12 王子と茶会
本日2話投稿です
学園に通うようになってから、毎日のようにクロードと取り巻き達の姿を目にするようになった。
相変わらず側近たちは側によることができずにいた。
最近では公務もおろそかにして、取り巻き達と町へ遊びに行っているようだった。
アルベルトも何度か注意をしたのだが、
「平民の事を何も知らない奴が偉そうに」と言って、クロードは聞く耳を持たなかった。
そんなある日、アルベルト達は王妃からお茶会に誘われた。
美しい庭園が見える準備された場所には、国王と王妃、そして一人の少女と側近たちが待っていた。
「お招きありがとうございます。あの、クロード殿は?」
通常であればいるはずのクロードはいない。
「誘っていないわ」
王妃があっさりと返事を返す。
アルベルト達はクロードの置かれた状況を察し、そのまま無言で席についた。
「アルベルト殿、こちらはイザベラ=ライワット辺境伯令嬢だ。
クロードの婚約者だった、昨日までは」
「!!」
「イザベラ=ライワットです。アルベルト殿下の事は学院で何度かお見かけいたしました。
紹介もなくお話しすることもできず、本日まで失礼いたしました」
少女はそう言ってカーテシーをした。
「いえ、楽にしてください、ライワット嬢。私も何も知らず失礼した」
「本来なら留学した日にあの子が紹介するべきなのに、アルベルト様、本当に息子が失礼ばかりしてしまって」
「いえ、あー、ははは」
アルベルトは何と言っていいのかわからず、愛想笑いでごまかした。
「今日のお茶会はね、婚約者だったイザベラ嬢と側近だった皆を慰労するためなの。他国とはいえ貴方も王族の一員だし、一緒にねぎらってもらおうと思ってね」
そう言って王妃は扇で顔を隠して微笑んでいるようだったが、おそらくマニスタン国から頼まれていたからだろう。
その後しばらくは側近同士でそれぞれ話が盛り上がったようだった。
アルベルトの席は王族席だったため、ワシード王とマーガレット妃の質問にぼつぼつと答えるくらいしかできなかった。
それでもイザベラが学院の話題を振ってくれたりして、何とか場がしらけるようなことはなかった。
しばらくして、イザベラと側近たちは退出していった。
もちろんクルスたちアルベルトの側近もだ、ここからはクロードの処遇について話すのだろう。
アルベルトは腹に力を入れて姿勢を正した。
「アルベルト殿、クロードの振る舞いを見てどう思った?」
「はい、私の自国での振る舞いを反省いたしました」
「そうか、第三者から見た自分はいかがだった?」
「恥ずかしい・・です。何をしていたのかと」
「ふむ、ロベルトから手紙をもらっていたがまだ初期症状だったらしいからな」
「初期、症状?」
「いや、此方の話だ。
クロードは明日から平民として生きてもらうことになった」
「平民!ということは王族籍を抜くということですか?それは流石に・・」
「やりすぎだと思うか?」
「正直、はい」
「だが、クロードが学院で「平等であれ」と貴族である側近を遠ざけ、平民と共に過ごす姿は、王制への批判ともとれる。
他の貴族からも、王族は貴族と平民を同列に扱うのか、と苦情も来ている。
下位貴族の中には、王制を廃止して共和制にしたらよいかも、などという話すら出ている。
王族の行為はその一挙一動によって与える影響が大きすぎる。
国内での分裂を避けるためにはクロードが平民として生きれば済む、とは思わないか?」
アルベルトも王族の一員である。
ワシード王の言うことも理解はできるのだが、心情はクロードを助けたい、と思ってしまう。
その思いが表情に出てしまっていたのだろう。
ワシード王はふっと笑うと
「ま、成人していれば、そうなるという話だよ」と言った。
「どういうことですか?」
「今話したことはクロードがこのまま学院で『平等』を貫き続けた場合の始末だよ。
なんせ、『平等』を言い出したのは今年に入ってからだからな」
「まだライワット辺境伯からの苦情と、側近の子たちの家からの陳情、くらいだな」
「そうなんですか」
「だが、王制を覆そうという輩がいるのも本当だ。不穏の目は早めに潰しておかないといけない。
我が国が内乱を起こせば、当然マニスタン国にも影響が出てしまうだろう。
それはわかるかな?」
「はい」
「本当の平等とはどんなものか、身を以て体験してもらうためだ。
クロードがいろいろ言ってくると思うが、黙殺してくれてもいいし、手助けしてもいい。
アルベルト殿の考えに任せよう」
「わかりました」
「王子の身分じゃなくてもあの取り巻きや男爵令嬢は一緒にいてくれるかしらね」
王妃がそうつぶやいた言葉が、やけに耳に残った。
次の日から、クロードの姿は王宮から消えた。
強制的に寮生活になったらしい。
当然、平民と同じ部屋である。
「俺は王子だぞ?なんでこんな部屋なんだ!!」
「あなたは王子という身分を剥奪されました(仮ですけどね)」
「なに!!」
「本日から平民枠での在籍となります。
そうそう、平民枠で奨学金をもらえない場合は、朝と晩は食堂で仕事をしてもらいます」
「父上と母上に会わせろ。こんな事許すはずがない、何かの間違いだ」
「平民が王族に簡単に会えるわけないでしょう。よかったですね。あなたのお友達と同じ身分、同じ境遇になれて、これで『平等』ですよ」
学院の事務員にそう言われ、クロードは言葉を失った。
当然だが、今までいた執事やメイドはいない。
洗濯は袋に詰めて廊下に出せば洗ってもらえるが、着替えや部屋の簡単な掃除は自分でやらなければならない。
当然、やった事もないクロードは取り巻き達を頼ったのだが、面倒そうに断られた。
呆然としたクロードを見かねて、隣の部屋の生徒が教えてくれた。
その後も、食堂での仕事も全くできず、怒られてばかり。
だが、授業にも出なければならない。
休憩時にサロンを使おうとしたが、もちろん使用できない。
ついてきたマーリアは口をとがらせてクロードに文句を言った。
「どういうことよ。王子なんでしょ?早く中に入れるように命令しなさいよ」
「いや、今は平民として・・「何ですって!王子じゃなくなったの?」」
「そう、みたいだ・・」
「そう」
「でも、学院では皆平等なんだし、サロンは使えないけど、食堂とかですごせば」
「いやよ。王子じゃなかったらあんたと一緒にいる意味ないじゃない」
マーリアの言葉にクロードは驚いていた。
「学院内は平等なのだから、仲良くしようっていったじゃないか」
「それはあんたが王子だったからよ。サロンを使ったり、馬車で町に行ったり、町でも好きなものおごってくれたでしょ?」
「友達だからじゃないのか?」
「馬鹿ねえ、金も地位もないんじゃあんたと一緒にいる意味ないじゃない」
「そんな」
「今までありがとね。あ~あ、次の優良物件見つけないと」
サロンの中でこのやり取りを聞いていたアルベルト達は顔を見合わせてため息をついた。
「一緒にいる意味がないって」「2回言ったな」「彼女にとって大事な事なんだろうな」
「ひどいな」「クロード殿下・・・気の毒すぎる」
がっくりと膝をつき、うなだれているクロードの姿に、全員が心を痛めた。
だが、アルベルトはそんなクロードをサロンに入れよう、とは言わなかった。
取り巻き少女の名前が初めて出ました




