25 王子は絡まれる
食堂は人がまばらに座っていた。
食事を受け取ると、そろって同じテーブルに座った。
パンとスープ、野菜と干し肉といった簡素な食事ではあったが、どれも味がよく、アルベルト達は十分に満足できた。
何か国も旅をして、道中では食料が少なくなり、簡素な食事をとることもあったため、特に不満は感じなかった。
アルベルト達が食事を済ませ、各々部屋で何をしていたのかを話していると、背後の席から大きな声が聞こえた。
「どういうこと?このような粗末な食事を出すなんて!
私を誰だと思っているの?早くちゃんとした食事を持ってきなさい!!」
どうやら食事が気に入らないようだ。
そっとそちらに目をやると、何故かきらびやかなドレスを着た令嬢がいる。
「まったく、どうしてこの私がこのような場所に来ないといけないの?
私は公爵家の娘よ。こんな事お父様が許すわけないわ!!」
そう言って横にいるメイド達?に不満をぶつけていた。
「お嬢様、他の方も見えますからもう少し小さな声で・・・」
「うるさいわねぇ、他のってみんな灰色の服を着てるから多分平民とか下位貴族でしょ?
あんなのを高位貴族や王族が黙って着るわけないじゃない、恥だわ」
「あの令嬢、何しにここへ来たんだ?」「灰色の服を着てることの何が恥なんだ?」
「どこかの国のご令嬢かな、それにしてもわがままだな」「どうして誰も止めないんだ?」
「周囲にいるのが自分の使用人だからじゃないか?」「そうだな、多分逆らうことができないんだ」
ひそひそと話していると、こちらを向いたその令嬢がこちらを睨みつけている。
「いかん、目を合わせるな」「席を離れよう」「絡まれたら面倒くさそうですし」
そう囁き合い、素早く食事のトレイを持ってその場を離れようとした時、
「お待ちなさい」
呼び止められてしまった・・・。
恐る恐る振り返ると、その令嬢はじっとこちらを見て、
「お前たち、無礼にも今、こちらを見て私の話をしていたわね。私を誰だと思っているの?
お前たちが気安く見たり噂したりするなんて、身の程知らずにもほどがあるわ」
そう言って、必死に止めようとする侍女を振り払い、こちらへ寄ってくる。
その手には扇子が握られており、アルベルトに向かって手を振り上げた。
まったく見も知らない、とはいえ、女性に手をあげるわけにもいかず立ち尽くすアルベルトだったが、バッツやフリッツが素早くアルベルトの前に立ち、ジャンに肩をかえされたため、うまく後ろに下がることができた。
「私に逆らおうっていうの?」
令嬢は顔を真っ赤にして、ぶるぶると手を震わせている。
「この私に逆らったらどうなるか、思い知らせてやるわ。お父様に言いつけてやるんだから」
もうどうしたらいいのか、訳も分からなくなった時、白い服がわらわらと現れた。
「アデレイド様、ここはガ=ミル国です。自国と同じようにふるまわれてはいけません。
貴方は神の前で自分を見直すために来ています」
「知らないわ、そんな事。勝手に連れてこられただけよ。
別に来たくて来たわけじゃないわ。早く帰りたいの。お父様を呼んでちょうだい!!
お父様がこんな事許す訳ないわ!」
神官ははーっとため息をつくと、白い服を着た女性を呼んだ。
「アデレイド様をお連れしてください」
嫌がって暴れるアデレイドを抑え込みながら女性神官たちはその場から彼女を連れ出した。
神官は続けて使用人と思われる人たちに声をかけた。
「それから、アデレイド様の使用人の皆様はこちらへの出入りを禁止しておりましたはずです。
速やかに使用人待機用の建物にお戻りください。
今後アデレイド様との接触は、神官長の許可が出てからになります」
その後、使用人の人々は神官に連れられてその場から立ち去った。
その場を仕切った神官は、アルベルト達に向き直ると深々と頭をさげた。
「このようなことに巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「いえ、少し絡まれただけです」
「ですが、彼女は一体?」「何も知らずに来ているようでしたが?」
「詮索するような事は良くないとわかっていますが、しかし、あれは・・・」
神官はアルベルト達の問いに困ったように苦笑をもらした。
「そうですね、あのように絡まれたのですから。
神官長に確認をしてから、ご説明いたしますので、少しお時間をください」
そう言われ、アルベルト達は食事のトレイを所定の場所に片付けてから、それぞれの部屋で待機することにした。




