32 王子の側近はやはり空気を読まない
アデレイドの話を聞いた神官長は、早速アデレイドの父親と国王に対して手紙を送ったそうだ。
まさか信じてもらえると思っていなかった、と伝えると、
「貴女がここで彼らに嘘をつく理由がないですからね」そう言われた。
返事が来るまで時間がかかる、ということで、アデレイドは個人礼拝室に滞在することになった。
アルベルト達と一緒に食事をしたり、庭園で散策をしたりと、穏やかに時間を過ごした。
神官長の許可もあり、アルベルト達が何故この国に来たのか、それも話した。
国名までは明かしていないが、貴族同士であることはわかった。
お互いに思うことを話したり、考えを整理したりと、有意義な時間となった。
数日後、アデレイドの父親がヘンリーと共にガ=ミル国にやってきた。
アデレイドの希望により、同じ部屋で面会に立ち会うことになった。
「おい、バッツ、頼むから考えてからしゃべれよ」
「?いつもちゃんと考えてるが?」「あれでか?」「国際問題になるぞ」
「大丈夫だよ」「どこからその自信が・・・」
バッツが空気を読まない発言をしないことを祈りつつ、大きめの面会室で立ち会った。
アルベルト達はアデレイドの少し後ろに、対面にはヘンリーとアデレイドの父親が座った。
両者のちょうど真ん中に神官長が腰を降ろした。
「どちらからお話しされますか?」
そう聞かれ、アデレイドの父、カノッサ公爵が口を開いた。
「神官長からお互いに国名を明かさないよう言われておりますので、国としてのご挨拶は控えさせていただきます。
まずは、娘を助けて頂いたこと、誠に感謝いたします」
公爵はそう言って深々と頭をさげた。
それから、明らかにできる範囲までですが、と前置きアデレイドが馬車に乗せられてからの事をはなしはじめた。
ガイウスのバックにいたのは、騎士団副団長とその部下である騎士達だった。
彼らは女性騎士が入団する際にもかなり反対をしていたらしい。
だが、前王と前王妃が世界会議に行った際、自国の女性の社会進出が進んでいない事を知り、王家主導で体制を整えていったのだ。
長らく男性優遇の社会体制を変えていくのはなかなか難しかったが、男性の意識改革なども積極的に行い、社会の風潮も段々と変わっている最中だったのだ。
そこに、サリーが登場した。
サリーの登場は、女性の社会進出を面白くなく思っていた副団長達からすると、今の風潮をひっくり返せるチャンスに見えたのだろう。
そこに、ヘンリーがサリーをかばう態度を取り続けていたこともあり、今が好機と女性の社会進出を主導している王妃と、王子の婚約者であるアデレイドを排除する動きになったのだった。
アデレイドが追放処分を受け、馬車に乗せられている頃、ガイウスに知られないように馬車を追走させ、アデレイドの侍女や護衛騎士をつけたそうだ。
そのまま、公爵は国境視察中の王と騎士団長に連絡を取り緊急に戻るように伝え、密かにガイウス達の罪の証拠を集めた。
現在の王宮は王と騎士団長の不在、王妃は療養中のため、全権を副団長が管理している。
宰相はいるがあまり強く出られないようで、副団長の独断場だ。
ヘンリーは、と言えば、優柔不断で、きっぱりと決めることも断ることもできないのだった。
しばらくは女性騎士や女性文官に対する嫌がらせや、迷惑行為などが目に余るほどだったが、密かに帰還した王と騎士団長、公爵たち高位貴族が証拠をきっちりとまとめ上げ、素早く断罪をしたため、王宮には平穏が戻った、ということらしい。
「お父様、ご心配をおかけしてしまいました。
なのに、わたくしは見捨てられたと思い込んでしまって・・・」
「仕方がない、洗脳のような尋問だったのだろう?それにしても無事でいてくれて本当によかった」
父娘がそう会話を交わす間、ヘンリーは黙っていた。
「貴方は何も言わないのですか?」
バッツがいきなりそう聞いた。
慌てたジャンがバッツの口をふさごうとしたが、神官長がそれを止めた。
「気になることを聞くだけでしょう?私も聞きたいですね」
そう水を向けられても、ヘンリーは黙っている。
「ヘンリー様、わたくしはこの数日いろいろ考えました」
「・・・」
「わたくしとの婚約を破棄してください」
「え???どうして??」
ようやくヘンリーが声を発した。
「ヘンリー様、あなたは私が何度もサリーさんへの待遇を改善するように話しました。
それでも何もしてくださらないで、サリーさんを優遇するばかり。
わたくしはもうヘンリー様に何かを期待したりできませんから」
「そんなっ!サリーはガイウスの妹で、私にとっても妹のようなもので・・・」
「ですが、サリーさんは妹ではありませんし、本当に頑張って努力している方ならわたくしも何も申し上げませんでした。ですが、彼女の行動によって、社会進出をしている女性たちの地位が貶められたのは事実です」
「そんなつもりは・・・」
「ですから、わたくしは貴方の隣で女性の為に頑張ることはできません。
お父様、よろしいですね?」
「ああ、それがいいと思う」
「そんな、公爵・・・」
「どうしてそんなにサリーさんという人を特別扱いしたのです?」
「どうしてって、幼い頃から、ヘザーにガイウスとサリーは大事にするように言われてて・・」
「言われたから言われたとおりにしてたんですか?」
「・・・」
「自分で考えなかったのですか?」
意外と鋭いバッツの質問に、ヘンリーはまただんまりを決め込んでしまった。
「もうよいのです。バッツ様、ありがとうございました」
「いいんですか?」
「はい、どうせまただんまりでしょうから」
アデレイドの辛らつな言葉にヘンリーは少し驚いた表情を見せた。
「先日バッツ様がおっしゃられていたでしょう?」
「何を?」
「女性の社会進出って言いながら自分はやらないのか?って」
「おまっ!!そんな失礼な事を」
クルスたちは頭を抱えてしまった。
「ふふふ、いいんです。率直な意見を聞けてわたくしは目が覚めた思いですから」
そして、公爵の方へ向き直ると、胸を張って言った。
「お父様、わたくし、宰相を目指しますわ」
「ああ、いい目標だな」
公爵はそう言って笑った。
なかなか懐の深い人物らしい。
「ですから、わたくしこのままガ=ミル国へ留学したいのです。
試験などあれば受けます。
国をよりよくするための知識を身につけたいのです。神官長、許可いただけますか?」
アデレイドの提案に神官長は頷いた。
「よい提案ですね、ガ=ミル国で是非学んでください。
後ほど公爵様と共に留学についての説明を致しましょう」
唖然としたヘンリーを置き去りにして、アデレイドの留学が決まったのだった。
優柔不断な王子はあかんですね。
アデレイドの国での出来事などは番外編などで書きたいな、と思っています。




