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19 王子とネッパシ


思わず膝をついてしまったアルベルト達。

魂が抜けたようになってしまった彼らを、カイやゼフ達が回収していった。


気が付くと、温泉につけられていた。

「あれ?」「ここ・・・」「驚きすぎて記憶にないな」「「「ああ」」」

そう言いながら、先ほど見た光景を思い出す。

そして、また見たい、と思った。


「あの、もし」

そう言って声をかけてきたのは、マスクをつけ、頭には布を巻き付け、見えるのは目だけという怪しげな男だった。

「何者だ!」

フリッツがそう言ってアルベルトを背中にかばうようにして立ち上がった。

「怪しいもんじゃありません。通りすがりの者です」

「そういうが、怪しさしか感じられないぞ?どうやって中まで入ってきた」

「いつものように仕事をしにきただけですよ」

「仕事?」

「はい、私の仕事場は蒸し風呂ですので」

「蒸し風呂、はまだ入っていなかったな」

「ええ、よくわからなかったので、まだですね」

アルベルトの言葉に、男は「ええ~」と大げさに驚いて見せた。


「蒸し風呂こそ東国の至宝。ぜひともおいでくださりませ」

「いや・・・」

断ろうとするのだが、男はなんだかんだと話術を駆使されて、蒸し風呂小屋へと連れていかれた。

「ようこそ蒸し風呂へ!」

そう言って男が小屋の中に案内をした。


「うわっ、すごい熱気だ」「熱いぞ」「蒸し蒸しする」「え?扉閉めるのか?」

騒ぐアルベルト達を布の敷いてあるベンチのような場所に座らせた。

「熱いっ」「汗がすごいんだが」「なんか石が置いてあるが、」「あれ、焼いてないか?」

「はいはい、大丈夫ですよ」

男は楽しそうにしている。


「それで、ここでの仕事とはなんだ?」

クルスの問いに、男は「熱波師」と答えた。

「ネッパシ?」

「はい、今からそれをご披露いたします」

そう言って男は大きな布を取り出した。

そして、横に置いてあった桶の水を焼いている石に思いっきりかけた。

ものすごい勢いで水蒸気が上がる。

それを男が布をバタバタさせるものだから、暑くてたまらない。

立ち込める水蒸気と、それをあおる男のせいで蒸し風呂の中は異常な高温となっていく。

視界が揺らめき、身体から力が抜けるのだが、暑すぎて頭が回らない

「さあさあ、まだまだあおぎますよぉ」


そう言って喜んでいる男の後ろにいきなり現れたカイ。

「何やってんですか!!殺す気ですか!!」そう言って男の首をつまみ上げると外へと連れて行った。

アルベルト達もそろって蒸し風呂から救出された。

急激にあげられた温度に、身体が干からびる寸前だったようだ。


付き人達から水を渡され、驚くほどごくごくと飲んだ。

「どんどん飲んでください」

そう言われ、木のベンチに寝かされ、全身を扇いでもらいながら満足するまで水を飲むと、ようやく視界が戻ってきた。


熱波師と名乗った男は、地面に正座させられていた。

【本当にろくでもない事ばかりやらかしますね、何考えてんですか】

【いや、仲良くなりたいな、と思って・・・】

【普通に誘えばいいでしょうが】

【なんか、身分とか関係なく仲良くなりたいかな~なんて】

それを聞いたカイが一言、【このたわけがあああああああ!!】と叫んだ。

会話は東国の言葉なのでアルベルト達はあまりわからなかったが、カイがかなり怒っていることは

見ているだけでわかった。


落ち着いたアルベルト達は部屋にもどり、一息ついていた。

「すごい一日だったな」「ああ、なんか疲れたよ」「精神的にも、な」

「あの怒られてたネッパシとやらは結局何だったんだ?」

「何だろうね」「怪しかったけど、カイ殿たちが捕まえてなかったのだから、敵ではないだろうな」

「で、何者なんだろう?」


熱波師と名乗った男は、その後カイに引きずられるようにどこかへ連れていかれていたようだった。


2日後、暁王からお茶の誘いを受けた。

場所は庭園らしい。

案内されていくと、到着した時に見た、広い庭園についた。

そこには赤い布が一面に敷かれている。

赤い布の真ん中あたりに、男性と女性が座っている。

「あちらに暁王と如月妃がお待ちしておりまする。履物を脱いでお上がりくださりませ」

そう言われ、暁王の所に近づいていくと、初めの挨拶の時とは違い、にこやかに笑い、こちらに手を振ってきた。


「あれ、同じ人物でいいんだよな?」「多分・・・」

そう囁き合いながら近くまで行くと、用意されていた場所には椅子が置いてあった。

そのまま椅子に腰かけると、女性が深々と頭をさげた。

「お初にお目にかかりまする、私は如月と申しまする」

「マニスタン国のアルベルトと申します」

お互いに挨拶を交わすと、アルベルト達の前に小さな机が置かれた。

小さな花のような形のものがそれぞれ置かれていた。

「そちらは我が国のお菓子にござりまする。添えてあります楊枝にてお召し上がりくださいませ」

そう言われてみると、黒い木の枝のようなものが置かれている。

恐る恐る楊枝と呼ばれた木の枝で小さな花を刺してみると、やわらかい感触がした。

小さく一口食べてみると、口の中で溶けるように無くなった。

残されたのはさわやかな甘み。


「お口に会いましたでしょうか?」

「はい、初めての味わいです。美味しいですね」

「まあ、よかったです。それではお茶を点てまする。しばしお待ちくださりませ」

如月妃はそう言って、後ろに置いてある大きなツボのような物に向かい、何やら作業をしている。

踊るような動きで小さな布をさばき、カシャカシャと何かをかき混ぜるようにしている。

出来上がった大きな器を、側にいた暁王が運んでくる。

器の中は緑色をしていた。

「そのままお飲みくださりませ」

そういわれ、両手で持ちあげ、飲んでみると、

「!!!!!」

苦味がきた。

他の皆も渋い顔をしている。


「ふふふ、慣れていないと苦いかもしれませぬ」

そう言って如月妃は笑った。

横にいる暁王もニコニコしている。


そして、ようやく暁王が口を開いた。

「先日はすまなかった」

「どういう意味でしょうか」

「そなたたちと仲ようしたくて、ついやりすぎた」

「??」

「我があの時の熱波師だ」

「「「「ええええええ」」」」

「いや~見ている時は簡単そうに見えたからのう、実際は難しかったわ」

あはは、笑いながら頭をかく暁王を、如月妃は横目で呆れたように見ていた。




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