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20 王子と暁王


「アルベルト様たちにご迷惑をおかけして誠にすみませぬ」

如月妃が再度頭をさげた。

「いえ、まあ、熱かったですけど無事でしたし・・・」

「それに、到着された日にも不在で、きちんとご挨拶できなかったとか、それを聞いて私は恥ずかしゅうて恥ずかしゅうて・・・」

「は?それはそれはどういう意味ですか?到着した日にはちゃんとお目にかかったはずですが?」

アルベルトの言葉に、如月妃は暁王の方を向いてにらみつけた。

【どういうこと?何も聞いてないわ】

【いや、その・・ちょっと日付を間違えちまって、影に代役を・・・】

【!!!もう許せぬ、あれを持て】

如月妃が何か怒っているのは感じ取れた。


そして持ってこられたのは白くて長い紙を折りたたんだようなものだった。

それを手にした如月妃はスイ、と立ち上がり、アルベルト達に一礼をすると、その折りたたんだものを暁王の後頭部からスパーンと振り下ろした。

パーン、と良い音が響く。

【他国の賓客に対して何をしておるのじゃ、おぬしは!!

ようやく外交も安定してきておるというに!!

頼まれごと一つきちんとできぬとは、このた・わ・け!!!】

そう怒りながらスパーンスパーンと頭をはたく。

【すまんって】

暁王は抵抗もできず、ひたすら叩かれている。


「私たちは一体何を見せられているのだ?」

「タワケと聞こえましたが、カイ殿もあの時のネッパシに言ってませんでしたか?」

「止めてよいものか」「いや、怖すぎて止められないって」

アルベルト達はひそひそと話しているが、如月妃の怒りが恐ろしくて止めることもできずにいた。


ようやくスパーンという音が止まり、暁王が床に頭をこすりつけるようにしていた。

「誠に申し訳なかった。到着日を間違えておって、不在と知られぬように代役がたてられたのだ。

その後は勝手に外出した罰で謹慎させられておって・・・。

せっかくいらしたのだから仲良くしようと思って熱波師の真似事をしたのだが、かえって迷惑をかけてしまった。本当に申し訳なかった」


それで、あの代役は声を出すことができなかったのだ。

変に会話をしてしまえば、後から本人と会った時に違和感が出てしまう。

だから隣にいた者に返事をさせていたのだ。


「御台様、場所が整いましてござりまする」

そう言って女中が声をかけた。


「アルベルト様、皆さま、少し場所を変えましょう」

そう言われ、靴を履き、赤い布から出ると、案内されたのは小さな川と大きな石が置いてある庭だった。涼しい風が吹いていく。

そこには横長の机と椅子が置いてあり、そこに座るように促された。


やがて、ちょっとしょんぼりとした暁王と如月妃がやってきた。

「みっともないところをお見せしてしまった」

「・・・あ・・・まあ」

あいまいに返事をするしかなかったアルベルト達だった。


目の前に用意されたのは、茶色い飲み物。

先ほどとは違い、苦みもなくすっきりとした味わいだ。


落ち着いたところで、暁王が口を開いた。

「マニスタン国王からの依頼で、我々のなれそめをお話することになっておるのでな、話させてもらうが、わからぬところは聞いてくれ。文化の違いがあるからな」


東国は周囲を海に囲まれた国である。

当然だが、隣の国へ行くには船がいる。

だが、造船技術が発達するのはつい最近の事で、それまでは国内での自給自足が当たり前であった。

たまに難破した者や漂流者が来るため、多少は外部の国の事も知っていた。

先々代の王がまだ後を継ぐ前、外部の国にあこがれを持ち、国を挙げて造船の技術を開発したのだ。

やがて、船で海を渡り、他の国との交流が始まった。

言葉がわかり、対等に輸出入をするようになったのは先代の王の頃だ。

特殊な文化の東の国は、どの国でも歓迎された。

大陸の国々が平和で安定していたのも大きかった。

先代の王は世界会議にも出席し、他国の王たちと信頼関係を結ぶことにも成功した。


そして、そんな偉大な祖父と父の後継ぎとして、暁が生まれた。

早くから有力な大名の娘との縁談がなされ、それが現在の如月である。

幼い頃から決められた妻は、早くから城に連れてこられ、暁と共に育てられた。

やがて、15歳になった暁は元服し、公務を任されるようになった。

その時、視察で言った城下町が気に入り、どこからか服を調達して城の抜け道から度々遊びに行くようになった。

「その頃の私は、如月を妻とは思っておらず、妹のように思っておったのだ」

「ええ、私もあまりに幼き頃より共におりましたゆえ、兄のようにしか思えませなんだ」


城下町へ行くと、町の活気を感じ、友と呼べる町人もできた。

【面倒だったら俺んちに来いよ】

そう言われ、友の家に泊まることが増えていった。

暁は貧乏旗本の三男坊で気楽な身の上だ、と身分を偽っていた。

そして、町を歩き回っている時に出会ったのが、町人の娘だった。

名は咲といったそうだ。

茶や団子を売る茶店の看板娘で、破落戸に絡まれるところを助けたことで仲良くなった。


「団子というのは今お出しした菓子の事だ」

そう言って出された皿の上には木の枝のような細長い串にささる丸いものだ。

一つは香ばしい匂いがしている。

もう一つには真っ黒なものが付いている。

あんこ、というらしい。


咲と暁はお互い淡い恋心を持っていたのだが、身分違いの恋愛を危惧した咲の父が大工との縁談を取りまとめてしまい、咲は嫁に行ってしまった。お別れの挨拶もできなかったそうだ。

その頃の暁は如月に会っても、冷たい態度をとるようになっていた。

未来の妻となるはずの如月を見ると、ニコニコと笑い、くるくると働く咲とは違い、女中にかしずかれ、ひがな一日遊んでいるようにしか見えなかったのだ。


「幼き頃決められた縁談とはいえ、私は将来王の妻となるのです。所作を学び、外国との交流も増えてきた中で共通語の習得などが追加され、勉強漬けの日々だったんですがね。

私は息抜きの為に城下町へ降りることもできませなんだ」

そう苦笑する如月妃を見て、アルベルトはエレーナを思っていた。


幼き頃から決められた婚約者、彼女も日々王子妃教育の為に王宮に通っていた。

そして、学園での成績も常に上位だった。

側近たちの婚約者も同じだ。

それぞれの家にふさわしくあるように、とそれぞれの家の教育を頑張っていた。

自分たちだけが幼き頃から婚約者を決められて自由がないと思っていたが、彼女たちも同じだ、ということに改めて気づかされたのだった。

東国編が、妙に長くなってしまってます。


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