番外編:ヘンリー王子
夢を見た。
「お父様、わたくし、宰相を目指しますわ」
彼女はそう言って立ち上がって去っていく。
「待て、待ってくれ!」
追いかけようと手をのばしても届かない。
足元には誰かがしがみついているようで、動かすことができない。
「アディ!アディ!!」
どんなに手をのばしても、どんなに叫んでも、彼女は振り返ることもなく、その手が届くこともない。
「またあの夢か・・・」
ヘンリーは目を覚ますと枕元にある水差しから水を飲んだ。
ヘンリーは産まれた時、母である王妃の産後の体調不良により乳母に育てられた。
側にいたのはガイウスだった。
兄弟のように育てられた、と思っていたが、ヘンリー自身に何かを決めさせないようにされていた。
いつも決めるのはガイウスだった。
違うことがしたい、と思っても、何か意見を言おうとしても、いつも事前にガイウスか乳母のヘザーに決められてしまう。
いつしかヘンリーは自分の頭で考えることができなくなっていた。
サリーの後に産まれたヘンリーの妹マーガレットの乳母として再度王宮に上がったヘザーは娘のサリーを連れてきていた。
ヘザーやガイウス達はマーガレットよりもサリーを何よりも最優先にした。
ヘンリーも、サリーの希望を叶えるのが当たり前だと思わされるようになっていった。
更にヘザーはマーガレットを「出来損ないの地味王女」と呼んだ。
子守歌代わりに聞かせるのは、「マーガレットはサリーよりも劣った存在なのよ。
あんたなんか父親も会いに来ない、母親もお前を捨てたんだよ」そんな妄言だった。
マーガレット出産後に体調を崩した王妃が気が付くまでの数年の間に、マーガレットは自己評価が低く、サリーに対して劣等感を持つようになってしまっていたのだった。
そんな歪んだ関係は、ヘザーの王宮追放で終わったかに見えていた。
だが、幼い頃から植え付けられた価値観は変えることができず、サリーが王宮で働きたがってると聞き、それを叶えるために奔走させられた。
初めは侍女として女官長に打診をしたのだが、年若い侍女は王子の側につけることができない、と言われた。
更に、サリーが本当に王宮で侍女として働きたいなら、きちんと募集期間に応募をして試験を受けるように厳しく言われた。
「王族のお世話をするのです、生半可な気持ちでコネで選ぶことはできません」
女官長はきっぱりと断ってきた。
返答を聞いたガイウスは怒っていたが、ヘンリーは特になんとも思わなかった。
そして、ガイウスは騎士団副団長に掛け合い、サリーを護衛騎士見習としてヘンリーの側につくように決めてきたのだった。
ヘンリーから見ても、サリーの態度は護衛としてはありえないな、と思いはしたが、ガイウスやサリーに意見を言おうとは思わなかった。
婚約者のアデレイドが、何度も苦言を呈しても、ガイウスやサリーには何を言っても無駄だから、と何もしないでいた。
そして、断罪の日、アデレイドを追放したと聞き、ヘンリーはガイウスに詰め寄った。
「アディがそんな事をするわけないだろう!!」
ガイウスはニヤニヤしながら答えた。
「アデレイドがいなくなれば、サリーがずっと側にいられるじゃないか。
あんな高慢ちきな女、いなくなっても困らないよ」と。
「そうよぉ、あの女、あたしに意地悪ばーっかり言ってきて、ウザイったらなかったわぁ」
そう言ってきゃははっと笑うサリーを見て、ヘンリーの何かが切れた。
そこからのヘンリーはガイウス達に気づかれないように騎士団長に連絡を取り、カノッサ公爵とも連絡を取った。
アデレイドの冤罪を晴らすために、王家の影の使用許可をもらい証拠を集めた。
それとあわせて騎士団長達と共に、アデレイドの冤罪に加担した騎士団副団長やガイウス達を拘束した。
最後の処断については父である王に任せ、アデレイドを迎えに行くというカノッサ公爵と共にガ=ミル国に行ったのだが、結局、ヘンリーはアデレイドに何も言うことができなかった。
今更、自分が何を言えるのか、と思ってしまったのだった。
アデレイドが父親と部屋を後にしていったあと、ヘンリーは声もなく涙を流していた。
そこから数日、ヘンリーはガ=ミル国の個人礼拝室にいた。
神官長の配慮でアデレイド達とは合わないようにしていたが、それでも声が聞こえたりすれば、そっと近くまで行き、アデレイドを確認してしまうのだった。
アデレイドが留学のため個人礼拝室から寮へと移る際も、そっと見送っていた。
そして、ヘンリーもようやく自分の国へと帰って行ったのだった。
ヘンリー王子が変態みたいになってしまった・・・。




