事ですよ」
バッツはうんうんと頷いている。
「「「「ヘンリー様、ご武運を」」」
こっそりと祈るアルベルト達だった。




