17 王子が温泉
暁王と直接話すことができない、そのことにアルベルトは衝撃を受けた。
これも東国の文化なのだろうか・・・。
何となく、見えない壁を作られたような、そんな気がして少し嫌な気分になった。
そのまま、マニスタン国からの書状や贈り物などを渡していく。
その後、アルベルトが立ち上がることなく謁見が終わった。
暁王は横の扉を通って行った。
「それではアルベルト様たちをお部屋にご案内いたしまする」
タツミの一声で、後ろから人が入ってきてお辞儀をした。
「わたくしはお世話を仰せつかりましたカイと申しまする。
滞在中は遠慮なく何でもお申し付けくださりませ」
カイと名乗る男はアルベルト達を部屋へと案内した。
アルベルト達に与えられた部屋は、大きな広間になっており、どうやらそこでクルスたち側近たちは休むことになっているようだ。
アルベルトだけは隣の部屋を用意されているらしい。
「アルベルト様のお部屋には鍵がかけられるようになっておりまする。
安全のため、お休みの際にはしっかりとご施錠ください」
「我らが交代で見張りをするが?」
バッツがそういうと、カイはにやっと笑みを浮かべ、
「我が東国はマニスタン国とは武術も体術も違いまする。
まずは御身をしっかりと守られるように、夜はしっかりお休みされた方がよろしいかと」
そうきっぱりといった。
そして、後ろに控えるゼフをちらりと見ると、されに笑みを深くして頷きながら言った。
「あなた様がいらっしゃりますしね」
どうやらゼフが暗部の者だと看破したようだ。
(東国、侮れないな)ゼフはそう思い、カイに対してしっかりと頷いた。
ゼフが暗部の者だとは知らないアルベルト達は、どういう意味なのか分からず頭をかしげていた。
「まさか、直接話すこともできないとは」「ああ、驚いた」
「なんだか信用されていないようでちょっと嫌な気分になるな」「何てこと言うんだ!バッツ」
「ここは他国だ、それぞれの国で文化や風習の違いはあるだろう」
「そうだぞ、そんな事を言って外交問題になったらどうするんだ」
皆からそうたしなめられ、バッツは流石に反省していた。
その後、東国の不思議な文化を話していると、扉の外から声がかかった。
「皆さま、これより湯殿へとご案内いたしまする」
「湯殿?」
「皆様のお国で言うところのお風呂となりまする」
「それはありがたいな、船上では湯が使えなかったからな」
オズワルドがそういうと、
「海の上では水が命綱だと言っていたからな」
「では、案内を頼む」
そう言って案内役のカイについていくと、小さな部屋に案内された。
「ここは・・・?」
「こちらで着替えていただきまする」
そう言ってカイが手を叩くと、数人が部屋に入ってきた。
そのまま彼らの手によって、アルベルト達は腰布をまとった姿になった。
「本来は裸で入るのですが、マニスタン国ではそのような風習がないと伺っておりまする。
この腰布は特別に作らせましたものです。そのまま湯に入っていただけまする」
それでも上半身は裸だ。
騎士でなければこのような裸をお互いに見せることはないだろう。
アルベルト達は何となく、両手を交差させて中に入って行った。
「これは・・・外、なのか?」
「そうみたいですね」
「すごい湯気だな」
見たこともない光景に、アルベルト達は圧倒された。
広々とした庭のような空間に、ところどころに水たまりのように見える場所がある。
そこからは湯気が上がっているため、おそらくそれが風呂なのだろう。
あっけにとられていると、
「こちらへお座りくだされ」
そう言って木でできた小さめの椅子に座らされた。
「お体をお洗い致しまする」
そう言われ、言われるがまま手をあげたり下げたり、頭を洗われたり、少しチクチクする布で背中をこすられた。
(洗ってもらうだけで疲れた気がする・・)アルベルトはそう思っていた。
ようやく風呂に案内された。
「そのままお入りくだされ、他にもいろんな趣向の湯殿がありますゆえ、ゆるりとお楽しみくだされ」
6人はまず目の前の風呂と言われたところに恐る恐る入った。
「おお~」「うおー」「あー」
思わず漏れた声は感嘆の声だった。
肩までしっかりとつかると、身体が解放されたような、ゆったりした気分になる。
しばらくそこを楽しんだ後、6人は他の風呂にそれぞれ挑戦していった。
良い匂いのする木の風呂、大きな花瓶のような形の風呂、座ると上から湯が滝のように落ちてくる風呂、石に頭を乗せて寝そべって入る風呂、何故かプチプチした泡が出る風呂、とにかくいろんな種類の風呂に、アルベルト達ははしゃぎまわった。
そんなアルベルト達を観ていたゼフは、背後に気配をかんじたが、あえて気が付かないふりをした。
「さすがですなぁ」
「カイ殿」
「ふふふ、裸になればただの人ですな」
「まだヒヨコですから。カイ殿こそ、湯殿周りにどれほどの人数を割り振っておられるのか」
「ふふふ」
「お互いにできる範囲で技術協力しませんか?」
「あれ?それをマニスタン側から提案してくれるの?」
「もちろんです」
2人はニヤリとわらい、お互いに握手をして別れた。




