おしまい
「何かすみません」
送るよ、と家を出た僕に彼女は謝った
「いや…」
僕は思わず呟いたが、まさか母が気に入るなんて思ってもみなかった
「車でもいい? ちょっと海が見たいんだ」
ほんとやり切れなくて、彼女を少し困らせたくてわざと提案する
彼女は予想通り困った顔をしながらも、いいですよと頷いた
僕たちは車で、初めて彼女を見た海まで走った
走っている間、どちらも一言も喋らなかった
近くにあるホテルに車を停めたときも、何も言わないで僕についてきた
少し歩くとすぐに海が見える
僕は後でコーヒーでも飲んで落ち着いてから帰ろうと思った
外に出て、海のすぐそばの手すりに身体を預けると、彼女も同じように隣に立った
風になびく髪を抑えて向こう岸を見やり、ふぅと息を吐く
「何だか泣きそうな気分です」
それは僕も同じだと思った
「誰かお好きな方がいらっしゃるんですか?」
俯いている僕に、重ねて彼女が聞く
いや…僕は反射的に顔を上げて答えていた
彼女はそれを聞いて不思議そうに首を傾げる
「でもいつかは結婚したいんですよね、家柄でなく、自分が本当に好きなお相手と…」
まぁ確かに、そうでなきゃ頼んだ意味もない
僕はそれは誰だろうかと考えた
けれど今の僕に寄ってくるのは、華やかで自信のある女性ばかりで、家庭を築くイメージは湧かなかった
もう、いっそこの子でもいいのかもなぁ…とぼんやりと彼女を見やる
「今、お付き合いしてる人とかいるの?」
何となくそう聞くと、いいえと答える
「まだ引きずってるんですかね、ずっとそんな気分になれなくて」
「分かる」
もうほんと、それならいっそこの子だっていいじゃないかと思う
「ねぇ良かったら、少し付き合ってみない?」
彼女は笑っていいですよ、と言った
「リハビリになるかもしれませんし」
あり得ない出会いを書きたかったので、ここで終わりです
ありがとうございました