39 王子の知らない少女の仕事先
長いです。
ガスパル伯爵家の離れでは、フリンク男爵とマイクとガスパル伯爵が対面していた。
もう一人、宰相から派遣された文官が側で控えていた。
「父上、いい加減にサインをしてください」
いら立つマイクに対して、フリンク男爵はペンをとろうともしない。
「わしはまだ・・・まだ納得していない」
「まだそんな事を、先日の会議で満場一致で賛成されたではありませんか」
「だが・・・「もうよろしいですか?」」
見かねた文官が声をかけた。
「何だ、貴様に発言を許可しておらん、何故この部屋にいるんだ」
「フリンク男爵、私は宰相様から派遣されてここにおります。
男爵家の代替わりをスムーズに進めるためです。お分かりですか?」
「何を!生意気な。宰相と言えども貴族の家に口出しは無用だ」
怒りを募らせる男爵だったが、文官は涼しい顔をして答えた。
「問題があるから私が派遣されたのですよ。このままではお家の取り潰しですよ。
わかっておられますか?」
「だから、なにが問題なのだ。それにわしはこんな所に押し込められているんだぞ?
それこそ問題ではないか!」
文官ははぁ~っと深いため息をもらした。
そして、マイクとガスパル伯爵に向き直り、「強制執行でも構いませんか?」
そう言って1枚の書類を出した。
書類を確認したマイクとガスパル伯爵は素早くそこにサインをかいた。
フリンク男爵は何が書かれているか確認できなかったため、どういうことかを知りたかったのだが、
見せてはもらえなかった。
文官が宣言を下した。
「今、王命による代替わりが成立いたしました。
本来は貴族家に対してこのような王命を出すことはありません。
ですが、このまま貴方の頑固な態度を待ち続けているほど我々は寛大でも暇でもありません。
全て、あなたと、あなたの娘を排除するための非常手段です」
「な、んだと・・・?」
「さて、これであなたは前男爵になるわけですが・・・、現男爵殿、どうされますか?」
問われたマイクはガスパル伯爵の顔を見て、うなずくと、しっかりとした口調で答えた。
「前男爵とは縁を切ります。よって、今からは男爵家とは無関係の人間です」
「!!!おまえ!マイク!!お前は父を捨てるのか!!」
「あの娘にこだわり続け、ハイルドバルド公爵家の不興を買い、王家からも目をつけられているこの状況を理解できない父など必要ありません」
「前男爵、いや、もうただのカールだな。カールよ、せめてもの情けに、仕事と住む場所は提供しよう。それで余生を過ごしてくれ」
ガスパル伯爵の言葉に前男爵だったカールは目を見開いて固まっていた。
「娘は、エリザベスも一緒でいいのか?」
やっとで絞り出した言葉がエリザベスの事だった。
ここで現フリンク男爵は、父へのかすかに残っていた情を捨てたのだった。
「あ~、娘さんは一緒にはできませんね」
文官がそういうと、
「何故だ、父と娘でひっそりと暮らせばいいのだろう?」
「残念ながら娘さんは自分の置かれた立場をきちんと理解したうえで、誑かした子息たちへの弁償金を払ってもらいます。
また、彼女によって何組かの婚約破棄がありました。
その令嬢達への慰謝料、ハイルドバルド公爵令嬢への不敬への慰謝料、これらの支払いがありますので、一緒に暮らすことはできません」
「そんなもの我が家が・・「出しませんよ?無関係なのだから」」
「では一緒に暮らしながら働けば「甘やかすとわかっていて一緒にするわけないでしょう」」
ことごとく反論され、男爵はどうすることもできなかった。
「貴女の娘さんは、男性と一緒にするとすぐに甘えて仕事をしませんから、こちらで用意した職場で働いてもらいます。大丈夫ですよ、女性ばかりですし、身体を売るような仕事ではありませんから」
どうやら娼館ではないらしいことが分かり、前フリンク男爵改め、カールはガスパル伯爵の用意した馬車に乗せられ、そのまま王都を後にさせられた。
学園では、平民となり、後見人もいないため、学園を退学することになったエリザベスはぶつぶつと文句を言いながら荷物をまとめていた。
学園長から退学を告げられた時、エリザベスはかなり暴れた。
しかし、暴れても決定は覆ることはなかった。
部屋に連れていかれ、荷物をまとめるように言われた。
教師が二人、見張りなのかエリザベスの様子を観察している。
エリザベスが貢いでもらっていたドレスや宝飾品は持ち出しできなかった。
「どうして?あたしへのプレゼントだったよ?あたしのじゃない!!」
「あなたのその行いが問題とされたの。あなたは弁償金を払うのよ。
この品々は換金して弁償金の一部とするの。持ち出しは禁止よ」
教師から厳しく言われ、エリザベスはしぶしぶ持ち出すのをあきらめた。
荷物をまとめると、寮の部屋を出され、そのまま馬車に乗せられた。
3日ほど馬車に揺られ、ついたのは知らない街並みだった。
「ここは?」
「貴女が働く職場がここにいます」
「働く?あたし働くの??お父様の所に行くんじゃないの?」
付き添いで来ていた教師は頭を抱えた。
この三日、馬車の中でエリザベスには払わなければならない慰謝料や弁償金があるため、働いて払わないといけなくなったこと。
父は男爵ではなくなり、縁きりをされたので貴族ではなくなったため、彼女も平民になった事。
それらの事を丁寧に話していたのだが、エリザベスはまったく聞いていなかったのだろう。
教師は黙ってエリザベスを連れてある建物の中に入っていった。
「この子が例の子?」
「はい、エリザベスです」
「ふ~ん、まあ、頑張って働いてもらおうかしら」
「一応読み書きはできます」
「それは助かるわ」
「それではこれで失礼いたします。エリザベスさん、頑張るのよ」
教師はそう言って席を立つと頭を下げて部屋を出ていった。
残されたのは、教師と会話をしていた派手な顔立ちの女性だ。
すこし年は取っているが、すらっとした背の高い彼女はエリザベスの方を向くと、ニヤッと笑った。
「さて、今からあなたの名前を付けるわ」
「名前?」
「エリザベスではなくなるのよ、生まれ変わった証として名前を変えるのよ。
今からあなたはミラよ。よろしくねミラ」
「いやよ、そんな名前・・・「反論は受け付けないわ」」
そう言って女性はパンパンと手を叩いた。
ぞろぞろと入ってきたのは背の高いすらっとした女性と、背の低い愛らしい容姿の女性だった。
「エマ、リサ、新入りのミラ。面倒を見てやって」
「「団長、わかりました」」
「団長?」
「あら、まだ自己紹介してなかったわ、わたくしはこの紅乙女団の団長レイよ」
エリザベス改め、ミラはエマとリサに連れられ、部屋に案内された。
「ここが私たちの部屋だよ」「私達?」「3人で一緒に使うのよ」
「は?いやよ、どうしてあんたたちと一緒の部屋なの?」
「見習だからよ?マナーは守ってね、ミラの場所はそこよ。とりあえず荷物を置いて、仕事に行くわよ」
ミラは嫌がったのだが、二人は両側から腕を取るとすたすたとミラを連れて行った。
ミラは建物の裏手にある場所に連れていかれ、洗濯をさせられた。
何故か大量にあるドレスとタキシード。
「ミラはまだ初心者だからこれね」
そう言ってリサが渡したのは手袋だ。
他にも7人ほどがやってきて、洗濯を始めた。
「なんであたしが・・・」
そう言って何とかその場から逃げようとしていた時、ミラの視界に男性がうつった。
ミラは走っていき、その男性に抱きついた。
「助けてください、あたし、いきなりこんな所に連れてこられて、何もしていないのにいきなりたくさんの洗濯物をやれって言われて・・・・」
そう言ってポロポロと泣いて見せた。
いつもこの手で男性は 「可哀そうに、こんなかわいい子にそんなひどい事を」 と言ってミラの味方になってくれるのだ。
「ああ、可哀そうに」
(やっぱりね、あたしくらい可愛いと皆助けてくれるのよ)
だが、男性から続けられたのはミラの思っていない言葉だった。
「君は演技が下手だね」
「は?」
「その涙も全くなってないよ。それでは同情は引けないねぇ。
それに、セリフも全く棒読みだよ。なってないね」
(何?何なのこの男!!)
ミラがそう思って男性を見ると、男性はにっこりと笑った。
「え?」
「泣くときはこうやって泣くのさ」
そう言って男性はミラの前にひざまずくと、そっとミラの手を取った。
ミラが驚いていると、男性はミラの目をじっと見つめた。
そして、スーッと左目の端から涙が流れた。
その顔は悲しみに満ちていてた。
そして、「可哀そうに」 そう言った声はミラの涙を誘った。
ミラが連れてこられたのは女性ばかりで構成された歌劇団だったのだ。
女性ばかりであること、演技を生かすことができること、それを考慮されて連れてこられたのだった。
この”紅乙女団”は興行をしながら各国を回る。
女性が男性役もこなすため、熱狂的なファンが付き、かなり人気だった。
あれから、男性だと思っていたのが女性だとわかり、しかも感動を受けた事に衝撃を受け、ミラは黙々と働くようになったという。
紅乙女団ってサツマイモの名前みたいですみません。
なんかよい名前ないですかね。
思いついたら変えるかも、です。




