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10 王子の留学


 「ようこそブルッスタン国へ、顔をあげてくれ」

そう言って王と王妃がアルベルト達を謁見の間で声をかけた。


「ワシード国王陛下とマーガレット妃殿下には、私たちの滞在許可をいただき、感謝いたします」

「堅苦しい挨拶はもうよい。父君、ロベルト殿はお元気か?」

「はい、健康に問題もなく」

「それはなによりだ」


ワシード王はアルベルトの父ロベルトと同年代であり、ともにお互いの国に留学をしたこともある仲だと聞いている。

 家族での交流の機会も多く、アルベルトにとってはあまり緊張を強いられない相手であった。


「アルベルト殿、明後日からブルッスタンの貴族学院への短期留学をしてもらう」

「はい、聞いております」

「クロードがいる学年は一つ下になるが、同じクラスの方が都合がいいのでな。

 一つ下だが、復習の機会だと思って一緒に学んでくれ」

「ありがとうございます」

「この後はクロードから色々聞くといい」

「クロードも貴方に会うのを楽しみにしていたわ。

何か困ったことがあればあの子に言ってくれれば大丈夫よ」

王妃がにっこり笑ってそう言うと、アルベルト以外の面々は困惑したような顔をしていた。


「王妃殿下、普通な王妃様だったな」

準備された部屋に通された後、バッツがポツリと漏らした。

「あれが当たり前じゃないのか?トリニスタン国が異常・・・ちょっと変わっていたんだよ」

オズワルドが正直にも異常などと言いかけて、言葉を変えた。

「あれが王妃の姿なんだよな」

アルベルトは自分の母親を思い出していた。

今日のマーガレット妃と同じように、謁見の間で見せる姿は凛としていた。

トリニスタン国のロイド王の言葉が胸に響いた。


次の日、学院への留学の話をするためにクロードがやってきた。

「久しぶりだな、アルベルト」

「ああ、クロードも元気そうだな」

「短期とはいえ、同じ学院に通えるなんて、面白いな」

「よろしく頼むよ」

その後はクロードの側近達とクルスたち側近たちがそれぞれ挨拶を交わした。


「マニスタン国とそんなに変わらないと思うんだ。父上が留学していた時の事も聞いてみたんだが、多少のカリキュラムの違いくらいで、勉強の質などは変わりなかったそうだから」

「へー、私は父上からそんな話は聞いたことがなかったな」

「アルベルトが来なかったら俺もそんな事知らないままだったさ」

アルベルトはクロードの言葉使いに違和感を感じた。

「クロード、そんな話し方だったか?」

「ん?変か?」

「変というか、貴族らしくないというか・・・」

「そうか、貴族らしくないか」

なぜかクロードは嬉しそうだった。


その後も学院での予定などを話したが、クロードへの違和感はそのまま残った。


 違和感の正体がわかったのは学院に通うようになってからだった。


「クロードぉ、おはよう」

「ああ、おはよう」

「おいクロード、一緒にいるのは誰だよ」

「紹介してよぅ」

「ああ、マニスタン国からの留学生だよ」

学院に到着したアルベルト達を待っていたのは、ぞんざいな口調の男子生徒とひとりの女生徒だった。


 王族であるクロードの肩を叩き、口調もなれなれしい。

驚いて周囲を見ると、側近達も護衛達も苦い顔をしていた。

 「どうなってるんだ?」

アルベルト達が驚いている間に、クロードは「ついて来いよ」と言って歩き出した。

 仕方なくクロードの後をついていくが、クロードと軽口をたたき合う男子生徒と、クロードの腕に絡みつきながら歩く女子生徒、その姿は気持ちのいいものではなかった。


 クルスはそっと後ろを歩いている側近たちの輪に交じり、何か話をしていた。

それに気が付いて、カルーセルも同じように動いた。

護衛のフリッツは、自分も後ろに行く前にそっとジャンに話してからさがっていった。

本来は護衛のバッツに話すべきだったのだが、あまり気が利かないバッツでは、クロード達に気づかれてしまうので、ジャンに話したのだった。


 マニスタン国と同じように、王族が使用できるサロンに入ると、クロードの周囲にいた男子生徒たちは慣れたように椅子に座った。

 客人であるアルベルトに気を遣う様子もない。

 クロードはそんな彼らに何も言わず、アルベルトに向かって 「そこに適当に座れよ」 といった。


サロンの執事や侍女達は申し訳なさそうな顔で急いで席を準備した。

その間にも、サロンの侍女たちに用意させたお茶や菓子を音を立てながら飲食するクロードの取り巻き達。クロードの横に座る女生徒も、何故かクロードにベタベタとしながらお茶を飲んでいた。

そんな場所の居心地の悪さを感じながら、アルベルトは腰をおろした。


「みんな、マニスタン国からの留学生アルベルトだ。よろしくな」

クロードの雑な紹介に驚きあきれた。

 

「へー、マニスタン国からか、よろしくな」「アルベルトっていうのか、よろしくな」

「俺たちはクロードの親友だ」「そうそう、アルベルトも仲良くやろうぜ」

「クロードの奴はさ、王子なのにすげーいい奴なんだ」

「ねえねえ、アルベルトって呼んでいい?」

口々に騒ぐ彼らを、クロードは嬉しそうに見ていた。


「アルベルト様、学院長への挨拶へ行かなければ」

カルーセルがそういってサロンの外へと連れ出してくれた。


 「助かったよ、クロードはどうなってるんだ?」

「それについては後で説明いたします。まずは学院長へ挨拶をしましょう」

「ああ」


 学院長室へ入ると、学院長と数人の教師と思われる男性がいた。

「アルベルト殿下をはじめ、皆様の学院への留学を歓迎いたします」

「ありがとうございます」

「担任の教師と、指導主任、それから護衛を担当する教師です」

「よろしくお願いします」

「護衛はクロード殿の護衛もいらっしゃるのですが、少し過剰かと・・・」

アルベルトがそういうと、学院長は苦笑しながらおしえてくれた。


「現在、クロード殿下の周囲には平民と下位貴族が取り巻きとして側に侍っています。

護衛や側近の方たちは遠ざけられておりますので、安全の為にも騎士科の教師ですが、交代で護衛として側に控えさせていただきます」

「殿下、ここは学院長のご配慮をありがたく受け取ってください」

クルスが小声でそう伝えたため、アルベルトは学院長の提案を受け入れた。

 護衛とはいえ、あまり大事にならないように守れる範囲で距離を取ってくれる、とのことだった。


「クルス、説明をしてもらえるか?」

アルベルトに言われ、さっそく護衛の教師に食堂の王族専用席まで案内してもらい、そこで話を聞くことになった。







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