22 王子の聞く王の愚行
ちょっと長いです。
「如月!!如月はどこか!」
華を連れた暁は、そのまま土足で如月の居住する奥の間までずかずかと上がり込んできた。
「これより先は暁様といえども通すことはできませぬ」
「どけっ!切り捨てるぞ!!」
扉の前で警護している武人たちが暁を止めようとするが、暁は止まらない。
怪我をさせるわけにもいかないが、中に通すわけにもいかず、小競り合いが続いた。
「何を騒いでおる」
そう言いながら中から出てきたのは、如月だった。
入り口の騒ぎが収まらず、困り果て、誰かが呼びに行ったのだろう。
「おい!如月!!」
暁の怒声に、如月はちらりと目をやると、そのまま暁の足元を見た。
如月の周囲の奥女中、護衛の武人たちも如月の視線につられたように足元を見た。
冷たいその視線に、土足のまま上がってきた暁と華は慌てて履物を脱いだ。
「暁様、何か御用で?」
「ああ、華の事で話がある」
「華?華とは誰の事を?」
「お前の部屋子であろう!!知らぬふりをしても無駄だ」
如月はそのまま話しても無駄だと思い、暁の父、母を呼びに行かせ、面会の間を準備させた。
冷静に指示を出す如月に、怒りの気がそがれ、暁が華を連れて面会の間に座ったときには少し頭が冷えていた。
父煌と睦月、如月が座る場所の対面に暁と華が座った。
「さて、如月、この状況は一体・・・?」
父がそう尋ねるが、如月は首を横に振ってわからない、と一言告げた。
「では、暁、そなたに聞こう。何故騒ぎを起こした。
そして、そなたの隣におる女子は何者じゃ、女中ではないな、部屋子か、下女か?」
「この者は華と申します。私の側室となる女子です」
暁の言葉に、3人が顔を見合わせた。
しばらくの沈黙ののち、父が 「正気か?」 とつぶやいた。
「もちろんです。如月は自分より身分の低い華を、御家人の娘風情と蔑み、奥女中どもと一緒になって毎日のように小言を言うのです。
御家人といえども大切な家臣。その娘を身分で差別するなど、未来の御台となる者のすることではありません。
更に、やってもいない罪をかぶせ、華からかんざしを取り上げるなど・・・。
その様な横暴な態度を私は許すことができませぬ!!」
横にいる華が感動したように目を潤ませながら暁を見ていた。
「聞くまでもないが、如月、おぼえはあるか?」
母が隣の如月に問いかけた。
「まったく、覚えがござりませぬ」
「だろうのう」
如月の返答に母睦月は深くうなづいた。
そして、暁の方に向きなおすと、
「そなたの話には証拠があるのか?」と尋ねた。
「証拠?」
「まさかと思うが、その者の話だけ、ということはないであろうな?」
「あ・・・、しかし、華は泣いておったのです」
「だからなんじゃ」
「ですから・・・・その・・・」
「泣いておったら証拠になるのか、東国はいつからそのような愚かな法ができたのじゃ」
「いえ・・・」
暁は反論することができない。
「暁様、私には側付きの奥女中がおりまする。
直々に部屋子に話しかけたりは致しませぬ。部屋子は奥女中の手伝いをすべき存在ですから、私の世話を任せるようなことはあり得ませぬ」
「だから、奥女中に小言を言うように言いつけたのだろう?」
「何故私が部屋子などにそのような事をせねばなりませぬのか?」
「私が華と仲良くしていたから・・・?嫉妬して・・・とか」
暁の声は段々と小さくなっていった。
暁の言葉に、如月はふんっと小ばかにするように笑った。
「御台としてこの国を治めるべき私が、そのような些末なことをするとでも?」
「だが、かんざしの事はどうなる、私が買い与えた物を盗んだと言ってとりあげたのだろう!」
暁が再び勢いを増して問うと、
如月はパンパンと手を叩いた。
入ってきたのは奥女中と部屋子達。
「そなたら、この者がかんざしを盗んだそうだが、本当か?」
如月の問いかけに、奥女中の一人が頭をさげてから話し始めた。
「この者は手入れの際に、姫様が初めていただいたかんざしを自分の懐に入れたのです。
それを別の部屋子が見ており、荷物を検めましたところ、こちらが見つかりませてござります」
そう言って別の女中から渡された布包みを開いて見せると、小花があしらわれた可愛らしい品だった。
「それはあたしの「誰が口を聞いてよいと言った?部屋子の分際で。場をわきまえよ」
奥女中が厳しく叱りつけた。
華は俯いてぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「少し厳しくはないか?華はないておるが・・・「奥の決まりごとに、男子は口を出すことは禁止されておりまする。部屋子はその身分ゆえ、女中になるまでは直答は許されておりませぬ」
きっぱりと言い切られ、暁は黙るしかなかった。
そこへ母睦月が声をかけた。
「よい、直答を許す、華といったか、お前はこのかんざしを自分のモノだといったな。
それではこの花は何の花か申してみよ」
そう言われ、華は自信満々に答えた。
「桜です。あたしの大好きな桜の花です!!あたしの為に選んでくださったんです」
「余計なことはよい、そなたはこの花は桜だというのだな」
「はい」
「そうか・・・それではそなたを捕縛せねばならぬな」
「え??きゃああ!!」
睦月の合図で武人が華に縄をかけた。
「母上?いきなり何をなさるのですか!!」
「盗人をとらえさせたのだ」
「何を言っておられるのですか!、それは桜でしょう?」
「暁、そなた、その目で確認してみよ」
そう言われ、暁はかんざしを手に取った。
(桜じゃないか?花の先がとがっている?)
そう思った時、幼き頃の思い出がよみがえった。
「如月、そのかんざし可愛いな」
「暁様、母様が城にくるときにくださったのです」
「桜か、いいな」
「いいえ、これは桃の花です。花の先がとがっていますでしょ?だから桃です」
「ん~よくわからんな」
「ちょうどいま桜が咲き始めてますから、見比べてみましょう」
そう言って幼い二人は城内に咲き始めた桜の花とかんざしの花を比べ、桃と桜の花の違いに喜んでいたのだった。
(そうだ、このかんざしはあの時の・・・)
「あかつきさまぁああ、助けてください!!」
華が叫んでいるが、暁はうごけない。
かんざしは如月の物だと気が付いたからだ。
その様子に父母も如月も暁が見分けたことを知り、安堵した。




