15 王子の出立
アルベルト達は短い留学期間を終え、次の国へと出立することになった。
壮行会、とでもいうのだろうか、ワシード王は晩餐会を準備してくれた。
アルベルト達と交流のあった貴族の子女が数名、クロードの元側近達も呼ばれていた。
クロードは現在身分が平民の為出席は許されていない。
ワシード王とマーガレット妃はアルベルトに声をかけた。
「わが国はどうだったかな?」
「はい、我が国と同じようで、違う部分もあるのだということがわかりました。
それに、クロード殿の事も。平等という言葉についても学ばせてもらいました」
「そうか・・・、学びになったのならよかった。
ロベルト王からは感謝の手紙とお礼の品々をいただいた。
国へ戻られたら礼を伝えておいてくれ」
「わかりました、戻るのはもう少し後になりますが、必ず伝えます」
「あら、まだ旅は続くのだったかしら?」
「はい、次は海を越えて東国に参ります」
「そうだったわね、良い旅になることを祈っているわ」
「ありがとうございます」
アルベルトはそう言って頭をさげた。
晩餐会が終わり、まだ少し気持ちが高揚していたアルベルト達は庭園を散策することにした。
「クロード殿に最後に会って話したかったな」
「決められた旅が終わりましたら、今一度ブルッスタン国に立ち寄れないか、マニスタンに確認をしておきましょう」
オズワルドの提案にアルベルトは破顔した。
「それはいいな。クロード殿には頑張ってほしいからな」
「そうですね、よき友人がいるのですから、きっと大丈夫ですよ」
「そうですよ、それにしても、あの友人を名乗っていた取り巻き達は許せませんが・・・」
「あのままなんだろうか、あの女生徒もひどい態度だったし・・・。クロード様ばかりが割を食ったような気がしますし、なんだかもやもやしますね」
アルベルト達が気分を盛り下げて沈黙をしていると、クロードの元側近たちが近寄ってきた。
「アルベルト殿下、皆さま、お世話になりました」
「あ、いや、此方こそ世話になった」
「先ほどクロード様のお話が聞こえたようですが?」
「ああ、聞こえていたのか。クロード殿がバツを受けたのに、取り巻き達には何もお咎めがないのだな、とちょっと思ったのだ」
「そうでしたか」
側近たちはそう言って少し小声で話をすると頷き合った。
「実は、陛下からはクロード様は時機を見て王籍に戻すつもりであることを聞いております。
もちろん、内々の話ですので、外部には漏らされませんように」
「もちろんだ、だが、そんな重要事項を話しても良かったのか?」
「はい、陛下たちからは、アルベルト殿下がクロード様の事を気にされているようだったら伝えても良いと言われておりますので」
「それを聞いて安心したよ」
「もう一つ、現在学院内ではクロード様は平民の扱いを受けておられます。
ですが、それをそのまま受け取り、クロード様を侮るような者がいれば、クロード様復権の際にしかるべき処罰が下されることになっています」
「そうなのか?」
「はい、学院外にクロード様の王籍剥奪という通達はしておりません。
先を見る力がある者は、それを踏まえて自分の子供にそのように伝えるでしょう。
平民も同じです。貴族ときちんとした付き合いを心がけていれば、おのずと情報は教えてもらえます。
それができていない者、つまり、次代において先を見ることができない者たちの選別ができる、ということです」
アルベルト達はそれを聞いて、身が引き締まる思いがした。
特にアルベルトは同じ王族である。
一つの事柄から真正面を見ていただけの自分ではそこまでの考えに至らないだろうことは容易に想像できた。
王族としての自分がまだまだ未熟である、とさらに考えさせられた出来事だった。
そしてアルベルト達はブルッスタン国を出立した。
次の国への移動は船だ。
港まで馬車で移動し、用意された船に、全員が生まれて初めての乗船を果たした。




