14 王子の知らない婚約者
少し修正しました。
アルベルトがクロード達の友情に感激している頃、マニスタン国の学園では、エリザベスがエレーナに声をかけていた。
「ねえ、ちょっと」
とんでもない話しかけに、エレーナはエリザベスを見ようともせず、歩いて行ってしまった。
「ちょっとあんた、あたしが声をかけてるんだから立ち止まりなさいよ!」
そう怒鳴りつけたが、エレーナは振り返ることもしなかった。
アルベルト達が出国してからのエリザベスは、他の高位貴族令息に媚を売っていたのだが、思っていたより相手にされていない。
もちろん、何か欲しいものをねだったりするのだが、貢いでくれるのは下位貴族ばかりで、そんなに高いものを買ってはくれなった。
アルベルト達が学園にいた頃は、エリザベスもそんなに高いものをねだるような事はまだしておらず、いずれは買ってもらおうと狙っていたのだ。
アルベルト達もエリザベスと出会ってまだ日も浅く、町へと出かけたのも1,2回。
それも「下町を案内してあげる」という名目だったので、食べ物を買ってもらうくらいしかしていなかった。
それに加え、サロンで皆でお茶をするのだが、待ち合わせはサロン前にしていたため、他の生徒たちの目に留まることもなく、アルベルト達とエリザベスの関係を知る者は少なかった。
以前、リザベラのお茶会や寮でアルベルトの愛称呼びを連呼していたのだが、『アル』というだけで、王子であることを言わなかったため、王子の愛称だとは誰も思っていなかったのである。
ただ、「婚約を破棄したいって言ってたしぃ」 などと言っていたため、婚約者のいる男子に付きまとっているのだろう、ということは認識されていた。
女子寮やお茶会での出来事だったのだが、エリザベスの素行があまりよろしくない事は、女生徒たちからそれぞれの婚約者や家族にも伝わり、現在は要注意人物として見られていた。
それに気が付いていないエリザベスは、男子生徒、教師にも媚をうり、一部の生徒達からはちやほやされる状況になっていた。
だが、アルベルトが王子だと知っているエリザベスは、学園に来なくなった彼らを必死で探していた。
そして、アルベルトの婚約者がエレーナという名前なのは知っていたが、顔を見たことがなかったため、名前からエレーナを特定したようだ。
顔を知ってから、彼女はエレーナに声をかけるようになった。
エレーナに声をかける。
だが一切の返事もなく、無視される。
その繰り返し。
「何よ、あの女!すましちゃって。
あたしが声をかけてんだから、返事くらいしてもいいじゃない」
食堂でお茶をしながら、自分の取り巻きの男子生徒に愚痴をこぼした。
「あの女って誰の事?」
「エレーナって女よ」
「まさかと思うけど、エレーナ=ハイルドバルド公爵令嬢様の事じゃないよね?」
「あ、それよ」
「「「「え!」」」」
「公爵令嬢に対してそんな態度はどうかと思うけど・・・」
「なんでよ?学園内は平等なんでしょ?だったらいいじゃない」
エリザベスの言葉に取り巻きの男子生徒たちは顔色を悪くした。
彼らの中には平民もいるが、下位貴族もいる。
下位貴族とはいえ、れっきとした貴族である。
学園内は平等とは言え、それは卒業後の社交界での顔を繋ぎ、人脈を広げるための建前であることはよく知っている。
たとえ嫡男でなくとも、配下や従者として雇ってもらえる可能性もあるのだ。
平等だからと言って、好き勝手にしていいわけでは無い事を小さい頃から教育されて学園に入学してくるのだ。
それなのに、エリザベスの態度もマナーも全くいただけない。
彼らはエリザベスと距離を置こうと心に決めた。
そんな下位貴族令息の様子に、平民の男子生徒も危機感を感じ、同じく距離を置くことに決めた。
そんな彼らの変化に気が付くこともなく、エリザベスは今日もエレーナに突撃をするのだった。
「ちょっと、今日こそあたしの話をききなさいよ」
エリザベスはとうとうエレーナの前に両手を広げて立ちふさがった。
いわゆる通せんぼである。
もちろんエレーナは一人ではない。
学友もいれば、女性の護衛もついている。
護衛はすかさずエレーナをかばうようにして前に立ち、背中にエレーナ達を隠した。
「ちょっとどきなさいよ。あたしはエレーナに用があるの!」
「お前、無礼にもほどがあるぞ。お嬢様を呼び捨てにするなんて」
「うるさいわね、学園内は平等なんでしょ?だったらいいじゃない」
「お前、頭大丈夫なのか?」
「失礼ね、あんた護衛なんでしょ?引っ込んでてよ。
ちょっとエレーナ、無視してないで何とかしてよ」
「エレーナ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ」
そう言ってにっこりと微笑む。
「ちょっと、何笑ってんのよ、こっちを向きなさいよ」
目の前にいても無視をされ、エリザベスは激昂した。
しかし、護衛に阻まれ、近寄ることもできない。
仕方がないので大声で叫び始めた。
同じ学園の生徒ということもあり、護衛が手を出しかねている様子に、とうとうエレーナが声をかけた。
「ねえ貴女、少し口を閉じていただける?」
その声は普段のおっとりとしたものではなく、冷たく、威圧を感じさせるものだった。
エリザベスも少し驚き、口を閉じた。
「わたくし、あなたの事は存じ上げておりませんわ」
「あたしはえり「興味もありませんわ」」
何とか自己紹介をしようとしたそれにかぶせるように、エレーナはバッサリと言い切った。
「な・・ひど」
「貴女、道端の石ころに興味はおありになる?」
「石ころ?」
「わたくしはまったく興味がないわ。じっと眺めたり、ましてや手に取ったりもしない。
ただ単にそこにあるだけの石ころには興味がないの」
淡々と話すエレーナだったが、そこには冷たい冷気が漂うように、エリザベスはなぜか恐怖を感じるのだった。
「そんな石ころが、もしもわたくしの通る道に転がってきたら、もちろん排除いたしますわ」
そう言ってにっこり微笑むエレーナに、エリザベスは立っていられなかった。
座り込んだエリザベスを気遣うこともなく、エレーナ達は通り過ぎていった。
エレーナ=ハイルドバルド、公爵家の令嬢で、アルベルトの婚約者でもある。
彼女はいつもにこやかに微笑み、おっとりした様子なのだが、王子妃としてのプライドを持ち、立場をわきまえ、いずれ王妃となるべく教育を受けているのである。
当然、エリザベス程度では相手にもならない。
もちろんエレーナはエリザベスの存在を把握しており、現在のアルベルトの様子もしっかり確認済みなのである。
だが、今日の出来事は、公爵家からフリンク男爵家へ抗議文が出され、エリザベスの処遇を巡って男爵家では現男爵の排除を加速させることになったのである。
絶対零度のまなざし・・・




