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23 王子と思い出


 「これがそのかんざしだ」

そう言って暁は如月の髪からかんざしを一つ取るとアルベルト達にみせてくれた。

可愛らしいピンクの花がついているが、確かに花の先がとがっている。

「こちらが桜の花」

そう言って見せてくれたのは押し花になった桜の花だ。

「今は時期ではないゆえ、本物は見せられぬが、これで違いが分かるであろう」

こうして比べると違いがよくわかった。


「それで、その後は?」

「それからの私は皆の信用を取り戻すまで大変だったよ」

そう言って暁は頭をかいた。


「如月はなかなかゆるしてくれないし・・」

「当たり前です」

「心身が穢れているからだ、と父母からも言われて、山寺に修行にだされたし」

「山寺?ですか?」

「まずは全身の毛を剃られるのだ。それから、雪解け水から流れ出る滝に打たれる。

その間、自分の駄目な所を大声で叫ぶのだ」

「・・・・」

「3日間それを行い、その次は海寺へ連れていかれた」

「海寺・・」

「船の先に括り付けられて、ひたすら海を進むのだ」

「船の先・・・」

「3日間それを行い、その後は城内で木につるされた」

「は?」

「如月の住まう場所から見える庭の木につるされるのだ。

まあ、立ち入り禁止にしてくれていたから、目にしたのは如月と奥女中くらいであろう」

「・・・・・・・」

「護衛の武人も見ておりましたよ」

「あれはきつかった・・・如月が無言でこちらを見てくるのだ。

何か文句を言ってくれた方がまだましだ。無言で見続けられるのはこたえた」


そうだろうな、とアルベルト達はそっと如月をみた。

ニッコリ、と笑うその目はアルベルト達の肝を冷やした。


「それで、例の華とかいう女はどうしたのですか?」

「うむ、城内に入り込むまでかなりの人数の弱みを握り脅しておった事がわかってな。

本来ならさらし者にした上で極刑を与えるのだが、私の醜聞が出るのはまずい、ということで、最下層の民として東国の最北端に送られそこで労働をしている」


「私がこの話をしたのは、自分の隣にいる相手の事をうのみにせず、きちんと自分の目で見た事が真実なのだ、ということを知ってほしかったからだ」

「そうそう、それに、華のような女子はどこにでもおりまする。

その様な女子をきちんと見分け、排除せねば、婚約者殿に愛想をつかされますぞ」

「そう・・・ですね」


「それから、少し聞いたのですが、皆で一人の女子を囲っていたそうですね」

「あの、それは・・・その・・」

「聞けばマニスタン国の貴族も幼き頃より婚約していると聞きまする。

女は家長の決め事には逆らえぬもの、男がその気持ちを汲み取ってやらねばならぬのに、自由に恋愛がしたい、などと甘えた事を今も考えてはおらぬよのう?」

如月はそう言ってまたニッコリと笑った。

何故かアルベルト達の首筋に冷たい汗が流れ出る。

「そんな事はまったく思ってもおりませんよ」

「まあ自分の為に自らの自由を我慢している女を大切にできないと、周囲からの信頼もなくしますぞ。まあ、まだ一緒にお茶を飲むくらいだったと聞いておりますし、それに関しては婚約者殿にきちんと説明をして、早急に謝罪なさいませ。

女はずっと覚えておりまする。

顔と顔を突き合わせて、誠心誠意謝罪されることをおすすめいたしまする」

隣では暁王が首がとれるかと思うくらい縦に振っている。



暁王のやらかしを聞き、如月妃からの助言を受け、アルベルト達はさらに深く反省をしたのだった。


そして、その数日後、出立の日がやってきた。

あれから、本物の熱波師によって本当の蒸し風呂を体験させてもらい、武人たちから多少の稽古をつけてもらった。

そして、今回アルベルト達の来訪とともに、マニスタン国の医師と薬剤師も同行し、医療の交流をはかり、その視察にも満足することができたのだった。


「アルベルト殿、道中ご無事で」

「楽しゅうございました」

「暁王、如月妃も、お元気で。またお目にかかれることを楽しみにしております」

わざわざ港まで見送りに来てくれた二人に見送られ、再び船上の人となった。


「あれだけしでかしたのに、如月妃は何故暁王を見捨てなかったのだろうな」

「ああ、それについては、後でこっそりと奥女中達から聞きました。

随分悩んだそうですが、かんざしの花をちゃんと見分けてくれたから、もう一度だけ信じてみる、と言われたそうですよ」

「花をみわけたから?」

「幼い頃の二人の思い出が、まだ残っていたからとも」

「そうか・・・」


アルベルトが思い描いたのは、エレーナだった。

幼い頃、一緒に過ごした時間、二人だけの時間。

改めて、エレーナにきちんと話をしよう、と思ったのだった。

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