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21 王子は王の話を聞く

本日2話目です。


 「まあ、そのような感じでな、私は如月に冷たい態度をとるようになってしまってな・・・。

当然周囲からも叱られたのだが、それもまた如月のせいだと思い込んでしまってな」


それからも城下町へのお忍びは続いた。

ある日、城から抜け出そうとしていた時、抜け道の近くに座って泣いている女中をみかけた。

「何を泣いておるのだ?」

そう尋ねると、彼女は叱られて泣いている、と答えた。

「あたし、一所懸命やってるんです、でも、遅いとか言われてしまって・・・」

「それは仕方ないのではないか?」

「いいえ、他のお女中には言わないのです。あたしだけ叱られてしまうのです」

そう言って泣きながら女中が訴える。

城下町におりるための衣装を着ているため、おそらく暁と気が付いていないのだろう、そう思い、女中の横に座るとその愚痴を聞いてやった。

しばらくその愚痴に付き合ってやると、女中は時間だからと言って立ち上がった。

「ありがとうございました、ちょっとすっきりしました」

「ならばよかった」

「また、愚痴を聞いてもらってもいいですか?」

そう聞かれて、「また会えたらな」と答えたのは、もう会うこともないだろうと思ったからだ。

城下町へ行くとき以外にここを通ることはないのだから。


だが、次のお忍びの時に、その女中はいた。

「あ、また会えてよかった~、あたし毎日ここに来てたんですよ」

そう言って笑った。

「毎日?暇なのか?」

「そんなわけないですよ。忙しいんです。でもまた会いたくて・・・。

また愚痴聞いてくれませんか?」

そう言って見上げる彼女をむげにもできず、暁はまた話を聞いてやった。

それからもお忍びで出ようとすると彼女が嬉しそうに待っていた。

暁も段々と彼女と話すのが楽しみになり、城下町に行くことは無くなった。


彼女の名前は華、御家人の娘らしい。

御家人というのは職に就いていない旗本で、町人よりも貧しい生活らしかった。

そんな彼女は伝手を使い、城の女中になれたのは幸運だっただろう。


そんなある日、華が悲しそうに言った。

「あたし、如月様から嫌われてるんです」

「どういうことだ?」

「年が近いので、如月様の御係になったのですが、何をしてもお気に召されないようで、毎日のように奥女中様から叱られてるんです」

「何故そんなに嫌われておる?何かしたのか?」

「いいえ、ただ、あたしが御家人の娘だと聞いてから態度が変わったように思います」

「なんだそれは・・・」

「如月様は大大名のお姫様ですから、武人の最下位の地位の御家人の娘はお気に召さないのでしょう」

「何たる傲慢だ!御家人も大事な家臣であるというのに」


それからの暁は、如月に対して、嫌味を言うようになった。

如月はいきなり嫌味を言われることに対して、戸惑っていた。

「暁様は一体何に対して怒っておられるのか」

「わかりませぬ。旗本も御家人も大切な家臣であるぞ、それをないがしろにするな、と言われても、姫様はその様にないがしろにしたことなどありませぬし」

「そうね、部屋子の中には町人出もおるし」

如月と奥女中達は、暁の言動に悩まされた。


華と暁は、華の宿下がりにあわせて城下町で待ち合わせをするようになった。

櫛やかんざしを買い与えたり、御家人の娘では食べられないような物を食したりした。


「その女中殿は、暁王の事を知らなかったのですか?」

クルスが、ふときいてみると、暁王は苦笑しながら、「私は知らないとおもっておったがな」 といった。

「どういうことですか?」

「華は、咲の近所に住んで居ったのだ。咲の所に通う私を見て、金持ちの旗本だと思ったそうだ。

衣装がどれほど古ぼけていても、他の持ち物や咲の店での金の使い方などを見てそう思い、私の後をつけて、城に戻る抜け道のあたりまでつけてきたそうだ。その後、城内で部屋子として雇われるように伝手を使い、私が暁だと知って近づいてきたのだよ」

「でも、部屋子ということは普段仕事があるのではないですか?」

「華という女は上昇するために、同僚の弱みを握り、それを使って自分の仕事をやらせておったそうだ。その時間を私と会う時間に使っていたのだから、女は怖いな」

そう言って如月を見るとあわてて、

「いや、あの女が怖いだけかもな」と訂正した。


「あのような女はどこにでもおりまする。男相手に可哀そうな自分を演じて見せ、男心を引き付けるのです。見る目のない男はそれに引っかかるのです。他愛もない。

そんな女の戯言を聞いただけで信じるなど、上に立つものとしてありえませぬな」

如月の辛らつな言葉に、クルス以外の全員が気まずそうな顔になった。


華にほだされてしまった愚かな暁王は、いずれ華を側室にしても良いと思い始めていた。

そして、とうとう自分の身分を明かしたのだ。

それを聞いた華は驚きながらも、嬉しい、と笑った。

これからは堂々と一緒になれますね、と。

その後、暁は爺やに華の側室入りを話した。

如月の所から離して、自分の側に置くように伝えたのだ。

如月にもそのように伝言を頼んだ。


そして伝言をした次の日、華が真っ青な顔をして暁を待っていた。

「どうしたのだ?」

「如月様が、あたしを首にするように言ったのです」

「何故だ!」

「あたしが如月様のお召し物を汚したと。それから如月様のかんざしを盗んだと・・・。

でもあたし、そんなことしてません。かんざしは暁様から買っていただいたものだし・・・。

あたしが側室になることが気に入らないのだと思います。

御家人の娘風情が、身の程を知れ、と。

そして、今すぐ出ていくようにと・・・・」

わあわあと泣く華を慰めながら、暁は如月への怒りを感じた。

そして、華を連れて、如月の元へと向かった。

こんな女に騙されるのか?とちょっと疑問に思いつつ書いてしまいました。

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